元魔王の転生先は勇者でした。

鳳仙花

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11話 不帰之客

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「死ねええ!!!」

 フュルフュールが俺を殺そうと手を振り下ろしてくる。あまりの速度に風を切る音がする。
 その時だった、

「ま、まってください!!」

 大きな声が向こうの方から聞こえてきた。
 それに反応し、俺に触れる間近でフュルフュールの手が急ブレーキをかけたように止まる。顔には風圧が感じられた。

「なんだ小娘、特に用が無いのなら先に貴様を殺すぞ」

 フュルフュールは声の主と会話をしている。
 というか、この声を俺はすでに知っている。

「ウ、ウルカ……なんでここに」

 さっき助けたエルフの子だったのだ。

「あ、あなたたちを助けに、その、来たんです……」

 声は若干震えていてところどころ噛んでいる。恐怖を必死に押さえているように感じられた。

「ウルカ……なんで来たの……」

 フィオナも弱弱しくではあるがウルカに問う。

「そ、それはその、さっきフィオナさんの悲鳴が聞こえたから……さっき助けてもらったのもあるし、体が勝手に……」

「ふはは! どうやら私のおもちゃが一つ増えたようだ」

 体を起こしウルカを見ると、足はガクガクしていて、手の震えを反対側の手で必死に押さえていた。ビビッているようにしか見えない。だが、目だけはフュルフュールをまっすぐ捉えていた。
 その様子をみたフュルフュールは、

「ほう? 意思だけは私に立ち向かおうとしているな。だが貴様の体が私を恐れているぞ」

 フュルフュールは一歩、また一歩とウルカに近づく。それに対応するようにウルカも後ずさりをするが、うまく下がることが出来ていない。
 
 まずい。このままではウルカが遊ばれてしまう。

「そういう恐怖で縮こまってる人間をいじめるのがなぁ。一番楽しいんだああああ!!!」

 奇声をあげながらクマのような体制でウルカに襲い掛かった。

「そうはさせるか!」

 間一髪フュルフュールの両手をつかみ動きを止めることは出来た。

「邪魔をするなあああ!!!」

 だが、目の前に大好物を目にして大はしゃぎをする子供のように興奮していてさっきよりも数段パワーが増しているため、すぐに押されてしまう。
 それでもなんとか耐えようとするが、努力むなしく何の意味もなさなかった。

「……くっ。止まらねえ……」

 内心もう無理だと諦めかけたその時、急に力がみなぎってきた。

「む……急に強くなった……だと?」

「何が起こってるんだ?」

 そして体からは緑かかったモヤのようなもので包まれていた。
 
「わ、私だってエルフの端くれですから……支援魔法くらいはつ、使えます」

 後ろをふり返ると、なんとウルカが魔法、しかも味方を強化する支援魔法を自分にかけていたのだ。

「私は、その、攻撃系の魔法とかは覚えてないですけど、サポートなら任せてください!」

 ドン、と胸を叩いた。さっきまでの恐怖で震えていたウルカの姿はどこにもなく、勇敢な少女の姿がそこにあった。
 なんて強い精神の持ち主なんだろうか。とても女の子とは思えないな。

「なんたって今は悪魔を軽くひねれるほどの……えーっと、お名前はなんですか?」

 あれ、自己紹介してなかったっけ? まあいいか。

「俺はアラン。で、あっちで伸びてるのはフィオナだ」

「ありがとうございます。で、そのアランさんがいるので全然怖くないです」

 なんだろうか。こう言ってくれるのはすごく嬉しいんだけど、何かがちょっとだけ、ほんのちょっとだけ違う気がする。

「えっと、それは盾として、という意味かな?」

「い、いえ!? そ、そそそそそんなことはないですよ」

 確定。この子俺を盾として認識しているらしい。生死をかけた場面になると人……というかエルフの本性がむき出しになってしまうのか。少し残念。

「……おい、もう話はいいのか?」

 おっと、忘れてた。

「というか律儀だな。さっきまでとは大違いだぞ」

「いや、貴様のせいで動けないからおとなしく待っていたのだが……」

 そういえばずっと押さえっぱなしだった。しかもウルカの支援魔法で力が増強されてるから振りほどくことも出来なかったのだろう。

「わ、悪い」

 なんだろうか。さっきまで散々いたぶられたしフィオナも傷つけたりと決して許すことの出来ない相手なはずなのに、圧倒的力の差をいきなり逆転され何も出来ずただの棒のように立つことしか出来なくなってしまった、と考えるとどうしてだろうか、許せてしまう。
 なんだっけな。俺も似たような体験をしたことがあるぞ。えーっと確か……

 ********************

「ちょっと魔王様。この書類どうにかしてくださいよ」

 私は魔王。悪魔族を統べる者。誰も私に逆らわず、というかそんなことをすれば消されることが分かっているので誰も逆らおうとはせず、全て私の自由自在……らしい魔王に最近、というか昨日なったわけだが。ちなみに前の魔王、つまりは私の父は病気で死んでしまった。全く情けない話である。
 ということで圧倒的な権力を持つ地位になったということで、今日から好きなだけだらだらできるぞ! ひとまずこの秘書には適当な理由をつけて仕事を処理してもらおう。幸いこの子は秘書君が始めてっぽいのでごり押しでもなんとかなりそうだ。

「えーこほん。私は魔王。分かるかね? だからこんなめんどくさい仕事は君で何とかしたまえ。秘書君」

 子供みたいなわがまま全開の理由だがなんとかなるだろう。
 しかし、

「バンッ!!!」

 なんと秘書がおもいっきり机を叩いたのだ。
 急すぎて背筋がビクンとなってしまった。

「魔王様? 魔王という立場であれど、こなさなければいけない仕事は山ほどあるんですよ? それなのに人に任せようなんて……ふざけんじゃないわよ!!」

「はいぃぃぃ!!! やります自分でやります!」

 秘書君の怒鳴り声と剣幕に圧倒されてしまった。
 この瞬間から私は秘書の尻にしかれ、一切逆らうことも、反抗することも出来なくなった。
 ちなみに秘書君はサキュバスでおっぱいもすっごk……

 ********************

 ああ、このときか。あれから自由なんてものはなくひたすら仕事をしてたっけなあ。……そんなことはどうでもいいわ。

「あー、えっとだな。俺、お前を殺すことが出来そうにないんだわ。だからこのまま魔界に引き上げるのなら見逃してやってもいいが」

「え、まじすか。あざっす!」

 フュルフュールは急にぺこぺこし始め、口調も変わっていた。
 俺もこんな感じになったなあ。仕事を少しでもいいから休ましてくれと土下座をしたり、仕事のしすぎで精神に多大なダメージを負ったせいで人間性……いや悪魔性が大きく変わってしゃべり方もかわったなあ。いやあ懐かしい。

「じゃあさっさと帰ってね」

 これでよかったんだ。うんうん。
 と、これで平和的解決をした……はずなのだが、

「ちょっと待ちなさい」

 魔界に帰ろうとしたフュルフュールの首筋をつかんだ馬鹿やろうがいた。

「フィ、フィオナ!? お前怪我は……」

「ああ、ウルカに治してもらったわ」

 ロボットのように首を動かしてウルカを見ると、照れながらピースをしていた。
 ウルカさんまじぱねーっす。

「で、この馬鹿はごまかせても私はそうはいかないわよ? 散々痛めつけてくれたわねえ?」

 首を鳴らしつつ言った。
 フュルフュールは無言のまま、泣きそうな顔をして俺の方を向いてきたが、首を横に振る。

「くたばれええええええ!!!!!」

「ぎょええええええ!!!!!」

 目の前に地獄絵図が広がった。

 
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