オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

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三十路男と女子高生

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休日の2日間を丸々使って
オレは、なんとか相棒(子猫)の過ごすスペースを整えた。

そして、結局のところ。
オレが、仕事に出ている月曜から金曜の昼間は
伯母が、相棒の面倒を見てくれることで話はまとまった。



月曜の朝。

いつもよりも、1時間早く起きたオレは
相棒にミルクと、少し缶詰を食べさせてから
キャリーケースに相棒を入れて
駅前の商店街にある『黒猫』という喫茶店へ向かっていた。

3月も半ばやというのに
まだ、少し外は肌寒いので
使い捨てカイロを靴下に入れて
ケースの底へ入れてやった。

相棒は、小さいだけで
オレは、意外と手を焼いてはいなかった。

トイレもわりとスムーズにおぼえてくれたし、
ミルクも、お皿から飲んでくれるし。
缶詰も、嫌がらずに食べてくれている。

お腹が満たされたら、少し遊んでから
気が付けば、オレが用意してやった寝床で
丸くなってスヤスヤ眠ってしまってる。

それに、何故だかオレは
月曜の朝だというのに、鬱々とした気持ちではなかった。

今までのオレなら、
週の始まりの月曜の朝を迎えると
毎週といって良いくらいに、気持ちが鬱々としていて
会社にたどり着くまでに、何回ため息をついていたことか。


✡✡✡✡✡✡

「おはようございます」
「あー! おはようさん。せいちゃん
今朝は顔色ええやん。いつも、朝は青い顔してるのに」

『黒猫』の入り口の扉を開けて入ると
カウンター席で、すでに伯母がくつろいでいた。

「ああ。なんか、今朝は目覚めが良かったんです。
コイツのおかげなんかなぁー?
 子猫が1匹おるだけで、えらいちがいですね♪」
「良かったわ。せいちゃん、週明けはいつも
ゾンビみたいな顔してるって、光江が心配してたからなぁ。
ほんま、その子のおかげやね。それで? 名前は?」

キャリーケースを、伯母の横に置いてから
オレもカウンター席に座って、モーニングを注文した。

伯母に相棒の名前は? と聞かれて…
オレは、少し困ってしまった。

昨夜から色々考えてはいるんやけど…
名前が、ひとつしか浮かんでこなかったからだ。

「あー。ちっこいから『チビ』でええんちゃうかなぁー?」
「またまたぁー。そんな簡単でええの?
 大きくなっても『チビ』やで? ええの?」
「まぁ。オレよりは、小さいということで……へへ」

安易な名前の付け方に
少し伯母は苦笑していたけど。
相棒の名前は、ここでオレに
『チビ』と命名されてしまったのだった。

相棒を伯母に預けて
オレは『黒猫』を出て駅に向かった。

それでも、いつもよりも30分位は余裕がある。
いつもは、学生と出来るだけ
一緒にならんように、8時半を過ぎてから
電車に乗るんやけど、しばらくの間は
相棒のために、ここは我慢するしかないと
自分に言い聞かせて、電車に乗った。

 
さすがにこの時間の車内は、おしくら饅頭状態やった。

(かなわんなぁー)と、オレが少しため息をついて…
右斜め前を見ると、昨日の動物病院の受付にいた
美少女が、女子高生の格好をして満員電車の中にいた。

(あ。JKやったんか? さすがにコスプレはないわな…)

アホな自分を腹の中で笑いつつ
美少女が、気になってじーっと見ていると
何か様子がおかしかった。

彼女が、顔を真っ赤にして
体を右へやったり左へやったり
後ろをすごく気にしているようなんやけど…

(あっ! チカンか!? マジで? うーん…あれは…マジっぽいな)

良く見てみると、前と後ろで
サラリーマン風の男に挟まれて
明らかに彼女は、チカン行為に合っているようやった。

オレは、しらじらしく
彼女の横まで近づいて行って
思い切って、声をかけてやった。

「おはようございます! おぼえてる?
 昨日。動物病院で、受付におったよね?」
「あっ、お、おはようございます。おぼえてます。
子猫ちゃんの? ですよね? えっと…藤田さん?」

さすがに…

知り合いに声をかけられてるところを
チカン続行っちゅうわけにはいかんやろ? 
と、180強ある身長を生かしてオレは
チカン男の顔を、マジマジと見下ろしてから
彼女をガードするような姿勢で、横に立ってやった。

「まさか。女子高生やとは思わんかったわ。
大人っぽく見えたから、他人のそら似かと思ったんやで」
「そんな。大人っぽいやなんて。病院は叔父の手伝いで
土日だけ手伝ってるんです。あの…。ありがとう。助かりました」

彼女は、オレがチカンに気付いて
助けたことに気付いていたようで
オレのスーツの上着の袖を、ギュッと掴んで震えていた。

「私は若林ユイです。4月で高校3年になります。
また、病院に来ますよね? 猫ちゃんの予防接種とか……」
「ああ。うん。行くよ。それに、伯母の猫も
お世話になってるみたいやしね。良かったら…
明日も、ボディーガードしよか?」

オレが聞くと、彼女は下から
オレの顔をジッとのぞき込んで
嬉しそうにニコッと笑って頷いていた。
そして、彼女はオレが降りる1つ前の駅で降りると
ホームからオレに向かって、満面の笑顔で手を振っていた。
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