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第7章

液体は浸透する。

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♢四階と五階をつなぐ階段

ポヨポヨの群れに挟まれた俺達は身動きが取れず...

「魔法も全部駄目だった。斬りゃ増えるしよぉ...」
「凍らせるのはどう?」「とっくに試したさ」

ネットが繋がらないから調べる事もできない。
つまりはお手上げ状態だ。

「リンツはどう思う?」
「そうだね...ボクの見立てでは特殊な属性のー」

クリスがリンツに見識を尋ねる。
魔法の知識では彼女の方が上なのだろう。

「ああ見えて大地系の魔物なんじゃないかな」
「土に触れれば体を維持出来なくなると思うよ」

凍らないから水属性ではないらしいけれど
核以外の構成物は液体で出来ているから
地面に触れさせさえすればたちまち土に吸収されて
自然消滅するという仮説だ。

「だとしたら水場が枯れるのも納得だな」

晴れが続いていた影響もあるが
ここ最近の水不足は不自然過ぎるとニトは言う。

「地下水脈まで枯渇するなんてありえねーし」
「そうなんだ...じゃあアレが水を?」
「ボクもそう思う。討伐しないとマズイよね...」

村のためにもポヨポヨを殲滅する事に決まった。
なんだか始めて勇者っぽい展開な気がする。
(ミトもきっと喜ぶだろうな)

「帰還用のワープホールで遺跡の外に落とせるよ」
「ボクが開けたらそこに押し込んで」

遺跡の外に貼ったワープホール出口に飛ばす作戦。
それは一回しか使用できない高等魔術だから
予定していた帰り道がなくなる事を意味していた。

「最上階から自力で降りるのかよ...勘弁しろって」
「文句言わないの。また方法は考えるから」

クリスの言葉にウォルターは渋々同意した。
四階で大活躍のおっさんは気力も体力も限界なのだ。
腰につけた強い酒をグビっと飲み干すと
吹っ切れたように立ち上がった。

「中年の意地ってのを見せてやろうじゃねぇか...」
「じゃあ結界を解除するからサポートして」

ビュゥン...
結界が解除され全員で五階へと上がる。
魔法陣を書き終えるまで魔物が近付かないように
俺達がリンツの四方を囲んでガードした。

ノシン...ノシン...
「おりゃぁ!あっち行けって!」ググッ...

槍を横にして両手で構え
押し出すようにしてポヨポヨを追いやる。
俺もクリス達の槍を借りて同じように押し退ける。
これが剣では分裂してしまうからだ。

「まだかー!!」
「もう少し待ってて。結構難しいんだから」

本当は結構難しいなんてレベルじゃない。
かなーり難しい魔術である。

「できた!そしたら斬っていいよ」

ワープホールは直径1メートル位だから
今度は分裂させる必要があるのだ。
俺もカレンも剣に持ち替える。

「二十分くらいが限度だから急いでね!」
魔石を数個使って詠唱を開始。

風穴を開けよウィンドホール 我を連れ戻せダル・セーニョ

ザンッ!スパンッ!シャァーン!ズダンッ!

時間が限られているから予め役割分担をしている。
俺とクリスとウォルターは小型化係。
ニトとカレンはワープホールに落とす係だ。

「加減しなくていいからねカレン」
「わかったよ!思いっきりやってみるー」

目の前に転がってきたポヨポヨ。
大きく息をすると剣の腹で勢いよく振り抜いた。
これが女神級精霊による神スイングだ。

スコーン!バゴーン!
「軽く吹っ飛ばしてるし。女神スゲーな」

ただ力加減が出来ないだけなのだが
こんなところで役に立つとは思わなかった。
相変わらずの破壊力...

「オレも負けてられねーしょ!」

ニトも足で蹴り込むが中々のコントロールで
球の供給が追いつかないほど。

「いい感じ。これならすぐ終わりそうよ」
「なるべく早く頼むぜ...酔いが覚めちまいそうだ」

ジャキン...ズダン! ザンッ...スパァーン!

ひたすら二人に球(魔物)を供給する。
だんだんワープホールの幅が狭まってきたが

「これで最後だぁぁぁぁぁ!!!」

シュウンッ...ブォン...
最後の塊もワープホールの中に吸い込まれ
遂に五階のポヨポヨを完全に排除した。

「四階のヤツらは今度来た時に片付けるから」
「上で美味い飯食って寝ろ。本当マジ感謝してる」

ニトとカレン以外は疲労でヘロヘロの状態だ。
俺達は壁に取り付けられたハシゴを使って
最終目的地であるダンジョンの最上階へと登った。
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