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116・推しは推せるとき推しておけ
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「……んん……くあぁ……っと」
身じろぎをしたアメティスタが、椅子の上で大きく伸びをした。顔をふるふると左右に振って、長い髪を無造作に掻き上げたあと、ようやく気づいたかのように俺に目を向ける。
「あれ、チューにゃん。なんでぇ?」
「なんでもクソもねーよ! お前がさらってきたんだろうが!」
「えぇ? あぁー、そうだっけぇ?」
興味なさげに首を傾げる彼に、改めてゾッとする。ダメだこいつ。こいつに言われるままこんなとこにいたら、下手したら食事を忘れて餓死させられかねない。預言がどうとか以前の問題だ。早いところ脱出方法を探さねーと。
「……んん? あれぇ?」
きょろきょろとあたりを見回していたアメティスタが、俺の拾い上げたグラスに目を止めた。少し考えるそぶりを見せた後、芝居がかった仕草でぽん、と手を叩く。
「あぁー、そうだったそうだった。それ見てたんだっけぇ。で、どぉ? ここにいる気になった?」
「ハッ! 残念だったな、そうそうテメーの思い通りにはいかねーよ!」
「あれぇ? なんか、さっきより元気ぃ?」
「ふふん。俺に考える時間を与えたのが間違いだったな」
あのあと。部屋の隅で膝を抱えて、うずくまりながらブツブツ呟いているうちに、俺の頭の中に、ふっと神の声が舞い降りたのだ。それは修羅の国たるソシャゲ界でまことしやかに語られる、預言に勝るとも劣らぬ希望の言い伝え。プレイヤーの間でいつの間にか流布していた、世界を問わないまことしやかなる伝説だ。
──機種変時の引き継ぎ等に失敗し、過去の記憶を喪いし者よ。汝、ゲームのID・ニックネーム・課金歴・所持キャラ・装備等、思い出せる限りの情報を添えた上、貴殿の仰ぐ運営神にひたむきなる願いを捧げるべし。さすれば運営神は貴殿の声を聞き届け、その慈悲と手にした課金石の輝きに応じて、喪われし記憶を再び蘇らせるであろう──
「……確かに俺は、宝石騎士に関しては引き継ぎ設定もしてないし、IDのバックアップだって取ってない。課金だって一円たりともしちゃいねえ。でも一つ、たった一つだけ、俺にはジュエぷりちゃんって希望がある!! ジュエぷりちゃんと宝石騎士は同運営、さらに俺はあっちでは課金もしてるまあまあのお得意様だ!! 連携記録を参照してもらえれば、きっと宝石騎士のデータだって回復してもらえるはずだぜ!! たぶん!!」
言ってビシッと指を突きつける。希望的も希望的な観測にしか過ぎないが、逆に言えば希望は残ってるってことだ。大逆転の目に勝ち誇る俺に、アメティスタはしかし動じた様子もなく言い放つ。
「あ、そのジュエぷりってやつ。来年終わっちゃうよぉ」
「え?」
「『宝石の姫は纏う輝石を喪失し、儚き身を波間に踊らせる』……だってぇ。お金なくなっちゃったんだねぇ。かわいそぉー」
「………………え?」
時が止まる。思考が真っ白にショートする。
──絶望──
今度こそ俺の頭の中には、その二文字のみがぐるぐると旋回し続けていた。
身じろぎをしたアメティスタが、椅子の上で大きく伸びをした。顔をふるふると左右に振って、長い髪を無造作に掻き上げたあと、ようやく気づいたかのように俺に目を向ける。
「あれ、チューにゃん。なんでぇ?」
「なんでもクソもねーよ! お前がさらってきたんだろうが!」
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興味なさげに首を傾げる彼に、改めてゾッとする。ダメだこいつ。こいつに言われるままこんなとこにいたら、下手したら食事を忘れて餓死させられかねない。預言がどうとか以前の問題だ。早いところ脱出方法を探さねーと。
「……んん? あれぇ?」
きょろきょろとあたりを見回していたアメティスタが、俺の拾い上げたグラスに目を止めた。少し考えるそぶりを見せた後、芝居がかった仕草でぽん、と手を叩く。
「あぁー、そうだったそうだった。それ見てたんだっけぇ。で、どぉ? ここにいる気になった?」
「ハッ! 残念だったな、そうそうテメーの思い通りにはいかねーよ!」
「あれぇ? なんか、さっきより元気ぃ?」
「ふふん。俺に考える時間を与えたのが間違いだったな」
あのあと。部屋の隅で膝を抱えて、うずくまりながらブツブツ呟いているうちに、俺の頭の中に、ふっと神の声が舞い降りたのだ。それは修羅の国たるソシャゲ界でまことしやかに語られる、預言に勝るとも劣らぬ希望の言い伝え。プレイヤーの間でいつの間にか流布していた、世界を問わないまことしやかなる伝説だ。
──機種変時の引き継ぎ等に失敗し、過去の記憶を喪いし者よ。汝、ゲームのID・ニックネーム・課金歴・所持キャラ・装備等、思い出せる限りの情報を添えた上、貴殿の仰ぐ運営神にひたむきなる願いを捧げるべし。さすれば運営神は貴殿の声を聞き届け、その慈悲と手にした課金石の輝きに応じて、喪われし記憶を再び蘇らせるであろう──
「……確かに俺は、宝石騎士に関しては引き継ぎ設定もしてないし、IDのバックアップだって取ってない。課金だって一円たりともしちゃいねえ。でも一つ、たった一つだけ、俺にはジュエぷりちゃんって希望がある!! ジュエぷりちゃんと宝石騎士は同運営、さらに俺はあっちでは課金もしてるまあまあのお得意様だ!! 連携記録を参照してもらえれば、きっと宝石騎士のデータだって回復してもらえるはずだぜ!! たぶん!!」
言ってビシッと指を突きつける。希望的も希望的な観測にしか過ぎないが、逆に言えば希望は残ってるってことだ。大逆転の目に勝ち誇る俺に、アメティスタはしかし動じた様子もなく言い放つ。
「あ、そのジュエぷりってやつ。来年終わっちゃうよぉ」
「え?」
「『宝石の姫は纏う輝石を喪失し、儚き身を波間に踊らせる』……だってぇ。お金なくなっちゃったんだねぇ。かわいそぉー」
「………………え?」
時が止まる。思考が真っ白にショートする。
──絶望──
今度こそ俺の頭の中には、その二文字のみがぐるぐると旋回し続けていた。
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