炎と風の反逆者

小森 輝

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襲来する紅蓮の女王

炎と風の反逆者 5

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「誘! それに忍海ちゃん!」
 別に脳裏に浮かんだ人物を召喚したつもりはないのだが、そもそも、そんな能力は持ち合わせていないのだが、教室のドアからポニーテールの活発な少女、杠茜音(ゆずりはあかね)が現れた。
顔のつくりやスレンダーなスタイルは割と好評化なのだが、性格に一癖ある俺の幼馴染だ。
「お弁当持ってきたから食べよ。ほら、早く机、くっ付けちゃって」
 茜音の片手には、大きな弁当が入った包みをぶら下げている。
 壁に掛かった時計を見ると、もう12時を過ぎてお昼休みに突入していた。
「早く机くっ付けようぜ」
「……そうだな」
 だらだらと動いていた俺に対して、紀彦は先ほどの疲れも忘れて、てきぱきと体を動かしている。
「あ~も~じれったい! ちょっと、これ持っていて」
 茜音は後ろに立っていた女の子に弁当を渡し、俺たちの方に走ってきた。
「ちょちょ、杠さん。走ったら見えちゃうって!」
 紀彦が盛大に焦りながら顔を手で隠していた。まあ、指の間に隙間があったことには指摘しないでおいてやろう。
「どうしたの?」
 紀彦の行動が理解できず、茜音は首を捻っている。
「あのな、走ったら、スカートが捲れるだろ」
「大丈夫、大丈夫。下にスパッツ履いてるから」
 得意げに、茜音は自らの手でスカートの端をつまみ上げた。
「どぉわぁ!」
 効果抜群だ。
「大丈夫か? 意識をしっかり持つんだ」
「…………」
 倒れた紀彦に話しかけるも返事がない。まあ、こんなことで死ぬはずがないので心配はしていないが。
「大丈夫?」
 俺と違い心配して、近寄り、声を掛けてきたのは、自覚が全くない諸悪の根源。しかも、なぜか未だにスカートの端を持ち上げたままだ。
「お前、いい加減……」
 こんな奴は相手にしないでおこうと思ったが、この下からのアングルは紀彦にとって確実に致死量だ。
「うぅ……」
 紀彦が意識を戻しそうだが、今は非常にやばい。早急に手を打たなくては。
「茜音……これ以上、俺の親友に追い打ちを掛けないでくれ」
「う、うん……うん?」
 頷いたものの理解はしていないようなので、俺はそっと茜音のつまみ上げている手を下げてやった。
「はっ! 俺は一体……なんだか目に妙な違和感があるんだが」
 タイミングよく紀彦は意識を取り戻したようだ。残念ながら、直前の記憶は失っているようだが、覚えていない方が紀彦は混乱しないだろう。
「お前には刺激が強すぎたってことだよ」
 そう言って、紀彦に手を貸して起き上がらせた。
「おっと、こんなことしている場合じゃないよ。お昼休み終わっちゃう」
「そうだな。手っ取り早く準備してしまうか」
 そうやって、俺たち4人はそれぞれ自分が使う机をくっ付けた。
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