傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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「あんたは何もわかっちゃいない。いまさらジュリアを探し出したところで、戻ってくるはずがない」

「そんなことはわからないでしょう」

「俺の娘だ。俺にはわかる」

 戻ってきてくれないとしても、探さずにはいらない。
 
「……どこに行ったか心当たりはありますか?」

「探してどうする? どうせあの子は帰ってこない」

どこにいるか、心当たりがありそうな口ぶりだ。

「何か知っているなら、教えていただきたい」

「諦めの悪いやつだな。もう自由にしてやれ。そしてお前も好きに生きたらいい。新しい相手でも探すべきだ」

「彼女じゃなきゃダメなんです」

「それはお前の勘違いだよ。あんたに会う女は他にもいっぱいいる」

こんなにも俺の心に残る女はジュリアしかいない。
彼女を取り戻したい。会いたいという気持ちしかいまは考えられない。

「たとえそうだとしても、もう一度会って話がしたいんです。だからどうか」

「無駄だよ」

何を言っても否定の言葉しか返ってこなかった。今日はもう諦めて、また改めて訪ねるべきかと考え始めた。

ジュリアの父は立ち上がって引き出しを開けた。引き出しの中は溜まった封筒でいっぱいで、その中の1番上の封筒をテーブルの上に放り投げた。

「いつも、小切手を送ってくる。毎月欠かさず」

 俺は手紙をひっくり返して送り先の住所を見た。

「大学……」

 ここからそんなに遠くはない大学名だった。

「ジュリアは元々先生になるのが夢だった。それを、母親が亡くなったことで経営不振になったこの牧場を守るために諦めたんだ」

「ジュリアから聞いていました」

「あの子は頑固でね。一度決めたことは絶対に曲げない。俺に似たんじゃない。母親に似たんだ。本当にそっくりだよ」

 一瞬、泣いているのかと思うくらいの表情で、家族3人が写る写真立てを見つめていた。懐かしむように、目を細めて。だが一瞬でまたいつもの仏頂面に戻った。

「ジュリアがあんたの元を去ると決めたんだ。もうあの子はあんたの元には戻らないはずだ。ここにもな」

「それでも、俺はジュリアを迎えにいきます」

「……もし会えたら、もう小切手はいらないと言っておいてくれ」

 立ち上がったまま座らず、脱いでいた麦わら帽子を深く被りなおして俺から完全に顔を隠して後ろを向いてしまった。

 ジュリアの父は、ジュリアの頑固なところが母親似だと言っていたが俺は父親似だろうと思った。だってこんなにも後ろ姿があの日出ていってしまった彼女とそっくりだったからだ。

 それからジュリアの家を出た後、すぐにその足でこの封筒を手に大学に向かった。
 中の小切手は大学から支払われている給料らしかった。どうやってこの大学で働き出したのか。

 元気にやっているのか。
 体調は大丈夫なのか。
 今までどうしていたんだ。

 色んな疑問が浮かび上がってきて止まらなくなった。早く会いたい。顔を見て安心したい。抱きしめたい。

 くそ、やめろ。また自分のことばかり優先してしまっている。もう、同じ過ちは繰り返したくないのに、まだ俺は何もわかっちゃいないのかもしれない。

 だけど、どうしても会いたいという感情を抑えきれないでいた。

 俺はジュリアを愛している。

 だが彼女はもう俺のことなど愛していないかもしれない。
 そう思うと心が冷たく凍った。
 でも会わないという選択肢はなかった。

 大学に着き、研究室のドアを叩く手が震えた。ドアの向こうまで近づいてくる彼女の足音と声がして胸がざわつく。
 焦るな、と自分に言い聞かせてドアが開くのを待つつもりだったのに、急ぐ手はドアノブを回してしまった。

「ジュリア、こんなところにいたんだな」

 驚きに声も出せない彼女の奥には俺の知らない男性がいた。

 やっと探し出した彼女は、他の男と一緒にいたのだった。

 
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