俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第2章

腹が減っては戦はできない。

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西の森前:野営屋台村

夜はとりわけ賑わう屋台村。
すぐ隣は俺達もテントを張った臨時野営場所。

商人とは商魂逞しいもので
討伐イベントがあると聞きつけると
このように屋台営業をするのだ。

もちろん魔物が出ている森のまだ手前だから
近くの村人や観光客の姿もある。
キラキラとした灯りが暗くなった森を明るく照らす。

「にいちゃん、冒険者だろ?」
「これは凄いぜぇ?試しにやっていきなよ」

呼び込みの声に耳を貸すつもりはなかったのだが
チラッと目に入ってしまった。

“ガチャシュミレーター”

ガチャ...?
うっかり足を止めてしまったが為に
屋台の親父が説明を始める。

“無駄に石を消費したって運気が低けりゃ当たらねぇ”
“だからコイツを回して当たりが出たら?”
“そん時に本番をぶん回すってわけよ!凄えだろっ!”

本当のガチャをする時みたいに
シュミレーションでゴッコが出来るようだ。

「試しに無料で一回引いてみなよっ」
「タダより安いものはねぇだろ?」

親父にそそのかされて仕方なく回してみる。
手をかざすと本当の召喚と同じような轟音と光。
なかなかの再現力だ。

シュィンー...ゴワワワワ~ン
“ウゴァオオオオオオーーーーー!!!”
(.....これはなんとっ!)

「凄えな!にいちゃん大当たりだ」
「ヘラクレスヘルドラド...マジか.....」

伝説のヘラクレスのような頭にドラゴンの体
それでいて武器を持って戦う戦士タイプの希少種だ。
こんなのがいたら俺は即上級ダンジョンへ向かうだろう。
残念だが、これはシュミレーション。

「どうだい?興奮しただろ?買ってくかい?え?」

畳み掛けるように俺に売りつけようとする親父。
しかもシュミレーター本体を。

「安いよっ!これで3600コインなんて他じゃあどこ...」
「レオみつけたよ~!ゴブリンソーセージ!!」

話を遮るようにウェザーが俺を呼びに来た。
親父は彼女を女神級と見るや否や小声で
「ちぇっ。当たり引いてるんじゃねえかよ」
と言うと追い払うような手振りをした。

騙されないと思ったのだろう。
俺は少し欲しかったのだけれどもね。

この後ゴブリンソーセージと数日分のパンを買い込み
夕飯はヌードル屋でパタパタの温かい麺を食べた。
手頃な値段で体が冷える夜には嬉しいが
彼女が頼んだドラゴンテールの麺は少しだけ高かった。

(明日から頑張ってもらう訳だし、まあいいか...)

野営のテントに戻る。
疲れていたのか珍しく先に寝てしまった彼女の肩に
そっと柔らかな毛布をかけた。
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