俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第7章

誰にだって悩みはある。

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ハシゴを登り、小さな扉をくぐって最上階へ。

「レオナルド、手に掴まれ」グイッ...
「ありがとう。うわ...暗くて何も見えない」
「んよ、今電源入れるから...よしっ」

ブワァ...屋上に電気の灯り。
非常用の魔術電源が設置されていた。

「ここはキャンプ地だから。設備も揃ってる」
「ニトが全部作ったの!?」
「結界以外はな。冒険者へのおもてなしってやつ」

お洒落で安全なキャンプ場として有名らしい。
遺跡の主がかけた古代の結界が今でも残り
外からの侵入者を拒み続けている。

「オレが美味い飯作るから適当に休んでろって」

その言葉に甘えて少し寝ることにした。
ウォルターもクリスも目を閉じたかと思ったら
もうスヤスヤと眠っている。

(俺の何倍も疲れているんだろうな...)

「じゃあボクも寝るよ。ふぁぁ...」
「うん。お疲れさま」

スゥ...っと地面に吸い込まれるように
全身から力が抜けていくのを感じた。

(敵のいない安心感...)
(屋外に出た開放感...)
(もうこのまま朝まで眠ってしまいそうだ...)

ガン!ガン!ガン!ガン!
「メシ出来たぞっ!起きろレオナルド!」

ニトに叩き起こされると
俺以外はもう席に着いていた。
テーブルには蝋燭の優しい灯りが揺れる。

「じゃあダンジョンクリアを記念して、乾杯っ!」
「カンパーイ!」「みんなお疲れさま」

魔獣や魔物のいるダンジョンとはとても思えない
賑やかな宴が始まった。

「今夜は豪華にドラゴンテールのシチューだぞ」
「おかわりしていいの!? やったぁ~!」

美味しい料理に会話も弾むが
俺は一人落ち込んでいた。

判断力と統率力がハンパないクリス(しかも強い)
重い剣や槍を使いこなすウォルター(もちろん強い)
魔法や魔術のレベルが桁違いのリンツ(すごく年下)

あれだけの戦闘を繰り広げたのに
少し休んだだけでもう回復している様子。
正直なところ俺なんかが勇者になれるのだろうか...

「どうしたの?浮かない顔してるわね」
「ちょっと疲れちゃった?」

クリスが気付いて声をかけてくれた。
いま優しい言葉をかけられると泣きそうだから
適当な言い訳をして俺はその場を離れた。


♢夜景の見える場所へ

広い屋上の一番端まで行って腰掛けた。
ミト達がいるコテージの灯りや
その先にある街の光が
まるで星空のように目下に広がっている。


ザッ...ザッ...

「いたいた。少し冷めちゃったけど飲む?」
「.....ありがとう」

暫くしてクリスがシビ珈琲を持って来てくれた。
涙を拭ったがとめどなく溢れてくる。
超カッコ悪い。

「もしかして自信なくしちゃったとか?」
「・・・・・・・・・・」

図星を突かれてしまい否定のしようもない。
黙り込む俺にクリスは話し続けた。

「私もよくあるわ。自信なんてすぐ無くしちゃう」
「ダメなリーダーだなぁ...なんてね」
「.....クリスは俺と違うよ」「違わないの」

話したら楽になるからと言われて
つい身内に話すようにペラペラと喋ってしまった。
彼女は話を聞き出すのが上手い。

「そっかぁ...レオナルドは勇者になりたかったのね」
「ちゃんと目標や夢があるって凄い事よ」

誰かに夢を語ったのは初めてだと思う。
笑われたくなくて冒険者志望とか言ってたけど
俺は勇者になりたい。

「羨ましいなぁ。私も真面目に考えなくちゃねっ!」

おどけた笑顔でそう言った。
いままでのことも、これからのことも
彼女は包み隠さず話をしてくれた。

「みんな何かしら抱えて生きてるんだから」
「心配しなくても大丈夫。きっと上手くいくから」

彼女の言葉には力がある。
モヤモヤと霧がかかっていた心が晴れて
悩みなんてどうでもよく思えた。


「おせーぞ。片付け終わっちまったぞ(グスン)」

みんなの元に戻るとなぜかニトがすすり泣いている。
(...ってコイツまさか!?)

「聞いてねーし!聞こえてただけだしっ!(グスン)」

獣人の良い耳ですべて聞かれていたらしい。
恥ずかしくて下まで飛び降りたい気分だ。
苦笑いするクリス。

「もう寝ましょうか。男子チームはあっちね」

「おいリンツ、お前は向こうのテントじゃね?」
「.....はい? なんであっちなのさ」
「ははっ!やっぱりここでも間違われたな」

彼女...いや、彼は見た目も声も完全に女の子だが
可愛い系の男の子だったようだ。

「だから“ボク”って言ってるでしょ!」
「そういう一人称使う女子かと。マジかよ...」

忙しい一日が終わり、蝋燭を吹き消す。
新月の夜は真っ暗だ。

人は見かけによらない。
内面も外面も人それぞれである。
言わないと伝わらないことばかりだから
もっと素直に言葉にしようと思った。
(大丈夫。きっと上手くいく...)
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