白面は紫黒の猫と共に ~怪盗キャスパリーグ、かく盗めり~

夏冬春日

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Episode.01 蒼の月/夜の女王の涙

File.04

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  ■2月14日 香坂家

 日曜だというのに、いや日曜だからこそか。暗くなるまで山を散策した麻琴はやっと家に帰り着いた。
 立春を過ぎたとはいえまだ冬、日はすっかりと落ちている。だがそんな時間まで山を歩き回ったにしては、麻琴の顔に喜色があふれていた。
 玄関を前にして麻琴は懐に手をやる。手のひらに感じるのはゴツゴツとした感触。

 そう、なかなか見つからなかった代わりの煙水晶が手に入ったのだ。
 川縁で見つけたそれは、水に洗われ磨かなくても十分にきれいだった。しかも手のひらサイズのクラスタだった。嬉しくないわけがない。

 麻琴はそれをぽんとたたくと、玄関の扉を開ける

「ただいま」

 そう言って入った家に灯りは付いている。どうせパリュがテレビを見てるか本を読んでるかしてるんだろ……。
 そう思ってリビングに足を踏み入れた麻琴に声がかけられた。

「まったく、一足遅いんだよ……」

 声の主はソファに丸まっているパリュだ。

「遅いって何だよ……。いや、そんなことより見てくれよ。こんないい水晶が見つかったんだ」

 麻琴は手に入れた水晶を懐から取り出して見せた。

「ほう。こいつは大きいね。……って、そうじゃあないんだよ。ぬし、今日が何日か知ってるかい?」
「何日って、14日だろ?」
「そう14日だ。で、2月の14日であるところの今日は、ちまたではなんて言われてる?」

「そりゃまあわかるよ。バレンタインデーだ。トミィが今年のバレンタインデーは日曜だからもらえるチョコが少ないって騒いでたからな」
 そう言ったところで麻琴は何かに気づいたような顔をする。
「えっと、もしかしてパリュがくれるとか? でもだめだぞパリュ、猫はチョコレートを食べたらいけないんだぞ。それに俺は人間のお姉さんにしか興味は無いんだ。ごめんな」

 浮かれたように話す麻琴をパリュが一喝する。

「にっ。何をあほうなことを言ってるんだい、この唐変木。……ぬし、一応毎年チョコレートをもらっていただろう?」
「あ、ああ。小筆と、あと妹からはもらってたけど……」

 パリュの剣幕に麻琴はしどもどする。

「ああ、そうだろうよ。それで、小筆嬢からはおととい、トミィとか言う小僧と一緒にもらっていたようだがねぇ。もう一人の方はどうしたい?」
「あ……」

 何かに気づいたように、麻琴は背負っていたリュックを探る。携帯はそちらに入れていたのだ。

「にぃぃ。案の定メッセージアプリを確認してなかったようだね。ああ後……。何度も言ってるがあちは猫じゃない魔王さ。それに悩殺ボディの……って、もう聞いとらんな」

 パリュが目を向ける先で、麻琴は真っ青な顔で携帯を操作している。

「ったく、とりあえず連絡付くなら電話して、後は明日あらためて直接会ってくるんだね」

 パリュはため息をついて、電話をもって平謝りする麻琴を眺めていた。




 数分後。

「終わったかい?」

 問いかけるパリュに麻琴が憔悴した顔で頷く。

「ああ。小さなお姫様は埋め合わせに、明日おいしいお弁当ご所望だ」
「にっ。妥当なところかね。今日の修行は勘弁してやるから腕によりをかけてあげな」
 パリュはしっぽをゆらゆらと揺らす。
「あの子もねぇ。昼から小さな箱をもって、ここに座ってぬしを待ってたんだよ。なのに帰ってこないどころか連絡も付かないと来た。不安で押しつぶされそうになるあの子……。見てらんなかったよ」
「面目ない」

 麻琴は頭を下げた。

「あの子もぬしと同じで、突然両親が意識不明になっていなくなったんだ。急に人がいなくなる不安は人並み以上の物がある。なんとか平常心を保たそうとなだめるあちの身にもなってほしいもんだ」
「それは……。ごめん、後ありがとう」

 再度頭を下げる麻琴に、パリュは鼻を鳴らす。

「あちは何も毎日山に登れとは言ってないよ。焦る気持ちもわかるがね。ちょくちょくでいい。あの子のことも気にかけてあげな」
「そうだ……、な」
「にっ。いい男ってのは大事な人のイベントは逃さないもんさ。覚えておきな」

 パリュはしっぽでうつむく麻琴の額を軽くおすと、今度はテーブルにひらりと飛び乗った

「小言はこれくらいにしておいてやるよ。こっちに来な」

 麻琴はのろのろと立ち上がってテーブルに向かう。

「ったく。なんて顔をしてるんだい。さっさと気分を切り替えな……」
「あ、ああ」

 パリュは麻琴の顔を見て首を横に振る。

「にぃぃ。とりあえず話は後だね。ぬしは風呂に入って頭ん中すっきりさせてくるといい」
「……そうだな。ちょっと入ってくるよ」
「ちょっとと言わず、ゆっくり入ってきな」

 パリュは麻琴を見送りため息をつく

「ああいう所はガキだねぇ。かわいいもんだ……。いや、普段も子供みたいなものかね」

 パリュは体を丸くして麻琴の帰りを待つことにした。





 麻琴が風呂から上がってきた。さっきと比べると心もち顔色はいい。

「にっ。多少はマシになったかね」
「ああ、まあな。それでパリュは話があるって言ってたか?」
「ああ、そうさね。こいつを見てみな」

 パリュの手元にあるのはブライダル雑誌。その表紙ではウェディングドレスに身を包んだ女性が華やかな笑顔を見せている。

「……ん? パリュが結婚……、なんてするわけ無いか」
「当たり前だろう。何とんちきなことを言っているんだい、ぬしは……」
 パリュは心底呆れたような声を出す。
「そうじゃない、こいつだよ」

 パリュ雑誌に爪を立てる。立てたのは女性の首元。そこにはパールのネックレス、その先にはティアドロップの淡く青に透き通った宝石が輝いていた。

「こいつが次のターゲットだ」





「にぃ。ホントはまだ先にしようと思ってたんだけどねぇ。いいのか悪いのか……。ぬしがあの水晶を見つけてきた。これを機にこいつを狙おうと思ったのさ」
「なるほど……。これをターゲットにするのはいいんだけど、これってどんな石なんだ?」
「おっとそうだね。とりあえず22ページを開きな」

 麻琴が雑誌のページをめくる。
 そこでは市中にある大きなブライダル会館を特集していた。
 ビル一棟分の様々な会場。そして貸衣装や貴金属、装飾品が紹介されている。その中に表紙の女性が身につけたネックレスもあった。

「にぃ。読めばわかるがそれは【夜の女王の涙】なんて小洒落た名前で呼ばれるネックレスだ」
「んと……。ああ、ここか」
 麻琴は【夜の女王の涙】がかかれた部分を見つけ出して読み上げる。
「なになに……。胸元に行くに従って大粒になる真珠はだんだんと満ちていく月を表し、その先端にはティアドロップ状の冷たくも透き通った、大粒のブルームーンストーンを配している。まさしくこれは夜の女王たる月の涙に他ならない。だって……」

 それを聞いたパリュは満足げにしっぽを揺らす。

「そう、その部分だ。読んでわかっただろうが、そのネックレスには月の要素がこれでもかと詰め込まれている」
「ああ……。だからこれを狙うのか」

 麻琴が納得したとばかりに頷いた。

「にっ。あちが元の力を取り戻すには月と太陽のエレメントが必要。こいつはその片割れになり得るものだよ」
「そうか……。そうして力を取り戻したパリュなら父さんと母さんを治せるって訳だよな」

「にぃ」
 パリュは頷く。
「あちとぬしの契約期間は、あちがぬしの協力で力を取り戻して二人を治すか、それともぬしがあちの教えを受けて二人を治すか。どちらかが達成されるまでだからね。これであちの半歩リードって所かい?」

「どっちでもいいよ。またみんなで食卓を囲めるなら」
「……なんだい、張り合いがないねぇ」

 パリュは雑誌の上にぺたりと力なく伏せる。

「ああ、もう。読んでる途中なのに……。ってあれ?」
 何かに気づいたのか麻琴は声を上げた。
「このブライダル雑誌、6月号じゃん」
「にぃ。真珠もムーンストーンも6月の誕生石だからね。たぶん合わせたんだよ」
「いや、そうじゃなくて。この【夜の女王の涙】のこと、ずいぶん前からわかったたんじゃないか?」
「ああ、そんなことかい……」

 パリュはため息と共につぶやいた。

「そんなことかいって……。あそこのブライダル会館にこれがあるってるんだったら、もっと早くターゲットにしてもよかったんじゃないのか? なんで今まで……。いや、もっと先でもいいみたいな言い方をしたのさ」
「今までのぬしじゃあこれを十全に扱えないからだよ。あちが使うだけならそりゃいつでもいいさ。でもどうせなら主も使えた方がいいだろう?」

「まあ、そりゃそうだけど……」
「【蒼のメリクリウス】のおかげで、ぬしも大分石の声がわかってきたようだからねぇ。そろそろいいかと思ったんだよ」
 パリュのしっぽが力なく机をたたく。
「それよりもあちはお腹がすいたんだがねぇ。そろそろご飯の用意をしてくれないものかね」

「お、おう。そうだな……。確かにお腹はすいた」
 麻琴は戸惑いつつも立ち上がる
「明日の弁当の準備もあるしな。ちょっと待っててもらえるか」

 何があったかなとつぶやきながら冷蔵庫に向かう麻琴。それを眺めながらパリュは口の中でつぶやく。

「ぬしは理解してるのかねぇ、契約期間が終わったらどうなるか。勝ち負けがそれにどう影響するのかって……」

 そのつぶやきは夕飯の準備の音に紛れて消えていった。
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