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5章: 力なき王族

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 体よくヒンデス王をそそのかし、タイミングを見計らって帰国したレムダは事の子細をリタに告げた。
「あの、すいません。それって――」
「何をやっているんですか!! あなたは!!」
 フェリスが机をたたいて立ち上がった。
「戦争を止めると言っておきながら、武器を作るためのお金の増やし方を教えるなんて、全くの逆効果ではありませんか! あなたを信じて待っていたというのに!」
「落ち着いて下さい。それでいいんですよ」
「だから、何がどうしていいわけさ?」
「私もよくわからない」
 シアが首を傾げるのはまあ、予測できたことだ。
 今回の策略は少し難し過ぎただろうか。
「順を追って説明しよう。僕はヒンデス国で大量の金貨を作らせた。向こうはそれを使って武器の原料その他諸々を調達するだろう。だけどよく考えて欲しい。金貨というのはそもそも、金貨だからこそ貴重なものなんだ」
「当たり前のことを言っているようでよくわからないけど?」
「つまり、純金そのものが貴重だから、金貨はそんなに枚数を発行できなかった。だから今までは作りたくても作れないから、非常に価値のある通貨だった。それが一気に数を増やしたとしたら、いくら金貨でもありがたい存在ではなくなるよね?」
「そうなると、どうなるのですか?」
「簡単なことだよ。ヒンデス国の通貨そのものの価値がなくなる。ゆくゆくは武器の原料も輸入できなくなって、もう戦争のための武器は作れなくなる」
 いわゆるインフレ地獄により経済は瓦解し、もはや戦争どころではなくなるというわけだ。
「そんなことをよく思いつきましたね」
「しばらくは大変だろうけど、民が死ぬわけでも国土があれるわけでもない。だったら立て直しは可能だ」
「本当に、これで戦争がなくなるのですね?」
「ほとぼりが冷めたら、国王を助けてあげるといい」
「あ、ありがとうございます」
 結果を言えば、レムダの予想以上にヒンデスの経済崩壊は早かった。
 そこら中で余ったヒンデスの金貨は遂にはまとめて川に捨てられているほどの始末だったという。
 国王とその取り巻きは杜撰な内政の責任を取って退陣し、半ば責任を押し付けられる形でリタが後任となった。
 それでも彼女は父親よりも優秀で、荒れた国を少しずつ修復を始めているという。
 
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