まさか魔王が異世界で

小森 輝

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6 アペルピシアという魔王

まさか魔王が異世界で 37

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 これから行われるのは一方的な虐殺だ。
「人間の分際でその魔力……いいや、所詮は人間。我の敵ではない!」
 そんなことをほざきながら、魔族は再び魔法の槍を俺に向けて飛ばしてきた。
「同じ攻撃か。目が付いていないのか」
 先ほどと同じように、素手で消し飛ばした。
「貴様の攻撃など、剣さえ必要ないな」
 愛着も出だした剣も持っているのだが、どうやら出番はないらしい。
「おのれ……人間の分際で我を見下すな! 我は伯爵にして邪神、モラクルであるぞ! 貴様のような人間は我の供物にしてくれるわ!」
 そう叫びながら、今度は同じ魔法の槍を複数作りだし、俺に向けて放ちだした。
「無駄なことを……」
 俺が手を振るだけで魔法の槍は消滅していく。
「な、なぜだ……」
「なぜ? 決まっているだろ。羽虫のような攻撃が一つから複数になったところで鬱陶しさしか感じない」
 憑依影装をくぐり抜けるほどの強者かと思っていたが、どうやら憑依影装をくぐり抜けるので精一杯の魔族のようだった。
「お、おのれ……我の攻撃が……」
「どうした。この程度ではないだろ? もっと強い攻撃をしてきたらどうだ? もったいぶって使わずに消えるつもりか?」
「おのれ……」
 そう煽っても攻撃をしてくる様子はない。どうやら、本当にこの程度の魔族だったらしい。
「この程度で粋がるなど、低俗な魔族だ。死して悔いるがいい。極大魔法!」
 俺が空に向かって手をかざすと、巨大な魔法陣が出現した。やはり、極大魔法を使えるほどに魔力が回復している。
 そして、この魔族にも、この魔法陣の意味が分かったようだ。
「おや、やめろ……お、おい! お前等! 何、見てるんだ! さっさと戦え!」
 この魔族は無様にも後方で控えさせている魔族の軍勢に助けを求めていた。
 標的変更だ。
「絶望を知れ。オーダー。アペルピシア・ヘリオス」
 極大魔法が発動し、頭上に空を覆うほどの太陽のような炎の玉を出現させた。
 そして、それを後方に控えている魔族の軍勢へと、まるでバスケットボールのように投げてやった。
 落ちてくる太陽を誰もどうにかすることは出来ず、地面に接触すると同時に、太陽は弾け、魔族の軍勢がいた場所は、一面、炎の海に変わっていた。その光景は、まさに絶望。あれだけいた魔族が一瞬にして絶望に嘆きながら消滅した。
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