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6-1 綾人視点
しおりを挟む「ねぇ、綾人ぉ……シよ?」
「……いいけど、シたいならその気にさせろよ?んで上乗って腰振って」
マスクをしたまま、何の感情もなくそう女にそう言った。
大学校内の空き講義室。暗がりの中に俺と女だけがいた。
香水のキツい香り。マスクをしていても鼻にツンときて、気分が悪くなる。だけど目を瞑って刺激を受ければ勃つものは勃つ。顔も体もどうでもいい。女なんて突っ込む穴が有れば皆同じだ。
俺は股間へと顔を埋めてきた女のしたいようにさせた。一生懸命に口と舌を使って奉仕されて大きくなったモノ。女はそれを嬉しそうに見つめて、触ってもいないのに濡れたそこに俺のモノを入れ込もうと上に乗ってくる。
「ゴム付けるから」
持っていたゴムを取り出して自身に付けようとした。
「あたしはナマでもいいよぉ?」
むしろナマでしたい、という女の声を無視して手早く付けた。ゴムに細工でもされたら嫌だからいつも自分で用意して持ち歩いていた。
女は残念そうな顔をしながらも、俺の上に跨って挿入し、腰を動かし始めた。
――どんなビョーキ持ってるかわかんねぇヤリマン女とナマでやるかよ……。
しかもあんあんと甲高い声が耳障りな女だ。見ると、胸はデカいが、顔は化粧でケバい。今日は特にハズレだったとそう思った。
さっさと終わらせるために下から突き上げた。さらに女は声を張り上げた。クソうるさくて手で口を塞いで激しく揺さぶった。
それがこの女には興奮する材料になったらしく、すぐにイったようだった。俺はそんな女の様子は気にも止めず、射精へと向かうため好き勝手に動いた。
◇
ハズレを引かされた気分で、シた後だというのにいまいちスッキリとしなかった。こんなことなら、家でオナニーしてた方がまだマシだったな。そんな風に思うくらいに今の気分は落ち込んだ。
この後の講義も受ける気がなくなって、今日の所はさっさと帰ろうと女を残して講義室を出た。後ろから女の声がしたが、何を言っているのか、もう俺には雑音にしか聞こえなかった。
校内を歩いていると、ふと、今日提出期限の課題があることを思い出した。目当ての用紙を鞄から取り出す。提出期限は今日の午前10時までとなっていた。しかも宮教授の。
――ヤベェな。
提出期限にもうるさい宮は、一分でも時間を過ぎると受け付けてはくれない。腕時計を見ると、午前9時半を過ぎた所だった。今から宮教授の研究室へ向かえば十分に間に合う時間だ。
俺はホッと安堵の息を吐いた。
この講義は必修で、これを落とすと来年は一個下の学年の奴らと授業を受けなければならない。しかもねちねちと嫌味を言われながら下の奴らと講義を受けるのだ。ダルすぎる。
宮の研究室に向かおうとした時、手から提出物の用紙がすり抜けていってしまった。
「先輩、落としましたよ?」
用紙は女子生徒の足元に落ちたようで、地面に落ちた用紙を拾い上げて俺の前に渡してきた。
飾り気のない平凡な見た目に服装。あまり俺の周りにはいないタイプだ。だけど女なんてみんな同じ。媚を売って、猫撫で声で擦り寄ってくる。つまんねぇ女しかいない。こいつもそれらと同じだろうと、そう思った。
だけど、その凜とした声は脳天に響いて、俺は思わず固まってしまった。体が動かなくなって、呆然とその女生徒を見つめた。
顔ももちろん平凡なのに、どこにでもいるような女なのに、なぜか俺の中に強く湧き上がってくるものがあった。
俺の方を見ているのに、俺と目は合わない。
――何で俺を見ないんだよ。俺を見ろよ。
なんだかむかついてきて、俺を見ろと心の中で叫んだ。そしたら余計に顔を隠してこちらを見なくなってしまった。
まばらな人並みの校内で、俺が用紙を受け取らないので戸惑いを隠せずに俺を見上げる。隠した手の隙間から見えるその目が愛らしくて、これまで感じたことのない感情が胸の中でざわつく。
ああ、この女だ、と心が叫ぶ。
ずっと失っていたパズルのピースを見つけたかのような、そんな訳のわからない気持ちに陥った。自分でも自覚がない内に、探し求めていた女がそこにいた。
そして、焦れたような彼女は俺の胸元に用紙を押し付けてきた。反射的に押し付けられた手に触れた。
小さくて、柔らかく温かい。こんな温もりを女に感じたことはなかった。近づいてきた時にふわりと甘く鼻をくすぐる彼女の香り。もっと近くで嗅いでいたい。
――ぅああ……いい匂い……。はぁ、マジで可愛い。今までどこに隠れてたんだ……?
この大学校内を歩いているんだから、同じ大学の生徒だろう。だが、見たことがなかった。それも当然かもしれない。ヤることヤっといて何だが、俺は女には興味がなかったから。
女の匂いなんて飽き飽きするくらい嗅いできたのに、彼女からは何とも言えない香りがして、ずっと嗅いでいたいと思った。媚薬のようなそれは俺の鼻から頭に回っていった。
騒ぎ出す血が下半身に集まっていく。
頭の中はもう彼女のことでいっぱいになってしまった。薬を盛られたのかと錯覚するくらいの強い感情の揺れを経験した。今まで女に感じてきた嫌悪感は彼女に対しては微塵も感じなかった。
体中が熱くなる。熱が巡る。しかも勃起までしてきて興奮が冷めやらない。
彼女は用紙を俺に押し付けてからすぐに走り去っていってしまった。俺はその場から一歩も動けない。
彼女が見えなくなるまでずっと彼女の姿を見つめていた。
あれは俺のものにする。
いや、もう俺のだ。
爛れた家庭環境。
父は愛人を別宅で囲っていて休みの日は家に帰ってこない。そんな父親に対して最初は何とか愛情を取り戻そうとしていた母。そんな母も恋人を家に連れ込むようになった。
夫婦の寝室から漏れ出る男の声は父のものじゃない。
俺に興味のない両親。
どんなに優秀な成績を納めても、どれだけグレて喧嘩して問題を起こしても、俺に関心を向けることはない。金で解決して、それで終わりだ。親の関心を引こうとすることもやめた。何をしても無駄だと幼い頭でもわかったからだ。
世間体を取り繕えればそれでいい、という親の考えは透けて見えていた。
クソ喰らえ。
大学で勉強しているのは後に起業するためだ。会社を立ち上げるノウハウを学んでいる。卒業後すぐは会社に就職して、しばらく学ばせて貰ってから辞めて起業しようかと考えている。
中高でグレた時は、髪色もピアスも服装も派手めで尖ってたから誰も近寄ってこなかった。大学では、顔がいいし成績もいいスポーツも出来る、ってことで女がひっきりなしに群がってくる。ケバいクサイ女ばかりでどれも変わらない。だったらどれをどれだけ相手したって同じ。
オナるよりも気持ちいいから、近づいてくる女どもをオナホ代わりに使っていた。そんな日々。
講義受けて、女とヤって、バスケして、浴びるように酒を飲んでまた女と遊ぶ。それの繰り返しだ。
同じような雰囲気の奴らとツルんで遊んでいたが、大学で仲良くしている奴らは選んでいた。起業するにあたって使えそうなコマは多い方がいいし、ちょっと頭が悪そうな方が使いやすくていい。
そんな日々が一変した。
みうちゃんと会ってからだ。
そこらの女とは違う。俺のみうちゃん。
あの時会った瞬間から、心が、脳が、体が全身でこの女だと震えて仕方がなかった。この抑えようない衝動は一体どこから来るのか、俺自身にもわからない。
俺を揺さぶるただ一人の女。
俺の女だ。
俺がこんなにも打ち震えているのだ。みうちゃんだって感じているはず。分かっているはず。これが運命的な、ただ一度きりの出会いだって。
みうちゃんに話しかけるたびに、最初はなぜ私なんかに構うのだろうという対応だった。だんだんと顔に「迷惑です」と書かれたような嫌そうな態度になっていったが俺は一向に構わなかった。
だって俺たちは好き同士で愛し合っている。なのにそんな態度で俺の気を引こうとする可愛い彼女。俺はもう十分過ぎるくらい好きで好きでたまらないのに、さらに俺を注意を引きたがる彼女。
俺がずっと遊んできたから不安なんだろう。それは仕方ないことだと思った。派手に遊んできた俺のツケが回ってきたのだ。甘んじて受け入れようとした。
みうちゃんは俺の愛を確かめているのだ。そう思うとツンツンとした彼女が本当に可愛くて、彼女への愛は一層強くなっていった。
だけど、さすがに俺という彼氏がいながら他の男とツーショット写真まで撮って俺を試そうとするのはやり過ぎだった。
だからお仕置きも兼ねて体にわからせてやったのだ。誰のものかを。
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でも幸せ絶頂期なはずなのに、足りない。
みうちゃんが足りない。
渦巻く感情はどんどん大きく激しくなって、どす黒い色をしていく。
独占欲。
執着心。
どこからともなく湧き上がってきて、とどまるところを知らない。
彼女の全てを余すところなく自分のものにしたいのだ。
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