『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ

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第21話「静かな晩餐、揺れる心」

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村の夜は静かで、空には小さな星がまたたいていた。
夕方にちらついた扉の光も、今はもう収まり、あたりには日常の穏やかさが戻っている。

ひまりは家の縁側で、湯気の立つお茶をすする。
まるまるはその膝の上で小さく丸まり、ぬくもりを分けてくれていた。

「……まるまる。扉のこと、やっぱり気になる?」

「きゅぅ……」

まるまるは一度だけ小さく鳴き、ふわっとしっぽを揺らす。
それは、"わたしも気にしてるよ" というような返事だった。

(あの扉は、また誰かを迎えようとしてる? それとも……)

ひまりの胸に、まだ見ぬ母の姿が浮かんでは消える。
“カオリ”として出会った彼女は、優しくて、でもどこか影があって。
まるで、何かを抱えながら笑っていたような——そんな人だった。

「……もう一度、会えるのかな」

そう、ぽつりとつぶやいたそのとき——。

「ひまりちゃん?」

声の主は、ユウトくんだった。手には木の箱を抱えていて、顔にはいつもの柔らかな笑み。

「今、ひとりだった?」

「ううん、まるまると二人。そっちは?」

「……なんかさ、鍛冶場にいたらいろいろ考えちゃって。これ、持ってきたんだ」

彼が差し出したのは、小さなペンダントだった。
中央には淡く光る石が埋め込まれ、木の細工で優しく包まれている。

「え……これ……?」

「この前、言ってたじゃん。お母さんの形見、何も残ってないって」

「あ……うん」

「だから、せめて何か、大事なものを作って渡したいって思ってた。……オレなりに、ね」

ひまりは手のひらにそっとそれをのせた。
ほんのり温かくて、まるで心までじんわり包まれるようだった。

「ありがとう、ユウトくん……。すごく、うれしい」

「良かった。……それと、もう一つ、言いたいことがあって」

ユウトの声が少しだけ低くなり、ひまりの胸がふわりと揺れる。
夜風が吹き、まるまるの毛が少しふくらんだ。

「オレ、ここでの暮らしがすごく好きなんだ。
ひまりちゃんが来てから、村が明るくなったってみんな言ってる。オレも、そう思ってる」

「そんな……わたしは、まだ何もできてないのに」

「でも、誰かの居場所になるって、すごいことだよ。オレは……君のそばが、落ち着くんだ」

その言葉に、ひまりの胸の奥がじんわり温まった。
まるまるもふにゃ、と小さく鳴き、ふたりの間にぴょこんと乗ってきた。

「ねぇ……ユウトくん」

「ん?」

「これからも、こうして……誰かと笑い合って、あったかいごはんを食べて……。
そんなふうに、生きていけたらいいなって、思うの」

「うん。……オレも」

その夜は特別なことは起きなかった。
でも、ふたりの間には、小さな種のような何かが芽吹いていた。

——家族になるって、きっと、こうして少しずつ、育っていくのかもしれない。

ひまりはそう思いながら、胸にそっとペンダントを当てた。
きっと、お母さんにも届くように。


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