継承のエルキュリエ

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3章: 王女の覚悟

全面戦争

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「お前、一体何なんだよ?」
 ニールは答えない。今度は槍を引き抜こうとするサクルムだったが、ニールの腕はそれさえも許さなかった。さっきの会話から全く変化を見せない無表情のまま、足掻く槍を完全に抑えている。ニールの考えの一つも読み取れないサクルムだったが、直感が閃いたように持っていた槍を即座に手放す。柄を握られた自分の身に迫る危険を、槍の達人たるサクルムにはそれがよくわかっていたからだ。
次の瞬間には半分の長さになった槍を見て、サクルムの顔を冷や汗が伝う。
「さっき、俺は何だと聞いたな?」
 顔を上げたニールは断ち切られた矛先を無造作に投げ捨てる。
「ニール=サレン。お前の墓標の末尾に記される名だ」
「ニールだと?」
「それより早く終わらせろと言ったんだが、まだ続けるつもりか?」
「はっ! 抜かせ!」
 サクルムは腰から直剣を勢い良く引き抜き、突き立てた剣を突進させる。槍よりもリーチが短いとはいえ、その鋭さはそれほど劣っていない。ニールに反撃の隙を与えまいと、瞬くように距離を詰めてくる。
「しゃあっ!!」
 サクルムの剣先がニールの小さな眉間に迫ってくる。触れるか触れないかという距離まで詰められた死の危険を、ニールは首の動き一つで回避。突進するサクルムと身体を交錯させながら横に倒したエルキュリエの剣を懐に潜らせる。
「がはっ!」
 激しい金属音とサクルムの悶絶が耳元でした。腕に伝わる抵抗を押し切るようにニールが赤い刀身を一回転すると、空中に投げ出されたサクルムの身体が大きく反れる。
「くそぅ!!」
 そのまま地面に倒れ込むのかと思えば、そうはなからなかった。ニールに斬られる寸前、身に着けていたわずかな面積の胸甲を刃に押し当てて致命傷を防いだのだろう。器用に身を捩らせたサクルムは何とか両足を地に着けるが、斬撃のダメージが堪えたのか片足は膝立だった。
「しぶといな」
「くそっ!! くそっ!!」
 激しく毒気づくサクルムは地面の木の葉を握りしめた。
「こうなったら野郎ども! このガキを袋叩きにしろ! 残った王国軍も皆殺しだ!」
 功名も、騎士としての名誉も忘れ、ただニールへの殺意だけを心に満たしたサクルムは麓の兵士達に向かって咆哮した。帝国兵達はわずかに戸惑ったが、厳しい規律と訓練が奏功して機動は早かった。剣と槍の鋭鋒がサクルムを追い抜き、まずは最前列のニールに殺到する。
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