『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ

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第20話「扉の向こうの気配」

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小さな丘の上で、ひまりはまるまるを抱きしめながら、春風に揺れる草花を見つめていた。
この世界に来てから、たくさんの出会いがあった。
そして今、この丘の静けさの中に、どこか懐かしい気配を感じるのだった。

「……まるまる、なんだか今日は風が違う気がするね」
「きゅぅ?」

まるまるは小さく鳴きながら、ふと、耳をぴくりと動かす。次の瞬間、ひまりの腕から飛び降り、ぴょんぴょんと扉のある祠(ほこら)へ走っていく。

「あっ、ちょっとまるまる!? 危ないよ!」

追いかけた先にあったのは、かつてひまりがこの世界に来た扉。
扉は静かに、しかし確かに、ほんのわずかに淡い光を放っていた。

「……動いてる……? でも、閉じてるまま……」

まるまるは扉の前で立ち止まり、ひまりのほうを見上げる。
そのまなざしは、どこか言いたげで——それはいつもの“かわいい小動物”のそれではなかった。

「ねぇ、まるまる。もしかして……この扉のこと、なにか知ってるの?」

ひまりはそっとその小さな体を抱き上げ、扉に手を当てた。
けれど、何も起きない。ただ、ほんのかすかに震えるような感覚が、指先に残るだけ。

(また、開くのかな……? それとも……)

ひまりの胸に、ふと母・カオリのことがよぎった。
あの人も、もしかしてこの扉を通ってきたのだとしたら——そして、今もどこかでこの世界にいるのだとしたら——。

「カオリさん……いえ、お母さん……どこにいるんだろう」

その夜。夕飯を作る手元にも、ひまりの心はどこか上の空だった。
でも、誰かがそばにいるという温かさが、台所にはちゃんとあった。

「ひまりちゃん、今日のスープ、すっごくおいしいよ!」
「ほんと。やっぱり、ひまりさんのごはんが一番あったまるな」

ふと振り返ると、食卓の向こうには、村の青年・ユウトくんの笑顔があった。

ユウトは隣村から越してきた鍛冶師の見習いで、素朴で優しく、たまにどこか抜けている。
でもその分、まるで太陽のようなあたたかさを持った人だった。

「ありがと、ユウトくん。……なんだか、こうやって一緒にごはん食べてると、家族みたいだね」

「うん。……オレは、そう思ってるよ」

一瞬、ひまりは手に持っていたおたまを落としそうになった。

「えっ、え?」

「オレ、ここに来てよかった。ひまりちゃんや、まるまると出会えて。……それだけで、毎日が幸せなんだ」

そう言って、ユウトくんはまるまるをなでる。その手つきがやさしくて、ひまりの胸がまた少しだけきゅっとなる。

(……家族、かぁ)

それはずっと昔から、ひまりが夢見ていたもの。
温かくて、安心できて、一緒にごはんを囲める、そんな居場所。

まるまるが、ひまりの足元にちょこんと座り、くるくるとしっぽを揺らしていた。
その様子に、ユウトくんもひまりも、つい笑みをこぼす。

そして、その夜。
ひまりが眠りに落ちる頃——扉はひっそりと、また微かに光を灯していた。

風が優しく、村に吹いていた。


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