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3章: 威厳なき名家
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「お話というのは当該地域の領民のことですが――」
「男爵閣下。ここは北方の地で気候的にも恵まれていないことは十分に理解しています。しかし、帝国の爵位を与えられた領主として、国境線と領民を守ることは当然の義務と考えます!」
レムダより先にフェリスが口走った。
「えっと、フェリスさん?」
「昨夜、野盗が押し掛けて村を焼き払おうとしたのですよ! 私が止めなかったら村は既になくなっていました。あのような土地でも必死で生きようとする民を、どうしてもっと大事に思わないのですか?」
「野盗、ですと?」
「私達は正式にこの地の防衛を命じられていないため、いずれこの地を離れなければなりません。そうなれば、村人達はまた脅威にさらされます。どうか、警備隊をアトロネーゼにも割いてくれませんか?」
「・・・・・・善処しましょう」
ガウリゼン男爵は面倒そうに言った。
無論、その約束が果たされると信じるほど、フェリスもお人好しではなかったが、彼の言葉を疑う証拠もあるわけではなかった。
「時に男爵閣下」
「まだ何かございますかな?」
「一つ提案をさせて頂きたいのですが、アトロネーゼを他の領主に譲渡するお気持ちはございませんか?」
「何を言い出すかと思えば・・・・・・領主が自分の領地を手放すなど、あるはずがなかろう!」
「しかし先程のお話から察するに、男爵閣下はあの地域をそれほど惜しいともおもわれていないようですが?」
「とはいえ、アトロネーゼは先祖代々受け継ぐ領土である。他の誰にもくれてやらぬわ!」
「もちろん、譲渡といっても無償でとまでは申し上げておりません。しかるべき対価、帝国金貨五百枚はいかがですか?」
「五百枚か・・・・・・」
この国の経済基準からすれば相応に重みのある額だった。
この至る所が金装飾の豪邸は無理としても、立派な庁舎一棟に相当する。
「ガハハハッ!! これは面白い。レムダ殿はご冗談が上手いな!」
「いえ、正式な契約のつもりで申し上げています」
(ちょっと、何て約束をしますの!)
横合いからフェリスが肘で小突く。
無論、今のレムダにもフェリスにも逆立ちしてもそんな大金は工面できない。
「あのような貧しい土地に、いかなる諸侯がそのような大金を払って欲しがるというのかな? それに、土地を手に入れた所で中央政府への書簡のやり取りと維持管理の諸経費が圧迫して、大損を被るに決まっている。今時、そこまで浪費癖のある貴族はいるまい」
「商談相手はこれから探しますが、もし買い手が付けば予め男爵閣下のご承認を得なければ、二重所有になってしまいます」
「いいだろう! いいだろう! あの土地で買い手が付けば、金貨五百枚で売ってやる!」
二つ返事、というより承諾があろうがなかろうがどちらでもよいといった口ぶりだった。
ともあれ、現領主からの約束は取り付けたわけである。
「閣下、よろしいのですか? 先日あのような約束をされて・・・・・・」
執事が出て耳打ちをする。
何を話したのかは聞き取れないが、レムダにはおよその察しはついている。
「ではこれより、村に戻って商談手続きを進めます。最後に本日のお約束、後程書面として頂戴してもよいですか? 帝国の法典で定められております故」
「よかろう。何をしている。羊皮紙と羽ペンを持ってこい」
レムダ達はガウリゼンの書面を受け取ると、すぐさまアトロネーゼの村に戻った。
「男爵閣下。ここは北方の地で気候的にも恵まれていないことは十分に理解しています。しかし、帝国の爵位を与えられた領主として、国境線と領民を守ることは当然の義務と考えます!」
レムダより先にフェリスが口走った。
「えっと、フェリスさん?」
「昨夜、野盗が押し掛けて村を焼き払おうとしたのですよ! 私が止めなかったら村は既になくなっていました。あのような土地でも必死で生きようとする民を、どうしてもっと大事に思わないのですか?」
「野盗、ですと?」
「私達は正式にこの地の防衛を命じられていないため、いずれこの地を離れなければなりません。そうなれば、村人達はまた脅威にさらされます。どうか、警備隊をアトロネーゼにも割いてくれませんか?」
「・・・・・・善処しましょう」
ガウリゼン男爵は面倒そうに言った。
無論、その約束が果たされると信じるほど、フェリスもお人好しではなかったが、彼の言葉を疑う証拠もあるわけではなかった。
「時に男爵閣下」
「まだ何かございますかな?」
「一つ提案をさせて頂きたいのですが、アトロネーゼを他の領主に譲渡するお気持ちはございませんか?」
「何を言い出すかと思えば・・・・・・領主が自分の領地を手放すなど、あるはずがなかろう!」
「しかし先程のお話から察するに、男爵閣下はあの地域をそれほど惜しいともおもわれていないようですが?」
「とはいえ、アトロネーゼは先祖代々受け継ぐ領土である。他の誰にもくれてやらぬわ!」
「もちろん、譲渡といっても無償でとまでは申し上げておりません。しかるべき対価、帝国金貨五百枚はいかがですか?」
「五百枚か・・・・・・」
この国の経済基準からすれば相応に重みのある額だった。
この至る所が金装飾の豪邸は無理としても、立派な庁舎一棟に相当する。
「ガハハハッ!! これは面白い。レムダ殿はご冗談が上手いな!」
「いえ、正式な契約のつもりで申し上げています」
(ちょっと、何て約束をしますの!)
横合いからフェリスが肘で小突く。
無論、今のレムダにもフェリスにも逆立ちしてもそんな大金は工面できない。
「あのような貧しい土地に、いかなる諸侯がそのような大金を払って欲しがるというのかな? それに、土地を手に入れた所で中央政府への書簡のやり取りと維持管理の諸経費が圧迫して、大損を被るに決まっている。今時、そこまで浪費癖のある貴族はいるまい」
「商談相手はこれから探しますが、もし買い手が付けば予め男爵閣下のご承認を得なければ、二重所有になってしまいます」
「いいだろう! いいだろう! あの土地で買い手が付けば、金貨五百枚で売ってやる!」
二つ返事、というより承諾があろうがなかろうがどちらでもよいといった口ぶりだった。
ともあれ、現領主からの約束は取り付けたわけである。
「閣下、よろしいのですか? 先日あのような約束をされて・・・・・・」
執事が出て耳打ちをする。
何を話したのかは聞き取れないが、レムダにはおよその察しはついている。
「ではこれより、村に戻って商談手続きを進めます。最後に本日のお約束、後程書面として頂戴してもよいですか? 帝国の法典で定められております故」
「よかろう。何をしている。羊皮紙と羽ペンを持ってこい」
レムダ達はガウリゼンの書面を受け取ると、すぐさまアトロネーゼの村に戻った。
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