【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

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いらっしゃーい! 王都名物コカトリスの串焼きだよー!」
 
 屋台の店主たちが呼び込みをして声を張り上げている。人混みも多くなってきて、屋台街は賑わいを見せていた。
 
 夕方になって、あたりは段々と暗くなってきていたが、街灯の灯りと、屋台の屋根についたライトでかなり明るい。

「こっちはコカトリスのキモの串焼きだぜ。そこのかわい子ちゃん、味見してってよ!」

 声かけしてた屋台のおっちゃんとおもいっきり目が合った。まだ見て回りたかったし、距離があったからとりあえずはその声かけにニコッと笑って手を振るだけにしておいた。
 
 町中を歩いているとよく「かわい子ちゃん」って子ども扱いされる。声をかけられるたびに、俺もう成人してんだけどなぁーって思う。



 肉の焼けるいい匂いのする屋台の前を通りかかった時、またお店の人から声をかけられた。

「ここの串焼きは秘伝のタレに漬け込んでるから一味違うぜ! お兄ちゃん、買ってかないかい? 可愛いからサービスしちゃうよ?」

 口の上手い店主で、俺のことを可愛いとか言って持ち上げて串焼きを買わせようとしてくる。

「んー、ひと通り見て回ったらまた来るよ」

 そう言って屋台の店主に断りを入れた。

「はいよー。絶対またきてよ」

 俺相手に可愛いとかどうかと思うけど、褒められて悪い気はしないよな。後でまた食べに来ようかな。秘伝のタレの味も気になるし。

 

 仕事終わりにスミスさんと屋台飯を食べて帰る約束をしていたけど、スミスさんの仕事がまだ終わらないので、先に屋台を見て回っている。

 スミスさんも、申し訳なさそうにして「先に行ってて、なんなら先に食べててもいいからね」って言ってた。
 けどすごく寂しそうに言ってたから、気になるお店をチェックして、スミスさんが来てから一緒に買いに行こうと思っている。

 スミスさんが気になっているって言ってたスイーツのお店も探しておかなきゃな。
 たしかガレットのお店って言ってたけど。ガレットってどんなん?
 女の子がいっぱい並んでるお店がそうかな?

 夜の出店はあまり女の子がいないかとも思っていたけど、普通にみんな買い食いしてる。

 王都は治安がいいんだなー、なんて思いながら色々見て回った。

 歩いていると、女の子たちがいっぱい並んでいるお店を見つけた。
 ガレット焼き、と看板があった。

 (これかー、スミスさんの食べたがってたガレットは)

 どんな感じなのかなーとお店の人が作っているところを横から見ようとした時だった。


 
「おい! お前!!」

 

 いきなり後ろから肩を掴まれて力任せに引っ張られた。

 振り向くと、1番会いたくないやつだった。

「げっ……リオ!」

「やっと見つけたぞ」

 リオはそのまま俺の腕を引っ張って路地裏へと連れ込んでいった。
 
「おい! なんだよ、離せよっ!」

 いきなりのことであまり抵抗が出来なくて、ずるずると体を引きずられてしまった。それでなくてもかなりの怪力だ。

「いっ……!」

 思い切り壁に体を打ち付けられ、そして次に地面に叩きつけられた。

 (っ、いってぇー!!)

 いきなり変な方向に引っ張られて受け身をうまく取れなくて、足首を捻ってしまった。
 
 ズキズキと痛みがひどい。

 (ヤバい、逃げらんねぇ)

 後ろは行き止まりだし、目の前にはリオが仁王立ちしている。

「お前のせいで1週間の謹慎処分に減給処分も受けた。どう落とし前つけてくれんだよ」

 ギラギラと血走った目で、正気ではなさそうだった。

 見かけないと思ったら、そういえばその時にスミスさんから謹慎処分をくらっていたっけ?
 そりゃ見かけないわけだ。

 (マジで詰んだ。どうしよ……)

 その時、チャリ……と胸元で音がした。

 (そうだ、いざという時の笛! スミスさんから貰ったんだった!)

 服の中から笛を取り出し、ぎゅっと手の中に握り込む。

「それ! スウィッツァラルド団長のものだろ!  何でお前が持ってるんだ。チッ、あの人の周りをうろちょろするな! お前みたいなのがそばにいていい人じゃないんだ。あの人の隣には、俺がいるべきなんだ。俺みたいな、あの人と同じ尊い血が流れる血筋がな!」

 (同じ尊い血ってなんだよ。生粋の王都民同士ってことか?)

「こんなとこ連れてきて、俺をどうしようっていうんだよ」

「まず、俺の気がすむまでボッコボコにして、それからオークにでもくれてやるよ。あいつら、入れる穴があればなんでもいいらしいしな。見境なく陵辱しつくして、死ぬまでヤられるさ」

「お前、マジでさいってーなヤロウだな」

 オークは醜い姿をしているモンスターで、他種族の女性を攫い、犯して孕ませる。男が捕まった場合は、リオが言うように死ぬまで陵辱されるということは噂でも聞いていた。

 足首はどんどん痛みが酷くなるし、1人では逃げられないのはわかりきっていた。
 
 リオはクソやろーで、変態やろーで、大ピンチだ。

 リオが掴みかかってくる。

「その笛を返せ移民族め! お前なんかが持っていていいものじゃない」

 (迷惑かけちゃうけど仕方ない、スミスさん! 助けて――!)

 握り込んでいた笛を思い切り吹いた。

 

「……は?!」


 
 (ぜんっぜん鳴らないんだけど!)

 もう一度思い切り吹いてみても、全く音が鳴らなかった。

「んだよ! 不良品かよ! スミスさんのばかー!」

 (こんな大事な時にぃ……!)
 

『コレを吹いたら私に聞こえるから。どこにいてもすぐに駆けつけるよ』
 

 スミスさんがそう言ったのに!
 嘘つきのホラ吹きー!
 ばかー!
 あほー!
 あんぽんたんー!

 俺は腕力体力は人並み以上にあるけど、それと喧嘩が強いこととは別の話だ。
 暴力にはめっぽう弱い。
 
 (あぁ! もう! ボコボコにされるのは仕方なしにしても、陵辱エンドとか絶対いやだー!!)

 なんとかこの場を切り抜けないか、考えてみても、何も浮かばない。

 頭上からリオの魔の手が迫り来る。

 (……スミスさん! たすけてっ……)

 
 
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