はぐれた君と耐える僕

沙羅時雨

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第一章

距離

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 結局その日、僕は彼女とまともに会話を交わすことができないまま一日を終えることとなってしまった。

「それじゃあ、そろそろ寝ようか?布団はそこに敷いておいたから寝たくなったら使うといいよ。ただ、明日は学校の先生に挨拶に行くから少し早めに寝たほうがいいかな。」

「そうですか。おやすみなさい。」

 リビングから廊下を挟んで反対の部屋にある寝室を彼女に使ってもらうことにし、僕はリビングで寝ることにした。流石にいくら急なこととはいえ、男女が同じ部屋で寝ることだけは許容できなかった。
 寝室の扉を閉め一つため息をつく。あの言葉を発した後でも彼女は僕の会話に返事はしてくれる。でも必要最低限のこと以外は話したくないそういっているかのような雰囲気を発し続けていたし、ただ一度とて僕に視線を向けて返事をしてくれることはなかった。今回も本に目を伏せたままだった。部屋の電気を豆電球に切り替え、床に就く。普段は明日休みだからとスマホで色々して夜更かしするが、明日は少し早いからそう言う訳にはいかない。

『私のことはいないと思っててくれていいですから。』

『私みたいないらない子、拾ってくれただけでもありがたいんです。』

 つい考えてしまうあの言葉。自分のことを自分で消すようなものとして扱うような物言い。聞いてるこっちが悲しくなるようなあの言い方。一体何があったのか。気になった僕は知ってるであろう人に聞いてみることにした。

『もしもし。珍しいなお前から俺にかけてくるなんて。』

「普段は父さんも仕事で疲れてて話す気力もないでしょ。」

『いっちょ前に人の心配してんじゃねぇよ。なんかあったらいつでも電話してこい。全部受け持ってやることはできんだろうが相談には乗ってやる。』

 昔からこの人はそうだ。自分の力でやらせるけどヒントはくれるいい父親。

「じゃあ、さっそくなんだけど久玲奈ちゃんのことなんだけど・・・。」

 僕は久玲奈ちゃんの事を父さんに話した。父さんは話し終わるまで何も言わなかった。

「・・・って事なんだけど。久玲奈ちゃん何があったの?僕はその場にいなかったから分からないけど父さんなら何か知ってると思ったんだけど。」

 父さんは静かに溜息を吐いた。自分が情けないそう思っているようなため息にも聞こえた。

「そこまで抱え込んでいたとはな。・・・分かった。あまり思い出したくないことではあるが何があったか話すとしよう。知ってなお、お前が彼女とどう接するかは自分で考えなさい。」

「・・・わかった。」

 重々しい父さんの口調に僕はスマホ越しにもかかわらず、頷いて返事をしていた。


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