やんちゃ系イケメンに執着されて他に彼氏作ったように思わせたらブチ切れられた

ノルジャン

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「多分……ここと、ここと、ここら辺出ると思うから勉強しといて損はないよー」
「……本当ですか?」
「宮っちの講義は一年生の時から受けてるから、テストに出す問題の癖もなんとなくわかるよー」

 要領良くて頭良い人はそんなこともわかってしまうのか!これが当たったらすごいな。とりあえず言われた所は勉強しとこ。
 

 今更だがものすごい近距離に先輩の顔がある。今先輩は教科書を眺めながら下を向いている。
 大きな目の上には長いまつ毛が生えている。目線が下になって考え込んでいるような、すごくアンニュイな表情だ。
 いつもあまり見せない表情で、距離が近いこともあり、なぜか緊張感が増してきた。
 
 ――あれ?何で私こんな緊張してるんだろ。

 私は先輩のことなんて何とも思ってないのに。

「ん?どうしたのみうちゃん。またわかんないとこあった?」
「な、なんでもないです」

 動揺を悟らせたくなくて、教科書に顔を埋めた。もう先輩の顔を見れなかった。

「そうだ、みうちゃんまだ連絡先聞いてなかったから教えて」
「いやです」

 こういうのは迷わずはっきりと対応するのがベスト。スパッと断った。それでも先輩は聞いてない。

「これ、俺の連絡先のバーコード、読み取って」
「いらないです。読み取らないです」
「……読み取ってくれないならここでちゅーするけど?」
「え?!」

 こちらが驚きの表情をしている間に顔を真正面から覗き込まれる。おまけに後ろの首を掴まれて、下顎を手で固定され、完全に退路を塞がれた。成撮先輩の吐息がかかるくらいの距離。
 思わず目が先輩の口元に釘付けになる。薄めの唇が、少し開いていて色っぽい。唇が乾いたのか、ぺろっと舌を出して舐めまわした。
 濡れた唇が艶かしく光る。

 ドッドッドッと心臓の音が先輩にまで聞こえてしまうんじゃないかってくらい大きく鳴っている。

「わ、わかりましたから離れてください!」

 両手で先輩の分厚い胸板を押し返した。全く動かなかったけど、先輩は自ら離れてくれた。ホッとして息を吐く。
 いくら図書館の隅の人気のない所だからって無節操な。公共の施設内ですけど!
 私は先輩みたいにモテないから男女のこういう交流には慣れてないのだ。
 まだ心臓がドキドキしてる。
 
 一方の先輩は肘をついて余裕の態度だ。ケータイを操作して私に見せてくる。仕方なく私は先輩の連絡先バーコードを読み取った。

「今日から毎日連絡するからね。ちゃんと返信してね、みうちゃん」
「……」
「返信してね?」
「……ハイ…」

 圧が強い。思わずハイと言ってしまった。
 
 その後も外が暗くなるまで図書館で二人勉強した。人文学とか暗記ものは語呂合わせとかで覚えるといいよ、と言って、先輩が作った語呂合わせ帳みたいな物をもらった。
 結構使い古されていて、ノート帳の端が何度もめくっているせいで変色しているし、少しかけてきていた。
 ノートの中を確認すると、語呂合わせは無理矢理ゴロを合わせに行った、みたいな面白いものもあってくすりと笑ってしまった。先輩もこんな風に普通に勉強してるんだと思ったら面白くなってしまった。先輩も私と同じなんだなぁと親しみを覚えた。

 強面のチャラ男たちとつるんでいる先輩もチャラチャラしているかと思いきやそうでもないみたい。

 だけど、家に帰って気づいたら先輩からのメッセージが30件以上入っていてびっくりした。
 
『俺はいえついたよー』
『みうちゃんはー?』
『いまどこ、』
『しんぱい』
『家着いたら連絡して』

 そんなようなメッセージがずらり。急いで入力したからかタイプミスなんかもあったりした。

 とりあえずそれらに『家に無事に着きました。おやすみなさい』と返信して、またピコピコと新規メッセージのお知らせが忙しなく届いていたが、後は無視した。
 
 テストの結果は、先輩と勉強する前の教科は最悪で赤点もポツポツとってしまい、二つほど単位を落とした。テストの点数が単位取得に満たなかったからだ。英語と人文学のテストはとてもいい出来だった。先輩のここ出る予想はほぼ的中したおかけだ。その点については先輩に大感謝。



 ◇

 次の日から先輩からの新規メッセージが止まらない。何なら電話もかかってくる。ひっきりなしに。ピロピロとうるさいのでマナーモードにした。そうしたら、ずっとバイブレーションでスマホが震えっぱなしになったので結局サイレントモードに切り替えた。

 これは嫌がらせなのか。マメな性格なのか。よくこんな連絡できるよね。よほど暇じゃないとこんなに連絡してこれない。
 流石にサークル活動中はあまり連絡ないけど、講義の合間の休み時間は絶対に連絡があるし、なんなら逐一居場所を教えてくる。

『今ニ階の渡り廊下渡ってるー』
『俺一階の食堂前歩いてるけどみうちゃんはー?』

 いらない居場所情報を発信してくる。

 逆に場所を教えてくれるからそこをなるべく避けるようにした。



 大学の学部棟。午前の講義が終わり、午後の講義まで空きコマだったので学部室にいこうと廊下を歩いていた。
 学部室は一年生から四年生へと開かれていて、自由に出入り出来るようになっている。室内には本棚が設置してあり、代々引き継がれている学科必修科目の過去問や論文なんかの参考資料が置いてある。それを空きコマで見に行こうと思ったのだ。
 今後論文のテーマも決めないといけないし、二年生の後期までには取れるだけ単位を取っておきたい。今度のテストでは失敗しないように余裕を持っておきたいから、置いてある参考書が良さそうだったらコピーでも取ろうと思っていた。
 学部室へ近づくにつれ、室内からから聞こえる話し声が大きくなっていく。ドアのそばまで来ると、かなり盛り上がっていて騒がしいくらい。それは成撮なとり先輩たちの声だった。
 そろりと気づかれないように中の様子を伺うと、いつものメンバーがいる。先輩と、先輩の友達三人でテーブルを囲んで座っている。
 中に先輩がいるので絡まれるとまた面倒くさい。今日は資料は諦めてまた後日来ようかと、そう思って立ち去ろうとした。
 そのとき自分の名前が呼ばれて、思わず足を止めてしまった。
 
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