炎と風の反逆者

小森 輝

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苦悩する疾風の担い手

炎と風の反逆者 35

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「……ざな」
 闇の中で声が聞こえる。
「……てく……ざな」
 悲痛な女性の叫び声だ。
「こういう場合はキスで目覚めるのではないのか? いやでもそんな大胆な。しかし、キスでしか起こせないのだとすると、それは致し方のないことではないのか」
 聴覚がやっと正常に戻り、慌てて重い瞼を上げた。
 視界は霞んでいるが、目の前で混乱している女性が命だということは分かる。
「起きたか。よかった。死んでいたらどうしようかと思った」
 死んでいたらって、俺はただ寝ていて少し起きるのが遅かっただけだというのに。
 キスされる前に起き上がり、横で座っている女性に向かい合った。
「おはよう」
「うむ、おはよう」
 彼女はすぐに立ち上がり、キッチンへと向かった。
「寝ているだけなのに、死んでしまったと勘違いするなんて、流石にバカだろ」
「仕方ないだろ。私が……」
 どうしたのだろうか。急に顔が赤くなり、声が聞き取れないほど小さくなった。
「まあ、いいか」
 それにしても、今日の寝覚めは悪い。
 なんだか、変に現実味のある夢を見たような気がするのだが、思い出せない。夢だからどうでもいいのだが。
「と、とりあえず、顔でも洗ってきたらどうだ?」
「そうだな……」
 何かをはぐらかされている気がするのだが、追求するほどのことではないだろう。
 顔を洗い、部屋に戻ってくると、食卓の上にはチーズが乗せられたトーストが2人分、置いてあった。今日の朝食と言うことだろう。しかし、相変わらず、椅子は1つだけだ。
「1つは誘の分だよ」
 そう言って、椅子を引き、座るように促している。
「俺がその椅子に座ったら命はどうするんだ?」
「……立って食べるしかないな」
「命も女性なんだから、そんなはしたないことはさせれない」
 命に気を使って、俺はベッドに座ってでも食べるとしよう。
 パンが乗っている皿を手に取り、俺はベッドに腰掛けた。
「椅子は準備しておかないと、今後、不便になるな」
 そんなことを呟きながら、命もパンを持って俺の隣に座った。
 せっかく譲ってやったのに、なぜわざわざ俺の隣に座る。そして、今後も一緒に寝泊まりする気なのか。別々の部屋に住むという選択肢はないのか。
 しかし、隣に座る命の満足そうな笑顔を見ると、そんなこと言えないし、満更でもない自分が居るのも事実だ。
 無言だが居心地のいい沈黙だった。
 その中で俺も命もパンをかじった。
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