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番外編 すれ違う再プロポーズ
1-1
しおりを挟む夜景の綺麗な高層ホテルのレストランの窓際で、拓斗くんと向かい合って座っている。拓斗くんもにっこり笑って幸せそうで、私も嬉しくなって頬が赤らんだ。
私のこっちからフラれよう作戦は大失敗に終わり、――失敗して良かった……――拓斗くんが私のことを本当に好きなんだと再認識できた。
大変だったのはその直後。拓斗くんに久しぶりに抱かれて、久しぶりすぎたからなのか、ものすごく感じて乱れてしまった。恥ずかしいほどにあられもない声と姿を大好きな人の前で晒してしまい、経験の少ない私にはキャパオーバーだった。彼の腕の中にいる間はずっと訳もわからず快感を受け止めることしかできなかった。
以前付き合っていた時に抱かれた時とは全く別人のような拓斗くんの愛撫をこの身体全身で私は受け止めた。拓斗くんも溜まっていたものを吐き出すかのようにめちゃくちゃに私を抱いた。
気を失うまで。
確かに遠慮しないでとは言ったけど……!
起きてすぐに拓斗くんをベッドの上で正座させて、ごめんなさいさせた。「もう気を失うまではしないでって約束してしてね」と言ったのに、拓斗くんは「彩綾の嫌がることはしないよ」と言った。私は拓斗くんの反省した様子に満足して、その場では納得しちゃったけどちょっと時間がたってから「あれ?」と思った。
拓斗くんを問いただそうと思ったのに、なんだかそういう雰囲気になっちゃって、また拓斗くんとシしてしまった。結局そのことについては再度問いただす事もなかった。
拓斗くんのプロポーズは本当に嬉しかった。びっくりしすぎて夢かと思った。だって、フラれようしてたし。拓斗くんにフラれる気満々で、覚悟を決めていたから。
私のことを1番に、ううん、私今度はだけを好きでいてくれるんだ。
こんなことってあるんだ。
ずっとずっと好きだった。
最初に付き合ってる時も、私のほぼ片想いみたいな感じだったし。
拓斗くんが精神的にも身体的にも落ち込んじゃって、泣いて縋って私と再度付き合ったのも、拓斗くんのプライドを取り戻すためだと思っていた。拓斗くんが満足して私がフラれるまでのお付き合いだと割り切ろうとしていた。
プロポーズで指輪も準備してくれて、お互いの両親に挨拶までして結婚式の日取りも準備も進めてくれれば、流石の私も、拓斗くんが本気なんだって実感できた。
本気で私のことを好きで、結婚してくれるんだ。
私だけの一方的な想いじゃなく。
こんなに、大好きな人と両思いで以前とは違って大事に大事にしてくれる。
彼に対する大好きがもっと溢れてくる。
気持ちも、そして身体も拓斗くんに満たされて、私の全てがとろけそうだ。
金曜日の夜の2人だけの特別なディナー。拓斗くんは席を立って、私に近寄って跪いた。
「大健彩綾さん、俺と結婚してください」
薔薇の花束を前に差し出されて、照れたようにはにかむ拓斗くんがとても可愛くて、格好良くて。ぶわっと幸せな気持ちで心が満たされた。
「はい、私とずっと一緒にいてください」
花束を受け取ってそう返事した。
ふわふわと2人だけの時間が流れて、幸せな心地だった。
ディナーコースの最後にウェイターがデザートを運んできてくれた。そのウェイターは、私の指に嵌っている輝くダイヤモンドの婚約指輪と花束を見て、
「ご婚約おめでとうございます」
と言ってくれた。
その言葉に、私はさらに嬉しくなった。
「はい、ありがとうございます」
ウェイターの人もにこにこと給仕をして下がっていった。
緩んだ頬がどうしても元に戻らずに花束と指輪をじっと見つめてしまった。
薔薇の花束なんか初めてもらった。とても綺麗に飾り付けられていて、キラキラしている。花びらにもラメが装飾されているようだ。
受け取った花束をじっくりと堪能して、ウェイターが花束を置くように用意してくれた籠にそっと入れた。
色とりどりに飾り付けられたデザートプレートを食べ進める。ちょっと食べるのが勿体無いくらいにおしゃれだ。
ディナーの方も美味しかったけど、このデザートは見た目も味も高級ホテルの名に恥じないほど素晴らしい。
再度プロポーズしてくれた後に食べているからということもあるからだろうか。
本当に美味しくて幸せをひとくちひとくち噛み締めた。
「拓斗くん、デザートもおいしいねぇ」
「あぁ、……」
「……?」
なんだか拓斗くんは急に口数が少なくなったような気がして少し違和感を覚えた。
ひとめがあまりない高級なホテルのレストランだったが、公共の場でこんな大きな薔薇の花束を持ちながら跪くなんて男性にとってはやはり恥ずかしかったのだろうか。
でもそれにしては照れているという感じではない。表情は取り繕おうとしているが、なんだか不機嫌そうな、そんな雰囲気が滲み出てしまっている。
一体どうしたのだろう。
さっきまでの幸せな気持ちが一気に落ちていった。
そして急に不安な気持ちが迫り上がってきて、ネガティブな考えが脳裏に浮かんで消えてくれない。
やっぱり私なんかとの結婚なんて考えられなくなったとか?
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