元魔王の転生先は勇者でした。

鳳仙花

文字の大きさ
10 / 12

10話 絶体絶命

しおりを挟む
「……や、やった?」

 フィオナは息を切らしながらそう言った。
 手を膝につき、肩は震えている。

「おい大丈夫か? 肩貸そうか?」

 フィオナに近寄り手を差し出す。
 しかしフィオナはその手を払いのけた。

「あなたの助けなんて必要ないわよ」

「いや必要だろ。フラフラじゃないか」

 見れば膝はおもちゃが壊れたようにがくがくと震えていて、とても立っていられるようには見えない。
 
「全く強がりは後にしてくれ」

「ちょ、やめなさいってば!」

 手をばたばたとさせてくるが、魔力を使い切っているので大した抵抗になっていないので、無理やりおんぶする。
 初めのうちは背中をぽかぽかと叩いてきたが、諦めたのか途中でやめてしまった。

「……借りだからね」

 耳元でフィオナがささやく。
 おっと、この状況だと胸の感触がダイレクトに背中に……伝わるわけがないですね。だって彼女は絶壁ですもの。

「ちょっと、今何を考えたの?」

「いえ、なんでもありません」

 全く感が鋭いな。
 だが、もうフュルフュールはもう死んだ。これで安心だ。

「それにしても大したことなかったわね。所詮ただのあくm……」

「誰がただの悪魔だって?」

「こ、この声は……まさか……」

 恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはさっきフィオナが倒したはずのフュルフュールが立っていた。

「さっきのは効いたぞ、小娘」

「う、嘘だろ。あの一撃を弱点にもろにくらっても死なないだと……?」

 まさかそれほどなのか? ソロモン七十二柱の力とは……。これほどまでに強大だったのか?

「どうやって……」

 口を開けたまま顎を小刻みに震わせながら口から漏れたその言葉に、フュルフュールが反応した。

「簡単な話だ。その炎と同程度以上の力で打ち消しただけだ」

 そんな馬鹿な話が……。ただのパンチで打ち消せるほどの火力じゃなかったぞ。

「そういえばまだ見せてなかったな」

 なんだろう。心なしか口調も変わったような。
 刹那、フュルフュールは恐ろしい形相でこちらに向かってきた。

「……ぐっ、避けきれない」

 ただでさえダメージが重いのに、それに加え今はフィオナを背負っている状態。到底かわせるはずが無い。

「仕方ねえ。すまんフィオナ」

「え、ちょっと」

 俺はフィオナを思いっきり投げ飛ばした。

「食らえ!」

 くそ。どんな攻撃かは分からないが、俺一人なら受身をとってなんとか致命傷は避けられるだろう。
 フュルフュールの拳が体に触れる瞬間、俺は身を引いた。
 しかし、

「ぐああああああああ!!!!!」

 体を強烈な電気が走り抜ける。体の中心から手先までしびれて自分の思うように動かせない。

「言い忘れていたな。私は電気を操るのだ」

 あの炎の火力と同じ出力の電気で打ち消したのか……!
 それにしてもまずい。この状況はまずい。
 フィオナは魔力を使い果たしてとても戦える状態ではないし、俺もそれほど戦えそうに無い。しかもそれは肉弾戦だった場合。あいつは電気を扱う。とても敵うわけない。

「くそ……せめて」

 せめて奴の弱点、胸に一撃を食らわせることさえ出来れば。そのための隙さえあれば。

「ふはは、手も足も出ないか」

 フュルフュールは高らかに笑う。

「このままお前をいたぶってもいいが、それよりも……」

 そしてフュルフュールはちらりと、フィオナの方に視線をやる。

「まさか……」

「そのまさかさ」

 その瞬間、フュルフュールの体は俺ではなくフィオナの方に向けた。

「まt……うぐ」

 くそ、ダメージが酷すぎる。体が動かない。
 そうこうしているうちに、あっという間にフィオナの元まで移動したフュルフュールは、同じく体を動かせないフィオナに向かって、

「おまえはどんな声を聞かせてくれるかな?」

 すると、フュルフュールの表情が変わった。
 そしてそばに落ちていた先のとがった木の棒を手に取った。おそらく家の残骸だろう。
 
「それでどうする気よ」

 あいかわらず強気である。

「これでお前の四肢を突き刺す」

 その直後、フィオナの顔は恐怖に染まった。

「そうその顔! その顔を待っていたんだ! あそこに倒れている男は表情を一切変えなかったからつまらなかったんだよ」

「や、やめろ!」

 だが俺の声は届かない。
 くそ。フィオナに矛先が向いているのは俺が苦しまなかったからだ。つまり俺のせい。なのに何も出来ない。
 胸の内から湧き出る怒りはフュルフュールに向いているはずなのに、体を思うように動かせない。手を強く握りこむ。

「ふはは、さてどんな反応を示すかな!」

 フュルフュールはまずフィオナの左足に突き刺した。

「うっ……がっ!」

 あまりの痛みに目からは涙がこぼれている。口は大きく開いていて、そこからは悲鳴が漏れている。

「そう! その表情だ!」

 フュルフュールは楽しそうに刺したり抜いたりを繰り返す。
 そのたびにフィオナの顔はどんどん苦痛に満ちていった。
 フュルフュールの顔は喜びに満ちていく。
 俺にもう少し力があれば……魔王だった頃の力があれば……あいつが……フィオナがあんなにも苦しむことはなかったのに……
 そこでふと気づく。

「あれ、なんでこんなにあいつのことで悔しいと思ってるんだ」
 
 憎らしいうざい奴と思っていたはずなのにな。いつのまにかそうでは無くなっていたらしい。
 
「友達……親友……仲間。そうだ、あいつはもう仲間なんだな」

 そう思うと、なぜか体に力がみなぎってきた。
 気づけば、俺は立ち上がってフュルフュールに向かって叫んでいた。

「おいこら! 俺が相手だ!」

「ほう? さきほどまで死にそうだった奴が急にどうして、やるきになるとは。面白い、相手をしてやろう」

 お互いに戦闘態勢に入る。
 別にダメージが消えたわけではないが、なんだか勝てそうな感じになってきた。

「いくぞ!」

 そのセリフを皮切りに、俺はゴールテープに目がけて走る子供のように駆け出し、殴りかかる。しかし、フュルフュールはそれを余裕で止めて、俺を投げ飛ばした。

「くそっ……」

 だが、怯まずにまたフュルフュールへと向かう。

「何度向かって来ようが同じだ!」

「それはどうかな」

 今まで直進だった進路を、右往左往とジグザグに変えて走る。そしてフュルフュールまであと一歩というところで俺は急にかがみ込んだ。

「くっ……視界から消えただと……」

 よし! 今やつは俺が視界から急に外れて混乱している。チャンス!
 俺はフュルフュールのまたの下をくぐって背後に回り、首筋に思いっきり蹴りを入れた。

「ぐっ……ちょこまかと!」

 蹴られた直後、フュルフュールは腕を適当に振り回して俺を捕らえようとするが、俺はその腕の勢いを利用してフュルフュールを投げ飛ばした。

「終わりだ! フュルフュール!」

 高くジャンプして、倒れているフュルフュールの胸に狙いを定める。そして急降下して足で貫こうとした。
 だが、

「ふ、その程度か」

「なに!?」

 刹那、フュルフュールは俺の両足をつかみ、紙くずを投げるような感覚で前方へ投げた。そして、飛んでいる俺を追いかけるようにして飛んだ。

「ぐはっ!」

 その直後、俺の体はフュルフュールによって押さえつけられた。

「散々私をからかったのだ。覚悟は出来ているだろうな?」

 フュルフュールは手を振り上げた。

 死ぬ……。

 俺は何故か素直に死を受け入れられた。何をしても敵わないことを悟ったのか、それとも一度死んでいるからなのかはわからない。
 だからは俺はそっと目を閉じた。

「最後はいさぎよいな!」

 そしてフュルフュールは手を振り下ろした……
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...