A&N 副業やってるけど、副業の方が本職っぽいよ。

阿佐田あさ

文字の大きさ
4 / 5
閑話 2

アキラ、説教する

しおりを挟む
 レッスンに来たのに、ニックったら遅いんだ。もう三十分以上待ってるのに来ないんだよ。あんだけサボるなって言って、一応は真面目に来てるってのにさ。
 いちおうは。

 ぷんすかしているとドアの開く音が。

 「今日はどーしたの?」
ボクはちょっと声を落とした。怒ってるんだぞって態度を出した。
 「いや、ちょっと」
って、照れ笑い。
 あ~、変なもの見ちゃったよ~。
 ボクはニックのはだけた胸を指さした。ちょうど鎖骨?のあたり。ねぇ、ちょっと、それってキスマーク?
 ニックったらごまかし笑い。

 「ねぇ」
ボクはレッスンを受けるようになってからのニックの行動に不満があると告げた。
 あれだけボクに真面目に仕事に取り組めって言ってるくせに、自分は不真面目すぎない?
 初日しかり。いつだったかは用があるって終わるの早めたら外にイケオジ待ってるし、今日はキスマークつけて遅れてくるし。
 仕事の時だって好みのオジサン見つけたら猛アタックしてさ。
 「ねぇ、寂しいの?惚れっぽいの?欲求不満なの?」
今日はボクがやり込める番だ。いつもニックに文句言われて負かされてるの、形勢逆転だい。
 「いや、あの…」
ニック、たじたじ。
 「今のニックを見たらエドワードさん、がっかりしちゃうよ。エドワードさんを好きだった自分を大切にしてよ」
それはそうなんだけど。って口ごもる。らしくない歯切れの悪さだね。
 「エドワードが恋しいんだ。でも、もうどこにもいない。エドワードのいない家なんて……」
声がだんだん消えてった。それからちょっと切ない顔して、
 「たった三年と少しだぜ。愛し合っていたのなんて」
悔しそうに眉をしかめた。

 ん~。
 それはそうなのかもしれないけどぉ……
 「じゃあ、残りの十数年って何だったの?二人が暮らした日々って、愛と呼べるものではなかったの?」
ボクが言ったら、ニックがびっくりした顔で見つめてきた。

 長い間があった。

 あ?なんか悪い事言っちゃった?
 なんで涙?いやいや、ボクは泣かせるようなこと言ってないよ。たぶんきっと、言ってない。…んだと思う。
 ぎゅっと抱きしめて慰めたいけど、たぶんきっと見えちゃう。キミの過去。

 「そう。だな。いつも仕事はサボりたがるし、突拍子もない事始めたり、女装のために女を追いかけたり、いい加減のちゃらんぽらんだけど、たまに核心突くよな」
 「なにその言い方」
ぶぅっとふくれた。慰めにハグしてあげたいって思ったのにひどいやつ。
 「ずっとエドワードに守られてきたの、忘れていたよ」

 ニックは言った。
 思い出した?でしょ!
 「親子のように過ごしてきたあの日々も、愛された日々だよな。そうだな」
だんだん独り言。

 ねぇ、ボクはどうしても時々見えちゃうんだよ。キミを心配してる時にうっかり触っちゃったり、キミがボクに触れちゃう時とかさ。でも、気付かないふりしてるんだ。キミのプライバシーだからね。
 うん。それは断片的なものだけどさ。
 もちろん見ちゃいけないって思うから、すぐに力はシャットダウンさせる。何を言っているかまでは分からない。でもその時に見えるのって、エドワードさんのニックを見つめる優しい目や笑顔なんだ。

 「六歳のあの時から、いつも一緒だったんだよな」
ニックが小さく笑った。
 「オレンジ。エドワードが好きだったって、話したことあったろ?」
うん。ボクは頷いた。
 「エドワードの母親の出身がオレンジの産地だったんだ。そこでよく他所の畑からオレンジをくすねて食べてたって。証拠隠滅で皮ごと食べてたから、オレンジは皮ごと食べるに限るってさ」
言って、クスッと笑った。
 「あの髭、果汁でベタベタにしてたんだぜ」
一緒に暮らし始めて間もない頃の事らしい。ニックが泣き笑い。
 なんかすっごくダンディなのに、お茶目なおじ様だね。


 「レッスン、始めようよ」
ボクは言った。
 「なんかお前に説教されたら、今日はやる気なくなった」
肩をすくめて苦笑い。もぅ、なんだよぉ。いいけどさ。
 「何か食いに行くか?」
 「おりび庵の抹茶パンケーキ。全部乗せ!」
あのなぁって、苦笑された。これでも迷ったんだよ。
 行こ行こ!気持ちの変わらないうちにね!って、ニックを外に追い出しながら言った。
 うん。今日はいい日に違いない。
 たぶんきっと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

処理中です...