【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

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 結局初日は説得されてベッドでゆっくり寝て、次の日にスミスさんとギルドに行って身分証を発行してもらった。
 スミスさんが何かあった時の保証人になってくれたおかげで、書類なしでも王都への住民移動の手続きができた。

 何か問題が起きればそれはスミスさんに迷惑をかけることになる。元々問題を起こすつもりなんてなかったけど、さらに身を引き締めて生活しないと、と気合いが入った。

 それに、問題は向こうからやってくるかもしれない。
 あの白髪の騎士、リオが気がかりだ。

 (いや、マジで逆恨みって何されるわけ……)

 スミスさんは全く心配いらない、私が守るからって言ってくれたけど、気になってしまう。

 そして、もう一つ俺には重大な問題があった。



 

「申し訳ありませんが、イチゴさんに紹介できるお仕事がありません」

 ギルドの受付で、ギルド嬢が申し訳なさそうに俺にそう告げた。

「どんなに小さい仕事でもいいんです。何かありませんか? ほら、俺って体力も腕力もあるし、荷運びとか得意ですし、ドブ掃除でも雑用でもなんでもやりますから! 気まぐれなペットのヌヌコーの捜索なんかも得意ですし! ね! ね?」

「そう言われましても、こちらとしましてはご紹介できる仕事自体がございませんので」

 目を逸らされて、そう言われた。

「そこをなんとか! お願いしますよぉ」

 仕事が全く見つからない俺は必死になってギルド嬢に泣きついた。
 もう1週間もギルドに毎日通い詰めているのに、一つも仕事を紹介してもらえてない。
 
 なんでぇ!
 東の民ってそんなに差別されるのぉ!

「イチゴさんを差別している訳ではないんです。ただ、小さな仕事から中ランクくらいの仕事は、みんな孤児たちに回ってしまっている状況でして」

「そんなぁ……じゃあ俺はどうやって仕事を見つければいいの……」

「イチゴさん、こんなことを言うのは本当は良くないんですけど、騎士団長のスミスさんにお仕事を紹介してもらってはどうでしょう?」

「え、スミスさんに?」

 ほえ? と、受付に突っ伏して泣いていた俺は顔を上げた。

「ええ。 スミス団長様であれば、きっとイチゴさんにぴったりの仕事を紹介してくれますよ! きっと!」

 受付嬢は熱の入った声で熱心に俺を説得し始めた。

「スミス団長様は本当に素晴らしい方で! 孤児院の子どもたちのことも考えて彼らにお仕事を紹介したりもしてるんです」

 キラキラとしたお目目で上の方を見ている。きっと彼女の頭上には妄想のスミス団長が浮かび上がっているんだろう。

「へぇ、そうなんだ」

 ギルドでも慕われてるんだ。

「そうなんです! 団長様が今のご自宅を購入したのも、孤児たちのためもあるんですよ」

「自宅を購入するのが孤児のため……ってどういうこと??」

 孤児とあの一軒家がどう繋がるのか理解できない。

「大きなお家を買って、それでギルド経由で孤児院の子どもたちにそのご自宅の管理を任せているんです。庭のお手入れや、屋敷内の掃除ですとか簡単なことですけど」

「あぁ! そういえばそんなことをスミスさん言ってたような」

 孤児院の子どもたちが定期的に出入りするから、念のために貴重品や盗まれたくないものは身につけているか、ギルドの金庫に預けるようにと言われたのを思い出した。
 
 スミスさん、孤児に頼める仕事を増やすためにわざわざ自宅を購入したの?!
 すごくないか?

「ええですから! ぜひ、スミス団長様に聞いてみて下さい」

「う、うーん……わかりました……」

 俺はカウンターから身を乗り出す彼女の勢いに押されてそう答えてしまった。そして肩を落としてギルドを出た。

 わかりましたとは言ったものの、これ以上スミスさんを煩わせるのはためらわれる。

 家に住まわせて貰って、なおかつ衣食住も頼り切りだ。
 昔着ていた自分の古着だから、と言って貰った服を今着ている。そして毎食のご飯もスミスさんのお金でまかなっているのだ。

「東の民ってだけで、こんなに職探しに困るなんて……」

 はぁ、と大きなため息を吐いて独り言を言う。

 こんなに邪険にされれば、ため息も独り言も大きくなってしまうよ。

 ギルド嬢は仕事自体を孤児たちに回してるなんて言ってたけど、きっとこの容姿のせいで、あまり任せられる仕事がないのだろう。
 依頼主に嫌がられるんだろうなぁ。

 この王都では俺と似たような容姿をしている人はほとんどみかけない。
 得体の知れない異民族風の男を雇う者はいないのだ。

 さらに、はぁ、とため息が漏れた。

 
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