スラッガー

小森 輝

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スラッガー 21

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 楽しい時間と言う物は、退屈な時間よりも短く感じるものだ。それはおそらく、思考時間が関係しているのだと俺は思っている。遊んでいる時は、ただ楽しむことだけを考えているから無駄な思考をしなくて済む。逆に、退屈な時間と言う物は、無駄な思考を張り巡らせてしまう。考えなくてもいい事、考えても仕方のない事。結果的に、その思考は無駄であり、意味をなさない。昨日のことを考えても意味がないのに、考えてしまう。おかげで、集中しなければならないことに集中できず、終始、上の空だった。つまり、俺が何を言いたいのかと言うと……。
「授業内容を教えてください」
「…………はぁ?」
 オカが、まるで捕球を失敗したキャッチャーを見るような冷たい目をしている。そんな視線に喜んでいるわけではないが、引き下がることはしない。
「今日は居眠りをしていたわけじゃないんだからな。ちょっと、考え事をしていただけで……。だから、な?」
 これは嘘偽りなく本当のことだ。ただ、問題だったのは、一日中、考え事をしてしまったことだろう。楽天家な俺だが、テスト前の授業を一日丸ごと無駄にして、それでもいい点数が取れるとは思っていない。だからこそ、冷たい目で見られようが、授業内容を聞きださなければならない。
「考え事って……。シゲちゃん、テスト前の授業が大事なのは分かっているよな?」
「重々、承知しております」
 テスト前の授業で、テストの内容を仄めかす発言があるのはどの先生も同じだ。それは分かっている。でも、人間がいつでも集中できるわけではない。
「分かっているなら、ちゃんと授業を聞いていろよな」
「以後、気を付けます」
 後悔しても、時間は戻っては来ない。今は、どうやって授業内容、その中でもテストに出そうな場所がどこなのか聞き出す事が重要だ。
「この通りなので、どうか教えていただけないでしょうか」
「この通りって……」
 もちろん、土下座ではない。椅子に座って頭を机に付けているだけだ。これでも誠意は伝わっているのだろうが、後一押しが必要なのだろう。とっておきではないが、いつもの手を使おう。
「分かった。ジュース、ペットボトルのジュースを奢るからさ」
「別に奢らなくてもいいから……」
 奢ると言って奢ったためしがない。お人好しとは、そんな人種だな。
 そんなことを思っていたが、オカの様子がおかしい。具体的には、視線が俺ではなく、少し上の方を向いている。何があるのだろうかと上を向こうとした瞬間、頭上に何かが落ちてきた。
「痛っ……」
 反射的に言ったが、そこまで痛くはなかった。本で叩かれたような軽い衝撃。
 そう、叩かれたのだ。ならば、後ろに誰かいるわけで……。
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