俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第8章

季節の変わり目。

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雲の海を抜けて徐々に降下。
懐かしい街並みが広がる。
時計塔の鐘が鳴り響き
辺りはすっかり闇に包まれていた。

寄り道せずに我が家へ。
夕飯は色々とお土産を貰っていたから
それを少し食べればいいや。

「がんばったねぇ。えらいね~(翼を撫でる)」
「戻れロングリフォン」

初めての長距離フライトだったけれど
それに特化した種類なだけあり全然平気そう。
頼もしい限りだ。

カチャ...ギイィ...
留守にしていたからまず空気を入れ替え
その後で暖炉に薪を放り込む。
密林が温暖な気候で忘れていたけれど
この辺りは段々と寒くなってきた。

「足の先がキーンとするよー(ブルブル)」
「精霊も寒さに弱いんだね」

カレンの魔法は送風や除湿などで気温を下げるが
室温を上げることは出来ない。
雲を退けて日光で気温を上げる事は可能だけれど
まだ覚えていないし、どのみち夜では使えない。

「明日全力で回して当てるから待ってて」

回すのはもちろんガチャだ。
ここ最近の寒さは例年よりかなり厳しいから
今度のガチャのためにガチャ禁してる人は多い。


“心の底から暖かく~厳冬の暖房ガチャ”


運営のネーミングセンスはさておき
暖房系のアイテムを集めた今回のピックアップ。
魔術関連の物は全て没収されたのだが
生活必需品である魔術家電まで消えてしまったから
このガチャを当てることは死活問題なのである。

そういう魔術とかもあるにはあるのだけれど
俺みたいなのが発動したら家を燃やしかねない。
高度な魔術にはそれなりの鍛錬が必要。

だから“魔術ヒーター”が欲しいのだ。
薪の暖炉と違って魔力の消費はするけれど
比べ物にならないほど暖かい。

「明日は定休日で仕事もないしな...」
「フィオのところに報告がてら遊びに行こうか?」
「わーい!ひさしぶりな気がするよ」

連絡を入れるとフィオからすぐに返信があり
ぜひ朝食を一緒にとの誘いがあった。
俺の好きなパンケーキを焼いてくれるらしい。

「もう寝るよ。カレンも疲れてるでしょ」
「うん。ちゃんと寝るよ...(ふあぁ)」

魔力の回復には栄養と睡眠が大事。
俺も彼女もただ背中に乗っていただけだが
グリフォンへの供給量が結構大きくて
なんだかんだ少し疲れている。

暖炉の火を消して就寝。
冷えないように厚い毛布をかけて眠った。


♢翌朝の早朝

.....寒い。
寒すぎて起きるのがとても辛い。
毛布を被ったまま暖炉の側まで行き

「か...かえん...(ガタガタ)」

ボウゥ...
なんとか魔法で種火をつけた。
この家は森の側にあるから夏場は涼しいけれど
冬はとても寒くて部屋で凍死しそうになる。
正直しんどい。

「レオ...おはよう...ございます(ブルブル)」

二人で暖炉の前から動けなくなった。
昨日水を入れたヤカンの蓋がカタカタ音を立てる。
同じく用意しておいたコップにそれを注ぐ。

コト...
「はい。貰った古代ヤシのお茶を入れたよ」
「ありがと。いい香りがする~!」

ヤシの葉をお茶にしたものだけれど
この時期に密林で咲くアガリバナという
夜光花の香りを葉が吸い込んだ珍しいお茶だ。

「これを飲み終わったら出かけるよ」
「うんっ!温まってきた」

冬物のコートを出して厚着した上に羽織る。
カレンにはサイズが合わなくてダボダボ。
今度かわいいのを買ってあげよう。

「...オ...オハヨウ...ゴ...」
「おはようグリフォン。屋敷まで飛べる?」

ヴィア!ヴィアァァァ!!!

翼を一度大きく広げると
自分から身体を低くして背中を差し出した。
この旅を通して信頼関係が増したように思う。

「飛べっ!ロングリフォンッ!」
「しゅっぱーつ!」

バサ...バサバサバサ.....ヴィアァァァ!
シューン!ビュゥーン!スォンッ!シュバーン!

「まっ!ちょっ...待て...うわぁぁぁぁ!!!」
「うわぁ~!たのしー!」

信頼関係とは一体...
自己ベストを大幅に更新する速度で到着。
乗り心地が改善されたおかげで酔いはしないが
刺激が強過ぎて意識が遠くなる。

「あら、グリフォンに乗ってきたのですね」
「お...おはよう...フィオ」「おっはよー!」

フィオがホウキで門の前を掃いていた。
グリフォンを“ポッケ”に戻して屋敷の中へ。
広い部屋なのにとても暖かくて
俺は着ていたコートと服を一枚脱いだ。
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