俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

文字の大きさ
92 / 92
第8章

眠らない女神。

しおりを挟む
寒いから部屋へと戻る。
ふかふかのソファーに腰掛けて紅茶をもう一杯。
それからフィオに旅の報告をした。

「遺跡のダンジョンとは...なかなか神秘的ですね」
「結局俺はあまり役に立てなかったんだ」
「それは経験の差ですから仕方がありませんよ」

確かに経験はものを言う。
でもそれ以外にも足りてないものがあるのだと
痛いほど思い知らされた旅だった。
また一から出直しだ。

「喋るんだよその子っ!」
「神性持ちの魔物や魔獣は賢いですからね」

彼女もそういったモノのことを知っていたが
人の姿に変身すると言ったらさすがに驚いていた。

「ぜひお会いして色々調べてみたいです」
「研究熱心だねフィオは」
「いえ、まだまだ趣味の範囲ですよ」

精霊の寝溜めできるスキルをフル活用して
深夜に様々な分野を探求している。
だから魔導具にも詳しいし
その使い方も熟知しているのだ。

ティーカップを置いて少し外を眺めるフィオ。
時々こういった顔をするのは...

「いま寝てた?」
「レオナルドにはかないませんね(照れ笑い)」
「本当に良い観察眼をしています」

忙しくて休みが取れないから
こうして時々目を開けたまま数秒間の眠りに落ちる。

「最近はウィキログの編集作業に没頭していてー」

魔術ネットのポータルなんとかにアクセスして
データベースをなんちゃらしているらしい。
簡単に言うと辞書を作ってるのだとか。
説明されたけど俺は半分も理解していない。

「程々にして寝ろって言うんだけどさぁ~」
「それはマスターが仕事を溜め込むからですっ!」

本当に嫌なら合意の上契約を解除して
亜空間に戻ることもできるけれど
屋敷には貴重な本のコレクションや
広くて綺麗な花々が咲く庭もあるから
結構ここでの生活に満足しているようだ。

「でもたまには冒険旅行に行きたいです(チラッ)」
「行っただろプロモーションでさぁ...」
「仕事と冒険は違いますっ!」

勇者の弟なのに伯父は全く冒険をしない。
ウォーリアとは真逆で戦いに興味がないのだ。

「兄さん...お前の父さんには敵わなくてさ」
「いっつも泣いてばかりいたんだ」

流れで親父との昔話を語り出す伯父。
あまり話したがらなかったから初めて聞く話だ。
子供の頃から周囲に比較されてしまい
悔しくていつも泣いていたらしい。

“腕の強さなんて関係ない。お前はお前だろ?”
“そんなに本が好きなら自分で書いてみなよ”

「それでいつか俺の冒険譚を書けってさ」
「まったく...兄さんはいつ帰ってくるのやら」

この危険人物ロリコン野郎、体力はないが頭だけは凄く良い。
頭が良い人はネジがぶっ飛んでいるの典型だ。
上級院に進学して難しい本を読み漁っていたから
それが随筆にも生きている...らしい。

「だから小説家になったのですね」
「ちょっと良い話だろ?自伝もアリだと思うぞ」

珍しく真面目な顔で話をしていた伯父は
その後書斎に戻ると言って部屋を出ていった。

親父が消えてからどれだけ経つのだろうか。
俺が実家を出てアカデミーに進学した時に
経済的に困らなかったのは伯父のお陰でもあるから
こんな奴でも一応感謝はしている。

「フェルナンドも仕事に戻りましたので私も」
「うん。適当にくつろいで待ってるよ」

クライフさんにお土産を渡したいから
俺とカレンは昼になるまで待つことにした。

フォン...シュゥゥゥゥン...

(なにか魔術的な音が裏庭から聞こえた気がする)
不審に思い窓の外を見にいくと...

「ああっ!マスターがウィザーライドにっ!!」
「上手く逃げられちゃったね」
「これだから信用できないんですよ彼は...」

頭を抱えるフィオ。
感動的な話で油断させておいて見事な裏切り行為。
サボり癖は治りそうにない。

「今日はおふたりもいらっしゃいますし...」
「私もサボることにしましょう」

いつもならすぐ追いかけに行くのだけれど
働き過ぎの自覚がある彼女は休むことに決めた。
女神にも休息は必要だ。

「クライフ先生が来たらパイを焼きますよ」
「わーい!お肉のやつがいいなっ!」

オーブンの薪を足して予熱を上げていく。
最近は俺も何かと忙しくしていたから
こうしてゆっくりと流れる時間が心地よかった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

佐藤醤油
2018.04.13 佐藤醤油

なんだかよくわからない世界観ですが、ほのぼのとした生活が楽しそうで読んでほんわかした気分になります。
この先がどんな話になるのか、全く予想できないのも面白く感じます。
頑張ってください。

2018.04.13 横尾楓

感想ありがとうございます!

二年前に突然ガチャシステムになっても
それを受け入れてガチャを楽しんでいる住人達...
世界観が妙に異世界っぽくなかったりして
色々と謎が多いんですよー。

続きもぜひお読みください( ´ ▽ ` )ノ

解除

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。