6 / 6
第一章 世界に降り立った俺は、人狼を探すことにしました。
化け者だ〜れだ!? chapter.02
しおりを挟む
「ちーん」という音とともに扉が開く。
エレベーターのすぐ脇は広めの休憩室になっている。
数名その休憩室で休憩している人たちの中で、一際違うオーラを放っているがいた。
「あの人が《酢谷 豊》さんだよ」
金剛寺に耳打ちされる。
この数日風来坊しただけだが、その名前は知っていた。
異能を全く使わず、蹴りだけで戦闘を終わらせてしまう喧嘩番長。
どういう異能なのか誰も知らず、使う素振りすら見せないという。
絡む人みんなにガン飛ばす程の人で近寄る人は余りいない。
そんな彼が休憩室の長ベンチに横になり、静かに寝ていた。
「あ、あぁぁぁぁぁ!!!!」
甲高い声が休憩室中に響き渡った。
休憩していたメンバー全員その声の出元へ振り返る。
俺も金剛寺も酢谷も例外ではなかった。
知っている声。
懐かしい声。
夢でも見ているようだった。
「久しぶり~!」
「あ、あぁ……」
引き攣ったような口で発せられた声はマヌケそのものだった。
頭が真っ白になる。
何も考えられない。
ただ嬉しい。
よかった……。
生きてた……。
大きい声を発した少女《真城 来夢》は、俺の目の前までテコテコと小走りで近付いてきた。
あの日、あの男にナイフで刺されたはずの少女。
死んだと思った俺の幼馴染の少女。
ずっと一緒にいていつか結婚するとまで考えていた少女。
俺は無意識の中、真城の事を抱きしめていた。
華奢な体だが優しい懐かしい匂い。
「ちょ、ちょっと……。みんな見てるよ……?」
「よかった……! 生きててくれて、本当によかった……!」
耳元で聞こえた真城の声すら、愛おしかった。
もう離さない。
絶対に守ってやる!
この子だけは……!
「八雲。そろそろ離れよ? ……ね?」
真城の言葉で我に返り、真城のことを解放する。
隣の金剛寺ですら、恥ずかしそうに顔を逸らしながら横目で様子を見てた。
「え、えぇっと、仲、いいんだ、ね?」
金剛寺がすごく気まずそうに言ってきた。
た、確かに他の人から見れば、急に抱き合った男女って構図だった、ね。
今になって気が付き、やっちまった、という感情に飲み込まれる。
当の本人である真城は顔を赤く染めで下向いてる。
否定する様子もなかった。
まぁ、仲がいいのは確かだから否定する必要はないだろうけど。
「と、とにかく赤塩さんの部屋に行こ……!」
空気がいっそう重くなり、話を変えるかのように金剛寺が上乗せした。
金剛寺が歩み始め、俺も後をついていく。
「いつこの世界に来たの?」
「えぇっと、五日くらい前、だったかな?」
そんな真城は既に半月経ったらしい。
そして、最後が三月の中旬だったという。
つまり、真城が刺殺される直前にこの世界に呼ばれ今現在に至るということだ。
真城が刺殺される前のようだ。
俺たちは、雑談していると金剛寺に手を引かれる。
真城も特にやることがないということなので、俺たちと一緒に同行した。
☆
コンコン。
金剛寺がドアをノックすると少し経って中から女性の声が聞こえてきた。
俺たちは声が聞こえたことを確認したところでドアを開け、会釈して部屋に入った。
メガネ美人なんて迷信と思っていたが実在した。
目の前で書面作業している赤塩は、とても絵になっていた。
「なんで同行したいのかな?」
何も言っていない俺たちの要件を書面に目を通しながら言い当ててくる。
俺たちは戸惑いを隠せなかった。
受付には「面会したい」という旨しか伝えておらず、俺と金剛寺の2人だけで話し合って決めた案だったはず。
もしかしたら、俺や金剛寺それぞれ一人だったら簡単に言い当てられることはなかったのかもしれない。
ホット・リーディング
簡単な話術の一つで来るとわかっていた者の下調べをすることで、如何にも言い当てたように思わせる話術。
思い当たる節などこれ以外になかった。
なんせここに来る要件を金剛寺に聞いた場所は、この建物の目の前だったんだから。
「それを知っているのなら、同行する理由も知ってるんじゃないんですか?」
俺が試すようなことを言ってみた。
金剛寺は俺と赤塩の二人を交互に見る。
赤塩も書面作業を中断して、俺の方へ目を向けた。
俺はポケットに手を入れ、ゴソゴソと手を動かす。
実際に入っているのはただの石ころだが、異能に関係するものだと錯覚するだろう。
「あっはははははは! こりゃ参った!」
赤塩が顔に似合わずゲラ笑いする。
席を立ち上がり俺の目の前まで近寄ってきた。
「いやぁ、面白い人だね! いいよ一緒に行こう!」
「……ふぅ、分かってもらえて何よりです」
「そんな畏まらないで! 敬語抜きで呼び捨てでいいよ」
「分かった。ありがとう、赤塩」
「いい子だいい子だ」
赤塩は、俺の頭に手を伸ばすと頭を優しく撫でてきた。
とても優しい、抱擁してくれる温もりだった。
「だけど、全員が全員引き入れることは出来ないんだ」
「……どういうことだ?」
「だから、君たちは形上は勝手に着いてきてるだけってことにしてくれ」
「ま、まぁ、それはいいけど……」
「君たちも気をつけてくれ」
「……何をだ?」
「とうとう人狼陣営が動き出したらしい。そして……」
赤塩は部屋にある窓際まで行き外を眺めながら、日差しで顔を光らせる。
空気がだんだん変わってくる。
人狼陣営が動き出したということは、遅かれ早かれぶつかるかもしれない、ということだろう。
「それぞれに密偵がいるらしい」
エレベーターのすぐ脇は広めの休憩室になっている。
数名その休憩室で休憩している人たちの中で、一際違うオーラを放っているがいた。
「あの人が《酢谷 豊》さんだよ」
金剛寺に耳打ちされる。
この数日風来坊しただけだが、その名前は知っていた。
異能を全く使わず、蹴りだけで戦闘を終わらせてしまう喧嘩番長。
どういう異能なのか誰も知らず、使う素振りすら見せないという。
絡む人みんなにガン飛ばす程の人で近寄る人は余りいない。
そんな彼が休憩室の長ベンチに横になり、静かに寝ていた。
「あ、あぁぁぁぁぁ!!!!」
甲高い声が休憩室中に響き渡った。
休憩していたメンバー全員その声の出元へ振り返る。
俺も金剛寺も酢谷も例外ではなかった。
知っている声。
懐かしい声。
夢でも見ているようだった。
「久しぶり~!」
「あ、あぁ……」
引き攣ったような口で発せられた声はマヌケそのものだった。
頭が真っ白になる。
何も考えられない。
ただ嬉しい。
よかった……。
生きてた……。
大きい声を発した少女《真城 来夢》は、俺の目の前までテコテコと小走りで近付いてきた。
あの日、あの男にナイフで刺されたはずの少女。
死んだと思った俺の幼馴染の少女。
ずっと一緒にいていつか結婚するとまで考えていた少女。
俺は無意識の中、真城の事を抱きしめていた。
華奢な体だが優しい懐かしい匂い。
「ちょ、ちょっと……。みんな見てるよ……?」
「よかった……! 生きててくれて、本当によかった……!」
耳元で聞こえた真城の声すら、愛おしかった。
もう離さない。
絶対に守ってやる!
この子だけは……!
「八雲。そろそろ離れよ? ……ね?」
真城の言葉で我に返り、真城のことを解放する。
隣の金剛寺ですら、恥ずかしそうに顔を逸らしながら横目で様子を見てた。
「え、えぇっと、仲、いいんだ、ね?」
金剛寺がすごく気まずそうに言ってきた。
た、確かに他の人から見れば、急に抱き合った男女って構図だった、ね。
今になって気が付き、やっちまった、という感情に飲み込まれる。
当の本人である真城は顔を赤く染めで下向いてる。
否定する様子もなかった。
まぁ、仲がいいのは確かだから否定する必要はないだろうけど。
「と、とにかく赤塩さんの部屋に行こ……!」
空気がいっそう重くなり、話を変えるかのように金剛寺が上乗せした。
金剛寺が歩み始め、俺も後をついていく。
「いつこの世界に来たの?」
「えぇっと、五日くらい前、だったかな?」
そんな真城は既に半月経ったらしい。
そして、最後が三月の中旬だったという。
つまり、真城が刺殺される直前にこの世界に呼ばれ今現在に至るということだ。
真城が刺殺される前のようだ。
俺たちは、雑談していると金剛寺に手を引かれる。
真城も特にやることがないということなので、俺たちと一緒に同行した。
☆
コンコン。
金剛寺がドアをノックすると少し経って中から女性の声が聞こえてきた。
俺たちは声が聞こえたことを確認したところでドアを開け、会釈して部屋に入った。
メガネ美人なんて迷信と思っていたが実在した。
目の前で書面作業している赤塩は、とても絵になっていた。
「なんで同行したいのかな?」
何も言っていない俺たちの要件を書面に目を通しながら言い当ててくる。
俺たちは戸惑いを隠せなかった。
受付には「面会したい」という旨しか伝えておらず、俺と金剛寺の2人だけで話し合って決めた案だったはず。
もしかしたら、俺や金剛寺それぞれ一人だったら簡単に言い当てられることはなかったのかもしれない。
ホット・リーディング
簡単な話術の一つで来るとわかっていた者の下調べをすることで、如何にも言い当てたように思わせる話術。
思い当たる節などこれ以外になかった。
なんせここに来る要件を金剛寺に聞いた場所は、この建物の目の前だったんだから。
「それを知っているのなら、同行する理由も知ってるんじゃないんですか?」
俺が試すようなことを言ってみた。
金剛寺は俺と赤塩の二人を交互に見る。
赤塩も書面作業を中断して、俺の方へ目を向けた。
俺はポケットに手を入れ、ゴソゴソと手を動かす。
実際に入っているのはただの石ころだが、異能に関係するものだと錯覚するだろう。
「あっはははははは! こりゃ参った!」
赤塩が顔に似合わずゲラ笑いする。
席を立ち上がり俺の目の前まで近寄ってきた。
「いやぁ、面白い人だね! いいよ一緒に行こう!」
「……ふぅ、分かってもらえて何よりです」
「そんな畏まらないで! 敬語抜きで呼び捨てでいいよ」
「分かった。ありがとう、赤塩」
「いい子だいい子だ」
赤塩は、俺の頭に手を伸ばすと頭を優しく撫でてきた。
とても優しい、抱擁してくれる温もりだった。
「だけど、全員が全員引き入れることは出来ないんだ」
「……どういうことだ?」
「だから、君たちは形上は勝手に着いてきてるだけってことにしてくれ」
「ま、まぁ、それはいいけど……」
「君たちも気をつけてくれ」
「……何をだ?」
「とうとう人狼陣営が動き出したらしい。そして……」
赤塩は部屋にある窓際まで行き外を眺めながら、日差しで顔を光らせる。
空気がだんだん変わってくる。
人狼陣営が動き出したということは、遅かれ早かれぶつかるかもしれない、ということだろう。
「それぞれに密偵がいるらしい」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる