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「みうちゃんだっけ?まさか、あの綾人が彼女作るとはなー」
「ほんっとそれ!絶対に特定の女作らずに、とっかえひっかえしてたお前がなぁ~。……なぁ、彼女と付き合ってどれくらい経ってんの?」
「んー、一ヶ月くらい」
「んだよー!俺、飽きて一週間で別れる方に賭けてたのによー!」
「俺は一日で別れるに賭けてた」
「俺は三日!綾人ぉ~お前の一人勝ちじゃん」
下品で楽しそうな笑い声が室内から廊下へと響いていた。本人たちは気にせずに笑い続ける。
「じゃあ次はいつセックスするか賭けよーぜー」
「俺はもうヤってるに賭ける!どうだ?綾人!もうヤることヤってんだろ?このヤリチンが!」
「うっせーんだよお前ら」
「じゃあ俺は今日から三日以内にセックスするに一万!」
「俺は今夜に二万~(笑)」
「お前~!今夜はやべーだろ!」
室内が笑い声で溢れかえる。
私はこれ以上は聞いていられないと、すぐにその場を立ち去った。
部屋から離れて歩く最中、頭がぐわんぐわんと回り始めて足元もぐらぐらとした。
会話の内容が頭の中でリピートされ、理解するのに時間がかかった。
成撮先輩は私とのことを友人達の賭け事の対象にしていたのだ。
いや、別にわかってたし。
先輩が私に対して本気じゃないなんてことは。
でもその事実を目の当たりにして、実際に先輩たちが私を笑い物にしているのを聞いてしまって、すごくショックを受けた。そんな自分自身にもショックを受けた。
――別に、成撮先輩のことなんて何とも思ってないし。そもそも告白もされてないし、付き合ってるって思ってるのは先輩だけで、そんな事実ないんだから。
そうやって精一杯否定してみても虚しくなるばかりで気は晴れない。
先輩に話しかけられて、実際に触れ合って彼と接する中で、私は彼の特別な存在なのかもしれないなんてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ思ってしまった。
熱い瞳に一心に見つめられて、甘い言葉に耳を傾けてしまった。
信じてもいいかもしれないなんて。
先輩なら、って。
なんて馬鹿なんだろう。大馬鹿者だ。
そして気づいてしまった。先輩は私に「可愛い」とは言ってくるけど、「好きだ」とは言われてなかったこと。
「好き」だなんて冗談でも本気じゃない相手に言えないよね。所詮ただの賭け事だもん。そこら辺にいる女と同じ。ううん、むしろ、それ以下だ。好きな女の子にこんな惨めな思いをさせる訳ないもん。
あんなにしつこく付き纏ってきた先輩の私への執着は本気なんかじゃなかった。悪友たちと盛り上がるための卑劣なお遊びだったのだ。
別に悲しくなんてない、悔しいんだ。そんな彼らのお遊びに引っかかってしまった自分に。けれど納得した。先輩の執拗なあの行動にはそういう賭け事という理由があったからなのだと。
小走りで下を向く私はキャンパス内の廊下を歩く学生たちとすれ違う。
鼻の奥がツンとしてきて痛い。
こらえろ、こらえろ。
耐えろ自分。
こんなとこで弱い所を見せるんじゃない。
震える手で握り拳を作った。
近くにあった女子トイレへと駆け込み、個室へ入って鍵を閉めた。その場にしゃがむ。
「……~~ーーッ!!」
腕で顔を覆い、二の腕を指が食い込むほど握りしめた。爪が肌に食い込んで痛い。けれどもっと痛いのは体の中心部。ズキズキと痛んで仕方がない。その痛みを誤魔化すようにさらに腕に爪を立てた。
平凡でモブ枠の自分が、あんな人気者のイケメンに好かれる訳ない。ありえない。
最初っからわかってたことじゃないか。
そんなこと。
私はしばらく個室に篭って出られなかった。
トイレで休んだら落ち着いてきた。
もうこのまま帰ってしまおうとも思ったけど、午後の講義はもうすでに出席日数がギリギリなので単位が危うい。
――講義はでないとダメか。
腫れぼったい目元を隠すように前髪を鏡の前で直した。
お昼休みはいつも友達と一緒にお弁当を食べている。大学は実家からの通いで、お母さんの言葉に甘えて今でもお弁当を作ってもらっている。今日はお母さんの都合でいつものお弁当がないので、売店に買いに行かないと。事前に買おうと思っていたのを忘れていた。
売店だと早めに行かないと売り切れてしまうことだってあるし、なによりものすごく混み合う。
空きコマで早めに売店へ向かおうと思っていたのに、気づいたらもうこんな時間になってしまった。
トイレからすぐに出て向かったけれど、やはり遅かったみたいで売店の前はかなりの人だかりだ。とりあえず人の波に乗って売店前に立ったが、たいしたお昼は買えないかもしれないなぁ。
まぁそんなに食欲もないから、いいか。
「あれ?みうちゃんじゃん。今日は売店飯?珍しー」
ギクリと体が揺れた。売店で売られているパンと飲み物をかかえた先輩に出会ってしまった。今日は上手いこと先輩を避けていたと思ったのに。今先輩に会いたくなかった。
声をかけられてしまったので、仕方なく返した。
「成撮先輩……はもう買ったんですね」
腕いっぱいの戦利品を見つめた。
「今日はゼミ研究を早めに切り上げたんだよね。美味そうなのいっぱいあって思わず買っちゃった」
三年からはゼミ研究で忙しくなると聞いていたけど、先輩は余裕そうだな。
「私はこれから買うので」
普段通りに接しようと思ってもやっぱり無理だった。いつも以上に冷たい態度になってしまう。
それじゃ、と売店の前にある人だかりの波に乗ろうとしたが、がしっと腕を掴まれた。
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