「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ

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王都の影と目覚めし者たち(後編)

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夜――王都の空は、星明かりすら霞むほどに薄雲が垂れ込めていた。

「潜入のルートは地下水路。王宮の古い地図によれば、厨房の裏手に抜けられるはずだ」

リアナの言葉にうなずき、ハルトたちはエルドの屋敷から地下へと続く隠し通路に身を潜めた。ミルが静かに先行し、サラが音もなくその後に続く。

「この空気……濁ってる。魔力が淀んでるわ」

リアナが眉をひそめたその瞬間、前方から異様な音が響く。

「グルル……ギィィ……」

(魔物? いや、人……?)

その姿は歪んでいた。元は人であったであろう影が、黒い靄をまとって立ちふさがる。目は虚ろに光り、手には兵士の剣。

「実験体か……!」

レンが即座に剣を抜き、風をまとう。次の瞬間には影を一閃し、煙のように消し去る。

「強引だが、道は開けたな」

「急ごう。もう“気づかれてる”かもしれない」

王城の地下へと抜ける扉の先に待っていたのは、かつて見知ったはずの王の謁見の間――しかしそこは、魔導の紋様が浮かぶ異形の空間へと変貌していた。

「ここが……王の間?」

リアナが唖然と呟く。玉座の上には、黒い法衣を纏い、感情のない目でこちらを見下ろす男がいた。

「よく来たな、リアナ。そして“幸運の器”よ」

「……カリウス!」

声を張り上げるリアナに、カリウスは淡々と答えた。

「王家は既に不要だ。人の意志など脆弱で、管理されるべき存在にすぎん。我が“虚無の眼”は、混沌すらも制御する」

その瞬間、部屋の空気が一変した。目を合わせたハルトの視界が一瞬、歪む。

――リアナが敵に剣を突きつけられている幻。

――レンが崩れ落ちる血の情景。

「っ……まやかしはやめろ!」

ハルトが叫び、剣を振るう。リアナが光を放ち、カリウスの幻影を貫く。

「私の意志は、誰にも歪められない!」

《スキル【王家の威光】が共鳴しました》

リアナの光と、ハルトの《幸運の加護・改》が重なり合い、空間が揺らぐ。カリウスがわずかに顔をしかめた。

「ほう……意志を貫いたか。ならば“次”の段階に進めよう」

その言葉と共に、黒い扉が開く。中からは異形の気配――人でも魔でもない、何かが蠢く。

「これは、まだ“幕開け”にすぎぬ」

彼が姿を消すと同時に、空間が崩れ始めた。

「ハルト、こっち!」

リアナが叫び、ミルがすかさず跳びかかってくる瓦礫を跳ね飛ばす。レンが後方を支え、サラが一人、落ちかけたリアナの手をつかんだ。

「仲間だって言ったでしょ……離さないよ!」

ギリギリで地上へと脱出した四人は、夜の王都を見上げる。

「……逃げられたな」

「でも、分かった。戦うべき相手が、誰なのか」

リアナの瞳には、迷いはなかった。

《スキル【幸運の加護・改】が進化条件を満たしつつあります》 《次の進化には、さらなる絆と覚悟が必要です》

王都の夜風が、再び彼らの旅立ちを告げていた。




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