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第23話「小さな手伝い、大きな気持ち」
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麦の穂が風に揺れ、初夏の気配を運んでくる午後。ひまりは畑にしゃがみ込み、ズッキーニの葉をそっとめくって実の育ち具合を確かめていた。
「ひまりさん、これ、抜いときましたよ」
畑の端から声がして、顔を上げると、ユウトくんが手にいっぱいの雑草を持って立っていた。
「ありがとう、ユウトくん。……って、それ、食べるやつだよ!」
「……えっ」
ユウトくんの手の中には、まだ若いニンジンの葉が混じっていた。思わず笑ってしまったひまりに、彼は耳を赤くして苦笑する。
「ご、ごめん。見分けがつかなくて……」
「いいのいいの。まだ小さいし、スープに使っちゃおうか」
ひまりは小さなニンジンを受け取って、にこっと笑った。ユウトくんの手は大きくて、ごつごつしていて、でもなんだか優しさがにじんでいる。
彼は最近、よく手伝いに来てくれるようになった。畑の道具を直してくれたり、家の前の柵を補強してくれたり。まるまるちゃんがなぜかユウトくんによく懐いているのもあって、なんとなく顔を合わせる機会が増えた。
「まるまる、またそこ登って……」
ひまりが言うそばから、まるまるちゃんはユウトくんの肩にぽてんと飛び乗った。ふわふわの体がユウトくんの首元にすり寄っていく。
「お、おい、重いって……」
「ふふ、気に入られてるね。まるまるちゃん、人見知りなのに」
「人見知りって、俺、人じゃないのかよ」
ぽつりと言ったユウトくんのひと言に、ひまりはくすっと笑った。どこかぶっきらぼうだけど、悪意はなくて。まるまるちゃんが懐くのも、なんだかわかる気がする。
午後の日差しは穏やかで、畑の土の香りが心地よい。何でもない作業なのに、ふたりきりの空気が不思議とあたたかかった。
作業が終わると、ひまりはユウトくんを家に誘った。
「よかったら、お昼、一緒に食べない? さっきのニンジンもスープに入れるから」
「……じゃあ、少しだけ」
彼の返事は、相変わらず少し照れくさそうで。だけど、断られなかったことが嬉しかった。
ひまりがスープを煮込んでいる間、ユウトくんはまるまるちゃんと窓辺で遊んでいた。肩に乗ったまるまるちゃんが、時折、ひまりの方をじっと見ている。
「……ん? 何? まるまるちゃん」
「きゅー……」
その鳴き声はどこか不思議で、まるで「がんばれ」って応援しているみたいだった。
食卓に並んだのは、野菜のスープと焼きたてのパン、それから庭のハーブを使ったサラダ。派手ではないけれど、どれも心を込めて作ったものだ。
「いただきます」
「……いただきます」
ふたりの声が重なり、食卓が静かに温もりで満たされていく。
「うまいな……。こういうの、久しぶりかも」
「そう? よかった……」
ひまりは照れ隠しにパンをかじった。誰かと食べるごはんって、どうしてこんなに美味しいんだろう。
まるまるちゃんがテーブルの下で丸くなって眠り始めた頃、ユウトくんがぽつりとつぶやいた。
「……俺、こういう時間、好きだな」
ひまりの胸が少しだけ高鳴る。その言葉は、何気ないのに、やけに胸に残った。
「……わたしも、好き」
思わず答えてしまったその瞬間、ふたりの目が合った。けれど、すぐにひまりは目をそらしてしまう。
なんだろう、この気持ち。
もしかしたら――そう思う自分に気づいて、ひまりは頬をほんのり赤らめた。
外では、風がやさしく庭の草花を揺らしている。
今日は、何でもない日。だけど、きっと特別な日。
少しずつ、何かが変わっていく。そんな予感がした。
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「ひまりさん、これ、抜いときましたよ」
畑の端から声がして、顔を上げると、ユウトくんが手にいっぱいの雑草を持って立っていた。
「ありがとう、ユウトくん。……って、それ、食べるやつだよ!」
「……えっ」
ユウトくんの手の中には、まだ若いニンジンの葉が混じっていた。思わず笑ってしまったひまりに、彼は耳を赤くして苦笑する。
「ご、ごめん。見分けがつかなくて……」
「いいのいいの。まだ小さいし、スープに使っちゃおうか」
ひまりは小さなニンジンを受け取って、にこっと笑った。ユウトくんの手は大きくて、ごつごつしていて、でもなんだか優しさがにじんでいる。
彼は最近、よく手伝いに来てくれるようになった。畑の道具を直してくれたり、家の前の柵を補強してくれたり。まるまるちゃんがなぜかユウトくんによく懐いているのもあって、なんとなく顔を合わせる機会が増えた。
「まるまる、またそこ登って……」
ひまりが言うそばから、まるまるちゃんはユウトくんの肩にぽてんと飛び乗った。ふわふわの体がユウトくんの首元にすり寄っていく。
「お、おい、重いって……」
「ふふ、気に入られてるね。まるまるちゃん、人見知りなのに」
「人見知りって、俺、人じゃないのかよ」
ぽつりと言ったユウトくんのひと言に、ひまりはくすっと笑った。どこかぶっきらぼうだけど、悪意はなくて。まるまるちゃんが懐くのも、なんだかわかる気がする。
午後の日差しは穏やかで、畑の土の香りが心地よい。何でもない作業なのに、ふたりきりの空気が不思議とあたたかかった。
作業が終わると、ひまりはユウトくんを家に誘った。
「よかったら、お昼、一緒に食べない? さっきのニンジンもスープに入れるから」
「……じゃあ、少しだけ」
彼の返事は、相変わらず少し照れくさそうで。だけど、断られなかったことが嬉しかった。
ひまりがスープを煮込んでいる間、ユウトくんはまるまるちゃんと窓辺で遊んでいた。肩に乗ったまるまるちゃんが、時折、ひまりの方をじっと見ている。
「……ん? 何? まるまるちゃん」
「きゅー……」
その鳴き声はどこか不思議で、まるで「がんばれ」って応援しているみたいだった。
食卓に並んだのは、野菜のスープと焼きたてのパン、それから庭のハーブを使ったサラダ。派手ではないけれど、どれも心を込めて作ったものだ。
「いただきます」
「……いただきます」
ふたりの声が重なり、食卓が静かに温もりで満たされていく。
「うまいな……。こういうの、久しぶりかも」
「そう? よかった……」
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「……俺、こういう時間、好きだな」
ひまりの胸が少しだけ高鳴る。その言葉は、何気ないのに、やけに胸に残った。
「……わたしも、好き」
思わず答えてしまったその瞬間、ふたりの目が合った。けれど、すぐにひまりは目をそらしてしまう。
なんだろう、この気持ち。
もしかしたら――そう思う自分に気づいて、ひまりは頬をほんのり赤らめた。
外では、風がやさしく庭の草花を揺らしている。
今日は、何でもない日。だけど、きっと特別な日。
少しずつ、何かが変わっていく。そんな予感がした。
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