【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

文字の大きさ
12 / 31

8-1 ⭐︎

しおりを挟む
育ての親を思いやる家族思いの青年。
 イチゴ、という異国風の名前も素敵だ。
 幼い見た目ながらも自分の意見をしっかりと言ってみせる彼に好感しか持てなかった。

 (好きだ……)

 私の頭は完全に初恋に浮かれてしまっていた。

 そこで一緒に住まないか?と持ちかけた。

 イチゴはぼんやりした顔で固まっている。

 その間に、イチゴのドラゴンのステーキが運ばれてきた。熱い鉄板に焼きたてのレアステーキがカットされている。

 いつまでも固まっているので、私は彼のドラゴンステーキを一切れ取って目の前に持っていく。

「はい、あーん」

 イチゴは素直にステーキを口の中に入れた。

 もぐもぐと口を動かすイチゴ。

「う、うまぁ……っ」

 きらっきらと瞳全体を輝かさせて美味しさを表現していた。
 その素直でわかりやすい表情が見ていてこちらも嬉しくなった。

 (こんなに喜んでくれるなんて、連れてきてよかった)

 二口目からは、もきゅもきゅと自ら残りを平らげていった。

「ここのドラゴンステーキはすごく美味しいよね。油もしつこくなくて、そんなに食べた後も重たくなくて女性に人気なんだ」

「めちゃくちゃ美味しいです! こんな美味しいものがあっただなんて……」

 一切れ一切れ、美味しそうに味わうのをみて、私も自分のサラダをつついた。

 コロコロと表情が変わるイチゴ。

 幸せそうに、ドラゴンステーキをもきゅもきゅと頬をパンパンにして食べる姿がたまらない。

(可愛すぎるだろう……!)

 内心、身悶えながらもそれを見せないように振る舞った。
 いきなりそんなところを見せて、引かれてしまってはいけない。

 顔に手を当てながらテーブルをダンダンと叩きまくりたい衝動を抑えた。
 
 「それで、どうだい? 私と一緒に暮らさないかい?」

「いや、なんでいきなり一緒に暮らすとかになっちゃうんです?」

 意味がわからない、といった顔で見つめられる。

「それが1番都合がいいかと思って」

「都合がいい……?」

 小首を傾げておうむ返しをするイチゴ。

「だって、君は住むところはまだ決まっていないだろう? 私と一緒に住めば住むところに困ることはないし、私も君のことをリオから守りやすくなると思ってね。一石二鳥じゃないかい?」

 ずらずらとそれられしい理由を並べて一緒に住む利点を述べる。
 
「それは……」

「それに、無一文の君を養ってあげられるしね」

 無一文は言いすぎたかな。
 でも、どうしても彼に「うん」と言って欲しくてこちらは必死だった。
 
「養うとかは……俺は別に働くつもりだし」

「もちろん、働くつもりの君を止めるつもりはないよ。ただ、働かなくても支障はないと言いたかっただけなんだ。どうかな?」

「……そう、ですね……すごくありがたいお話ですが、いきなり俺みたいなのが騎士団の団長様のお世話になるのは家の人たちも納得いかないのでは……」

 騎士団長という職業に就いているからか、よく貴族かなにかと間違われる。だが、私はもともとそんな身分の高い者じゃない。
 この団長という職には、底辺から這い上がって就いた。成り上がりというやつだ。
 
 私はそこら辺にいる王民と同じだ。
 ただ、獣の血がわずかばかりに流れている獣人であるが。
 
「騎士団長と言っても、私は孤児の成り上がりだからね。そんなに気負わなくても大丈夫だから」

「ぅええ?! スミスさん、孤児……だったんですか? 騎士団長様だから、貴族が何かかと思ってました! それに、所作も綺麗だし、言葉遣いだって!」

「騎士団に入る時に相当勉強したよ。どうしても上に行きたかったからね」

 孤児の待遇を少しでも良くしたくて、今の職業に就いた。
 少しずつだが、改善できていると私は思っている。

「すごい……ですね」

「そうでもないよ」

 孤児であったことを話すと一気に私への警戒心が薄れたのがわかった。
 それはそれで少し心配になった。
 王都には悪意を持って近づいてくる者たちがたくさんいる。そんな奴らの餌食にされてしまうのではと思った。そして、私が守ってやらなくては、という庇護欲もむくむくと湧いてきた。

「……迷惑じゃなければ、スミスさんのところで厄介になってもいいですか」

 この言葉を待っていたんだ。

「もちろん」

 すぐさまそう答えた。

 (厄介なものか。むしろ大歓迎だ)


 お互いランチを食べ終えた後、店員がデザートの宝石ベリーのタルトを運んできた。
 
「うわぁ、すごくきれい……!」

 無邪気にはしゃぐイチゴは、目の前の宝石のようなデザートに釘付けだ。

「そうだろう? 見た目も綺麗だが、味も抜群だよ」

 私の1番お気に入りのタルトで、値段もかなりするが、この店で大人気だ。

 サクサクのタルト生地の中には、カスタードクリームとアーモンドクリームが層になっている。

 その上から飴細工でコーティングされた美しい宝石ベリーたちが盛り付けてある。

 初見でこれをボロボロと壊さないように食べるのは至難の技だ。

 食べ慣れて初めて美しく綺麗に食べることができる。

 パクリ、と一口を味わって食べる。

 甘味と酸味と、そして濃厚なベリーの味がまたさらにじゅわりと溶け出す。

 イチゴはやはり苦戦しながらタルトを食べていたが、一口、ケーキを口にすると顔がふにゃふにゃになっていた。

「しあわせぇ……」

 ケーキを美味しそうに食べる目の前のイチゴは、いまにもとろけ出しそうだ。

 カスタードクリームをぽとりと胸元に落としてしまい、いそいそと指で拭って舐めるその姿に、私の股間はむくりと起き上がる。

 小動物のようで可愛い、と思いながらも、もし恋人同士になれたら、イチゴはどんな姿を見せてくれるのか。
 彼の卑猥な姿を脳内で想像した。

「ほんと、美味しそうだ……」

 隅々まで堪能したい。

 心の声が漏れ出てしまったが、イチゴは食べている宝石ベリーのタルトに夢中で私の呟きには気づかなかった。
 

 (イチゴは、私のミルクを飲んでくれるだろうか……)
 

 私はイチゴの口元ばかりに目がいった。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...