善行も野望もコツコツと ~叩き上げ聖女は追放されて帝国再建を計画する~

自慰煽情のアリア

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序章: 聖女になるのにどれだけ大変だったと思っているの?

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 昼を告げる鐘楼が鳴る。
 広々とした聖堂一杯に延々と横たわる長机に、数十人ほどの子供達が食卓を囲む。
「今日の糧と、私たち家族の安寧に心より感謝いたします。アーネット神様」
 机の一番奥で、修道女の格好をした女性がお祈りをする。
 それを倣って年齢も容姿も様々の子供達も一斉に祈りをささげる。
 ただ一人を除いて。
「あらイシリアちゃん。今日もお祈りをしなかったの?」
 食卓を前に、一人悶々とした様子で机に肘を立てるイシリアを別の修道女が窘める。
 それでもイシリアは祈りを捧げることはなかった。
 存在しない神に祈りを捧げるほど、時間の無駄はないと決め込んでいたからだ。
 敬虔だった両親を救いもせず、ただ人心を惑わす神の存在など、もはやどうでもよくなっていた。
 唯一感謝することといえば、アーネット神教の理念の下設立された孤児院に上手く潜り込めたことくらいだろう。
 しかしそれも、アーネット神が最初からイシリア達に救いの手を差し伸べてくれるならば、イシリアが一人でこんな所に来ることはなかったのだ。
 そういうわけで、イシリアは生きる術として、この孤児院で暮らしている。
 両親の形見である女神像はまだ、手元に残している。
 孤児院の経営者達は女神像を手に一人訪れた女の子を手厚く歓迎してくれたが、アーネット神に対する不遜な態度のせいか、イシリアは孤児院の誰からも孤立した存在だった。
 午後になって子供達が遊ぶ間、イシリアは木陰で枝を握りしめている。
 地面には四角やら丸やら、文字なのか図形なのかよくわからないものが描かれている。
 本人に言わせれば、それは文字のつもりである。
 街の店に掛けられた店の名前を見よう見まねで書いたつもりだが、何かが違う気がしてならない。
 文字の練習をして生きる術を身に付けるつもりだったが、これでは先が思いやられる。
 そんな生活が続いたある日、イシリアの人生に転機が訪れる。
 その日は孤児院中の全員が、食事の時間でもないのに広々とした聖堂に集められた。
 彼らが対面するのは孤児院のスタッフにあたる修道女達の一団と、それを警護する兵士らしき軽武装の男達だ。
 いずれも普段は孤児院で見かけない顔だった。
 連中の正体はわからなかったが、中心で一際高価な装飾をまとう修道女の一人が、トップであることはすぐにわかった。
 レースや金細工に富む青の法衣をまとい、イシリアと同じ長々と伸ばした金髪をヴェールに秘めた穏やかな雰囲気の女性がこちらに微笑みかけている。丁度、彼女の背後に聳えるアーネット神の彫像みたいだ。
「皆さん、こちらはアーネット教の最高峰、フランデリカ聖女様でいらっしゃいます」
 修道女達は両手を胸に当て、片膝をつく。
 子供達も見よう見まねで真似をした。
 無論、イシリアだけは立ち尽くすままだ。
「小娘! 聖女様の御前だぞ!」
 一人浮いた存在のイシリアを、兵士が見とがめた。
 聖女はすかさず手を挙げて険悪な様子の修道女や兵士を牽制した。
「あなたは、偉いんですか?」
 イシリアが唐突に質問をする。
 孤児院側の修道女達は度重なる非礼にたじたじとしていた。
「ええ、偉いという言葉にも、色々な意味がありますが、人々から崇拝を受けるという点で、私はそういう立場にいられる人間です」
 聖女は優しい口調で説明した。
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