転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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57・課金は血の味、人の味

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「よーくわかった!」

 自分を鼓舞するように声を上げ、ミマの前にすっくと立ち上がる。まだ旋回を続けていたコラルは無視して、ミマにまっすぐ指を突き付けた。

「やっぱジルコンの言う通り、お前みたいな輩に騎士サマたちを好きにさせとくわけにはいかねーわ! もー気後れはしねえ、こっからはバチバチで行くからな!!」
「ジルコン?」
「あっ」

 ミマが怪訝そうな顔をする。しまった、口が滑った。俺とジルコンが協力関係にあること、まだ隠しといたほうがよかったか? ええい、でも言っちゃったもんはこの際しょうがねえ!

「……ふうん、なるほど、そういうこと。どうもあのエセ執事、やけにお前の側にばかりつくと思ったら」

 ミマも事の次第を察したようだ。ブチ切れられるかとも思ったが、彼は意外にもにやりと笑う。

「妙な趣味の奴だと思ったら、陰ではちゃっかり人気一位のキャラをキープしてたってわけ。人がまだ手を出してなかったのをいいことに、ふざけた真似してくれるじゃないか」
「だから人気とかそういう……人気一位!?」

 声を荒げかけたところで急ブレーキをかけた。今何か信じられない言葉を聞いた気がする。

「に、人気一位って、ジルコンが!?」
「知らなかったの? へえ、わかっててやってたわけじゃないのか」
「なんでえ!? あのコンプラガン無視ノンデリカシー王子が!?」
「コンプラ……? 何を言ってるのかよくわからないけど、まあ、なんで、ってのには同意だな」

 ミマは忌々しげに舌打ちをして、自分の肘を両手でさすった。今までの傲岸さと打って変わって、その様子は何かを恐れているようにも見える。

「確かに、キャラ自体は決して悪くない……むしろ王道の胸キュン要素に溢れた良キャラだと思うけど」
「そ、そうかなあ……?」
「でも、本質的な意味であいつを好きになれるのなんて、ニワカの無課金か微課金エンジョイ勢だけだよ。そういう層が数ばかり多いせいで……あいつらみんな、何もわかってない」
「何だよ、意味深なこと言うじゃん」
「……ほんっと、無課金は気楽でいいな」

 低く呟いたミマの目には、殺意すらこもっているように見える。こ、怖い。

「…………あいつの顔を見ると、気分が悪くなるんだよ」
「え」

 口元を覆って、らしからぬ低い声で、喉奥から絞り出すようにミマは呟いた。

「そうだな。お前は知らないだろうな。天井無しガチャの無間地獄。イベラン上位を争って、血反吐を吐きながら続けるマラソン。そのたびに文字通りの身銭を切って、あいつのところにジュエネルを買いに行く苦しさを」
「……あー」
「そうだよな。知らないんだもんな。273.85カラットのあの微笑みが、だんだん人の生き血を吸う悪魔の笑みに見えてくることなんてさぁ!! 僕だって知らずにいられたらどれだけよかったよ!! くそックソッくそぉおっ!!」
「ひゃわっ!? み、ミマサマ、落ち着いて!!」
「あ、あぁー……」

 コラルの制止をものともせずに、ミマはものすごい形相で道端の岩をガンガン蹴り始める。な、なるほど。お前もお前でいろいろトラウマがあるんだな、ミマ。理解はできないけど、同情はするぜ。なんつったらまたブチ切れられそうだけど。
 しばしののち。ゼエゼエと肩を揺らしながら、ミマはようやく俺へと向き直る。

「……ともかく、あいつがお前とグルだってわかった以上、僕としても放置しておくことはできなくなったな」
「え!? ちょ、ちょっと!!」
「お前とジルコンの間にあるものがなんであれ、この世界においては課金に勝てるものなどひとつもない。お前だって身に染みてわかってるだろ?」
「……!!」

 頭から血の気が音を立てて引いていく。そんな。ジルコンまでミマに奪われたら、俺はほんとに孤立無援だ。
 いや、それだけじゃない。もしかしてジルコンまでもが俺に、嫌悪に満ちた目を向ける日が来るかもしれない。今までの全部が嘘だったみたいな、冷たい目で俺を見下ろす日が。嫌だ。想像するだけで、絶望しかない。
 蒼白になった俺を見て、ミマは心底おかしそうに笑う。

「安心しろよ、あいつの攻略手順は特殊だからな。僕にとっては残念なことだけど、今すぐ攻勢に出るわけにはいかない」
「あ……」
「ま……せいぜい奪われる前提の幸せを、今のうちにちょっとでも噛みしめておきなよ。……ふふっ♡」

 立ち尽くす俺の前で、ミマは右手を軽く掲げた。旋回していたコラルがぴたりと動きを止めて、一直線にミマの元へ戻っていく。何しに来たんだあいつ。いや、そんなことはどうでもいい。

 今回は高笑いじゃなく、企み深い笑みを残してミマが去っていったあとも。
 最悪の想像に囚われたまま、俺はその場から動けずにいた。
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