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第五章・きっとこの手の中に戻ってきてくれるはずの、今はまだ遠いお前と。
5-16・結果報告 その1
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欠片源所持者:蜘藤俊
行為遂行対象者:佐薙丈太郎
場所:源所持者の希望により隔離空間四室を構築(地下室×2・吊り橋・教室) 詳細・構造は別紙にて
用具:脚立・コイン式錠前・幻影投射機
備考:源所持者の希望及び円滑な行為遂行の為、複数の演出及び軽度の記憶改変を実行
地に伏した頭のてっぺんの方から、ばたんとドアの閉まる音が聞こえた。モニターに流れ続けていた砂嵐が止まる。急な静寂。念のため少し時間を置いてからおもむろに立ち上がる。
胸元に仕込んだ血糊は、シャツを通り越してインナーまでべったりと染み込んでいた。気持ち悪い。ほんとに洗えば落ちるんだろうな、これ。渋面を隠せぬままとりあえず上着を脱いでいると、背後でもう一度ドアの音がした。
「いやー、名演技でしたね、ユージンさん」
「……ミゴー」
扉から入ってきたミゴーは拍手をしつつ、つかつかと俺の元に歩み寄る。まだ役が抜けてないな、こいつ。
「なかなか堂に入ってましたよ。似合ってるじゃないですか、チンピラ雑魚死キャラ」
「褒めてんのか、それ」
「もちろん。まあ……演技でも目の前であなたに死なれるのは、見てて気分のいいもんじゃなかったですけど」
「なんだよ。え、もしかしてそのせいで渋ってたのか」
ミゴーは否定せずに苦笑した。意外だ。こいつにそんな繊細な一面があったのか。
このゲームを計画するにあたって、俺が冒頭で死ぬチンピラ役を選択したとき、ミゴーはなぜか妙に歯切れ悪く反対していた。役割を逆にしましょう、なんてことまで言い出したほどだ。てっきり仕事量の差が不服なのだろうと思っていたのだが。
「だってしょうがないだろ。デスゲームのGMなんて胡散臭い役割、どう見てもお前の方が適任じゃないか」
「それ、褒めてます?」
「褒めてない」
「でしょうね。まあユージンさんには不向きですよね、何かと顔に出ますし」
「え」
「自覚、なかったんですか?」
白手袋をはめたままの手が、俺の眉間を軽くつついた。刻んだしわがますます深くなる。
「今だって、そうでしょ」
「そりゃ、お前がいらんことを言うから」
「そっちじゃなくて、別のやつ」
「え? 役柄のことなら、まあ正直複雑っちゃ複雑ではあったけど」
「ユージンさん」
妙に穏やかに名前を呼ばれて、思わず口をつぐんだ。相変わらず変なところだけ聡い奴だ。あるいは彼の言う通り、俺の振る舞いが特別未熟なだけか。
人の心の、格段に柔らかい部分を操作する仕事だ。意に添わない行為を強いられたり、運命を捻じ曲げられたりする人が出てくるのも、初めたときから承知の上だ。それでも世界の命運のためには、誰かが手を汚すべき場面もあるのだと信じてやってきた。ただ今日のような案件を前にして、信念は気分を軽くしてはくれない。
濁った感情を吐き出すように、ふっと息をついた。駄目だ、こんなんじゃ。ミゴーに指摘された欠点を意識して、目を閉じたまま眉間を軽く揉む。
と。不意に、肩のあたりを何かが包むのを感じた。それがミゴーの腕だというのは、すぐにわかった。
「……おい、何してる」
「何ってまあ、慰労というかセラピーというか」
「なんだよそれ。また例のあわよくばか」
「そんなんじゃないですよ。たまには素直に慰められてくださいよ」
憎まれ口を叩きつつも、突き放す気も起きない。疲れてるんだろうか。このままミゴーの腕に縋ってしまいたい、とか、心のどこかで思ってしまっているんだろうか。ああ、いかんな、本当に。
行為遂行対象者:佐薙丈太郎
場所:源所持者の希望により隔離空間四室を構築(地下室×2・吊り橋・教室) 詳細・構造は別紙にて
用具:脚立・コイン式錠前・幻影投射機
備考:源所持者の希望及び円滑な行為遂行の為、複数の演出及び軽度の記憶改変を実行
地に伏した頭のてっぺんの方から、ばたんとドアの閉まる音が聞こえた。モニターに流れ続けていた砂嵐が止まる。急な静寂。念のため少し時間を置いてからおもむろに立ち上がる。
胸元に仕込んだ血糊は、シャツを通り越してインナーまでべったりと染み込んでいた。気持ち悪い。ほんとに洗えば落ちるんだろうな、これ。渋面を隠せぬままとりあえず上着を脱いでいると、背後でもう一度ドアの音がした。
「いやー、名演技でしたね、ユージンさん」
「……ミゴー」
扉から入ってきたミゴーは拍手をしつつ、つかつかと俺の元に歩み寄る。まだ役が抜けてないな、こいつ。
「なかなか堂に入ってましたよ。似合ってるじゃないですか、チンピラ雑魚死キャラ」
「褒めてんのか、それ」
「もちろん。まあ……演技でも目の前であなたに死なれるのは、見てて気分のいいもんじゃなかったですけど」
「なんだよ。え、もしかしてそのせいで渋ってたのか」
ミゴーは否定せずに苦笑した。意外だ。こいつにそんな繊細な一面があったのか。
このゲームを計画するにあたって、俺が冒頭で死ぬチンピラ役を選択したとき、ミゴーはなぜか妙に歯切れ悪く反対していた。役割を逆にしましょう、なんてことまで言い出したほどだ。てっきり仕事量の差が不服なのだろうと思っていたのだが。
「だってしょうがないだろ。デスゲームのGMなんて胡散臭い役割、どう見てもお前の方が適任じゃないか」
「それ、褒めてます?」
「褒めてない」
「でしょうね。まあユージンさんには不向きですよね、何かと顔に出ますし」
「え」
「自覚、なかったんですか?」
白手袋をはめたままの手が、俺の眉間を軽くつついた。刻んだしわがますます深くなる。
「今だって、そうでしょ」
「そりゃ、お前がいらんことを言うから」
「そっちじゃなくて、別のやつ」
「え? 役柄のことなら、まあ正直複雑っちゃ複雑ではあったけど」
「ユージンさん」
妙に穏やかに名前を呼ばれて、思わず口をつぐんだ。相変わらず変なところだけ聡い奴だ。あるいは彼の言う通り、俺の振る舞いが特別未熟なだけか。
人の心の、格段に柔らかい部分を操作する仕事だ。意に添わない行為を強いられたり、運命を捻じ曲げられたりする人が出てくるのも、初めたときから承知の上だ。それでも世界の命運のためには、誰かが手を汚すべき場面もあるのだと信じてやってきた。ただ今日のような案件を前にして、信念は気分を軽くしてはくれない。
濁った感情を吐き出すように、ふっと息をついた。駄目だ、こんなんじゃ。ミゴーに指摘された欠点を意識して、目を閉じたまま眉間を軽く揉む。
と。不意に、肩のあたりを何かが包むのを感じた。それがミゴーの腕だというのは、すぐにわかった。
「……おい、何してる」
「何ってまあ、慰労というかセラピーというか」
「なんだよそれ。また例のあわよくばか」
「そんなんじゃないですよ。たまには素直に慰められてくださいよ」
憎まれ口を叩きつつも、突き放す気も起きない。疲れてるんだろうか。このままミゴーの腕に縋ってしまいたい、とか、心のどこかで思ってしまっているんだろうか。ああ、いかんな、本当に。
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