俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

文字の大きさ
26 / 92
第3章

いるはずのないもの。

しおりを挟む
一泊して朝。

今日は一気に森の外にある村まで行き
冒険者用のシャトル馬車に乗って街に帰る予定だ。
他の冒険者達も先日の雨で大多数が離脱したのか
森の中には静けさが漂っている。

「もう帰っちゃうのかー」

ウェザーはつまらなそうに呟いた。

でも初めての冒険にしては上出来だったと思う。
彼女は魔法を色々と覚えることができたし
俺も少しだけ強くなれた気がする。

「また来ればいいさ。.......ん?」
「・・・・・・・」

無言で立ち止まるウェザー。
何故か剣を握ろうか躊躇ちゅうちょする仕草を見せたが
俺はすぐにその意味を理解した。

木立の中に光る赤く大きな瞳。
吐息が空振となって身体の芯に響き渡る。
これは.....

「逃げるぞウェザー!!」

反転して全力で来た道を戻る。
村とは逆方向だがそれでも構わない。

(.....こんな奴は相手にしちゃいけない)

とにかく逃げた。
少しでも遠くへ行かなくてはならない。

間違いない...これは低級とかじゃなくて
中の上、もしくはそれ以上。
初心者向けの討伐になど居るはずがない。
上級者向けのダンジョンとかでならわかるが...

(息が苦しい...ターゲットから外れない...)

草原にまで戻って来た。
羽を休めていた鳥達が一斉に飛び立つ。
追いつかれた俺達はそいつと対峙した。

翼の無い竜 “リザードファフニール”

低身中型だが脚はとても早く、強い毒を持つ。
しかも執着心がもの凄く強くて
獲物なら何処までも追いかけてとらえるらしい。
...........つまりは戦うしかない状況だ。

左右に分かれて間合いを取る。
隙を突いてなんとか逃げる事が出来れば十分。
ウェザーに合図し、俺が先に仕掛ける。

ヴァルァァァッ!ゴォゥゥゥゥ!
ヒットしたが親指一つ切り落としたに過ぎない。
弱る事なく反撃を仕掛けてくる。
足場が悪いおかげで攻撃が外れたが
悪条件は此方こちらとて同じだ。

ピノラッドのように草に隠れながら背後に近づく。
幸い音には鈍感であるらしく
視界から外れるとキョロキョロと探している。

苛立った様子で草原に毒を吹きかけると
みるみるうちに草は枯れてしまい丸裸になった。

もう一度大きく息を吸って毒を吐こうとする竜。
今度は俺に向かってだ。
(マズイ...ミスったか...)

「ホワールウインドッ!」

その時、俺の周りに旋風が巻き起こり
毒を蹴散らすようにつむじ風は消えた。
ウェザーの新しい魔法だろうか?

竜はグルリと大きくターンして
今度は魔法を放った彼女めがけて走り出す。

次の瞬間.....



小さな身体は高く空を舞った。

俺の前にトスンと落ちた彼女はそのまま動かない。

頭の中が真っ白になる。

何が起こったのだろう。

その間にも竜はゆっくりと向かってくる。

どうしたらいい?



すごく怖くて。
とても悔しくて。
あまりにも情けなくて。
こらえきれないほど悲しくて。



(まだ名前だって...)
(名前だって付けてあげてないじゃないか!!!)



俺はなんて無力で馬鹿なのだろう。

体中の血がスゥっと引いていく。

これがきっと“絶望”というものなのだと思った。


「にげ....」

ウェザーが意識を取り戻し、力無くそう口にしたが
間合いなく近づいた敵に対して
俺にはもう彼女を抱きしめることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...