空の話をしよう

源燕め

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第二章

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 その夜。倉庫の中の灯りはついたままだった。
「直せそうか?」
 横でハンディライトを持つカーライルが心配そうに問いかける。
 今日、ふたたびエンジンの点火実験をしたとき、エンジンから火が出たのだ。とっさに水をかけようとしたカーライルをリーヤは必死で止めた。
 水を被るとそのエンジンはだめになる。カーライルはそのことを知らなかった。
 幸いそれほどの発火ではなかったため、トーヤは落ちついて、エンジンを止め、無事操縦席から降りてきた。
 火を噴いたエンジンは、自然に冷めるのを待つしかなかった。月が中天に登ったころ、ようやく、エンジンを機体から降ろすことができた。
「ピストンが焼き付いてる…」
 トーヤの声からすると、かなり厳しい状態なのだろう。
「幸い、機体には支障はでてないから、エンジンの修理さえ間に合えば、実験飛行には出られると思う。でも…」
 リーヤの声が湿っている。
 操縦席にはトーヤが乗る。修理したエンジンがまた火を噴いたら。それも飛行中に。
 今日、火を噴いたエンジンを目の当たりにして、父親の死を思い出したとしていても不思議ではない。
 トーヤは、手元を照らしていたカーライルの腕を軽く押しやった。カーライルは灯りを消すと、ふたりにかけてやる言葉が見つからず、うつむくしかなかった。
「ピストンが焼き付くのは、オイルのせいだと思う」
 スパナを握っている手が、小刻みに震えている。
「おれたちさ、資金がなくて、父さんが残してくれたオイルをちびちび使ってるんだ」
「オイルって、時間が経つと悪くなるの。知ってる?」
「オイルって、あの真っ黒な機械油のことか。ああ、そうか、油って時間が経つと粘つくって聞いたことがあるような」
「父さんが墜落したのも、このせいかもしれない」
 トーヤの足元にぽたりと涙の滴が落ちた。
「最初はさ、エンジンって起動はするんだ。でも、回しつづけてると、オイルの粘度が高いっていうのは致命傷かもしれない」
 トーヤの言っていることはカーライルに理解できない。しかし、カーライルはただ黙って頷き、その先を促した。
「オイルの粘度が原因で、ピストンが固着して、突然動かなくなったのかも。そこで摩擦が高くなって、温度が高くなって、火を噴いたのかも。それなら、父さんのエンジンには問題はなかったんだ。原因はオイルだったんだよ!」
 リーヤの足元には、もう何粒もの涙が落ちた後があった。
「でもさ、おれたちには、新しいオイルを買う金なんてないんだ…」
「ちょっと待てよ」
 カーライルは、トーヤの言葉に戸惑って、口をはさんだ。
「つまり、ここにあるオイルを使って、実験飛行で飛んだら、親父さんと同じように、飛んでる最中にエンジンが発火して、墜落するってことか?」
「わからないけど、たぶん、そう…。」
 リーヤが涙をぬぐいながら、トーヤの手を取った。
「もう、いいよ。やめよう。トーヤの命のほうが大事だよ。わたし、父さんみたいに、トーヤを亡くしたくない」
 トーヤの足元にも涙の粒がぽたぽたと後を残していた。
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