炎と風の反逆者

小森 輝

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疾走する紅蓮の導き

炎と風の反逆者 33

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 着ていた服を再び着るのには、少し抵抗があったので助かる。助かるのだが、シャワーを浴び終え、持ってきてくれた着替えを見てみると、かわいいクマがプリントされたTシャツだった。またクマかと思いつつも、着てみるとサイズはぴったり。
 俺が脱衣室から出てくると、入れ替わりに彼女がシャワーを浴びに行った。
「先に寝ていても構わないからな」
 すれ違いざまに、そう告げられた。
 俺はベッドに横たわると、すぐに睡魔が襲ってきた。さすがに先に寝てしまうのは失礼だと思い、睡魔に抗いながら彼女が来るのを待っていた。
 しかし、睡魔はその手を緩めようとはしてくれない。
 虚しくも、睡魔に負けようとしていたとき、背後の感触に目が完全に冷めてしまった。
 電気は消え、闇に包まれている中、彼女が俺の背後で寝そべっている。
 正面は壁、背後は彼女。逃げ道は完全に断たれてしまった。
 彼女は俺の背中に密着してきている。幸い、腕が邪魔であの淫らな柔らかい感触は味わえない。
 それでも、彼女の吐く息が耳を掠めるたび、言いようもない快感に襲われてしまう。
 これは貞操の危機ではないのだろか。
 しかし、こんな女性に奪われるのなら本望ではないのだろうか。いやいや、そんなこと、考えてはいけない。
「えっと……」
「起こしてしまったか?」
「いや、起きてた」
「そうか」
 さらに身を寄せようとしてくる。もう、何が何だか分からなくなってきた。
「一つ、言い忘れていたことがあるんだが」
「な、なんですか?」
「私は君のことをいつまでも君と呼んでいては、一緒に戦わないにしても困るだろ?」
「そう、だな」
「だから私は君のことを誘と呼ぼうと思うんだが、いいかな?」
「あ、ああ。構わない」
 それぐらいなら問題ない、と思う。今はなんだか判断力が鈍っていそうで、なんにでもはいと答えてしまいそうだ。
「では、誘。誘は私のことをなんて呼んでくれる?」
 さっそく、はいだけで答えられない質問が来てしまった。
「なんて呼んでほしいんだよ」
「誘が呼んでくれるのなら、なんだっていいぞ」
 これは困った返答が帰ってきてしまった。無難な回答を取るしかないだろう。
「じゃあ、灰塚さん」
「そうか……私は誘と下の名前で呼んでいるのだが?」
 つまり、自分も下の名前で呼べと言うことか。何がなんだっていいだ。思いっきり指定してるじゃないか。
「分かった。それじゃあ……えっと……」
 や、やばい。出会ったときは覚えていたのに名前を忘れてしまった。おそらく、この状況に動揺して思い出せないだけだろうが、今、必要な知識なのに、どうしても出てこない。これはまずい。
「命(みこと)だよ」
「え?」
「私の下の名前だ。いのちと書いて命だよ」
「そうか。忘れないようにしておくよ。命」
「私も誘の記憶に刻み込んで、忘れられないように努力するよ」
 これは命という一字を忘れないように努力しなければならないな。
 そんな決断をしている間も命が体を放すことはなかった。
 そんな状況でも、貞操が奪われるなんてことはなく、彼女の寝息を聞いていると、自然と意識が闇に落ちて行った。
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