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第16章《成長の兆し》
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カイラッドと別れ、
森を抜けたKILOとイソクマの二人は、
開けた平原に立っていた。澄んだ風が吹き抜け、
遠くには小さな村が見える。
KILO
「やっと抜けましたね、
もう森には戻りたくないです……」
イソクマ
「おお!これぞ異世界って感じっすね!
やっぱり広いところが最高っす!」
ほっとした表情の二人。だが、
その静けさは突然破られる。
地面の奥深くから
「ゴゴゴ……」という音が響いた。
KILO
「……何の音ですか?」
イソクマ
「いや、たぶん、
すっごい嫌なやつっすよ!」
次の瞬間、地面が崩れ、
大きなモグラのような生物が顔を出す。
その鋭い爪と赤黒い体毛が、
二人の視線を釘付けにした。
KILOは慌てて鑑定スキルを発動する。
――――――――――――――――――
名称: フォレストモール
分類: 地中獣種
危険度: C級
特徴: 地中に潜み、不意打ちで敵を襲う。
備考: 地表では動きが鈍くなるが、
その鋭い爪は武器に加工可能。
弱点: 不明
討伐報酬: フォレストクロー、小魔石(価値: C)
――――――――――――――――――
KILO
「おい、弱点不明ってなんだよ!
俺のスキル壊れたのかっ!」
イソクマ
「うわっ、弱点なしとか最悪っすよ!
これ、どうするんすか!」
その問いに答える間もなく、
フォレストモールの群れが次々と
地面から現れる。
KILOは手近な木の枝を掴み、構えを取る。
イソクマも足元を警戒しながら後退する。
KILO
「イソさん、とりあえず、
地面の動きに気をつけて!
あれがまた掘り進んで――」
地面が突然爆ぜるように裂け、
二人は飛び退く。しかし、モールの爪が
空を切る寸前で止まった。
???
「そこだ!」
鋭い声と共に、槍がモールの腹を貫いた。
新たに現れた男が槍を引き抜くと、
モールは地面に崩れ落ちる。
その男は短髪で筋骨隆々、
手にした槍を肩に担ぎ、
二人を睨むように見下ろす。
グラド
「お前ら、こんなところで何をしている」
???
「助けていただいてありがとうございます!
あなたは?――」
グラド
「俺はグラド――感謝などいい。
無力なまま突っ立てば、この世界では即死だ」
イソクマ
「即死って……怖すぎっすよ!」
グラドはため息をつきながら、
槍の先を地面に突き刺す。
グラド
「お前たち、ここから出たいなら少しは
戦い方を学べ。このままでは無駄死にだ」
二人はその場に立ち尽くしたまま、
その言葉の意味を受け止めていた――。
グラドに案内されながら、
KILOとイソクマは周囲を警戒して進んでいた。
イソクマ
「それにしても、グラドさん、すごいっすね!
あんなモンスター、一撃で倒しちゃうなんて」
グラド
「槍はリーチが長い武器だ。ただ突くだけでなく、
モンスターの弱点を的確に狙えれば、
どんな獣でも対処できる」
KILOは槍を肩に担ぐ
グラドの姿をじっと見つめた。
KILO
「その槍……特別な武器なんですか?」
グラドは軽く槍を回しながら答えた。
グラド
「特別か?いや、ただのC級槍だ。
だが、武器の強さ以上に重要なのは、
それを扱う腕だ。覚えておけ」
KILOは小さく頷く。
KILO
「武器の性能じゃなくて腕前……ですね」
イソクマ
「KILOさん、なんか真剣っすね!
僕もそういうカッコいい槍とか
使ってみたいっすけど」
グラド
「お前には無理だな。
その細腕で槍を振るうのは諦めろ」
イソクマ
「ひどい!……可愛い僕に向かって!
でも、弓ならいけそうっすよね?」
グラドは軽く笑い、
足を止めて振り返った。
グラド
「そうだな。弓は力よりも集中力が求められる。
お前の性格次第では悪くない選択だろう」
イソクマ
「おお!グラドさん、わかってるっすね!」
KILOはそんなやり取りに苦笑しながら、
辺りを見回した。
KILO
「ところで、この辺りは安全なんですか?」
グラド
「安全な場所なんて、どこにもない。
だが、ここならモールの群れが出る心配はない。
少し休め」
彼らは木陰の下で腰を下ろし、
グラドが腰袋から取り出した水筒を差し出した。
グラド
「飲め。渇いているだろう」
KILO
「ありがとうございます」
イソクマ
「おお、マジ助かるっす!」
水を飲み干した二人に、
グラドはじっと視線を向けた。
グラド
「お前たちは、森を抜けた後どうするつもりだ?」
KILOは少し考え込むように黙ったが、
やがて口を開いた。
KILO
「目的地があるわけじゃないんです。ただ……」
イソクマ
「友達を探してるっすよ!
この辺で見かけたりしませんでしたか?」
グラドは眉をひそめ、
目を細めて答えた。
グラド
「似たような話をどこかで聞いた気がするな。
そうだ、別の国に住んでる俺の知り合いが、
最近変わった格好の若者二人を拾って鍛えとると
言っての……だが、その話の若者が、
お前らの友達かは知らん!」
KILO
「別の国……」
イソクマ
「マジっすか!?何か、
特徴とか言ってなかったすか?」
二人は期待に胸を膨らませ
食い入るように質問する。
グラド
「なんだっ!近いわっ!、
確か……紺色の髪の女と
赤髪の男と言ってた気がするわ」
KILO
「それ何処の国で、
どうやったら行けますか!?」
グラド
「場所はゼルシャ帝国、
北の『嵐の尾根』と言う山脈の
山沿いを進んだ先だ」
イソクマ
「それっぽいっすね!
行ってみる価値はあるっす!」
グラドは槍を持ち直しながら立ち上がった。
グラド
「ただ行くなら気をつけろ。
北の山沿いには、フォレストモールより危険な
モンスターがいる。それと……
もう少し戦い方を学べ」
KILOとイソクマはグラドの言葉に頷きながら、
その背中を見送った。
グラドと別れたKILOとイソクマの二人は、
北の山沿いに向かって歩き始めた。
小川の流れる音が、
足元で微かに響いている。
イソクマ
「KILOさん、やっぱりグラドさん、
すごい人っすね!槍一本で
あんなモンスターを……」
KILO
「確かに。俺も、あんな風に強くなれたら……」
KILOの言葉は途切れた。
遠くから奇妙な音が響いてきたのだ。
KILO
「……聞こえましたか?」
イソクマ
「うん、あっちから……何かヤバそうっすね」
茂みを抜けた先に、
鋼の脚を持つ蜘蛛型のモンスターが、
ゆっくりと動いているのが見えた。
KILOは冷静さを保とうとしながら、
鑑定スキルを発動した。しかし、
目の前に浮かび上がった結果に顔をしかめる。
――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: メタルスパイダー
分類: 魔物種(蜘蛛型)
危険度: C級
特徴: 不明
備考: 不明
弱点: 不明
――――――――――――――――――
KILO
「ヤバいって!また不明ばっかりかよっ!
くそっ、どうして何も分からないんっすか!」
イソクマ
「KILOさん、落ち着くっす!
とにかく何かしないと!」
KILOは歯を食いしばり、
もう一度スキルを使った。
だが、再び目に映るのは「不明」の文字ばかり。
――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: メタルスパイダー
分類: 魔物種(蜘蛛型)
特徴: 不明
弱点: 不明
備考: 仲間を呼ぶ性質がある。
――――――――――――――――――
KILO
「ふざけんなっ……!
何のためのスキルなんだよ!
こんなんじゃ戦えない!」
その怒りが空気を震わせたかのように、
蜘蛛たちが地面をカチカチと叩き始める。
イソクマ
「KILOさん!文句言ってる場合じゃないっす!
とりあえず、こいつら止めないと!」
KILOは近くの枝を拾い上げ、
苛立ちを込めて蜘蛛に突進する。
しかし、鋼の脚が枝を簡単に弾き返した。
KILO
「……くそっ、硬すぎる!」
蜘蛛たちは音を立て続け、
さらに奥の茂みが揺れ始める。
イソクマ
「やっぱり仲間呼んでるっすね!
早く何とかしないと!」
突然、遠くから風を切る音が響き、
鋭い矢が蜘蛛の脚の関節部分を貫いた。
一匹の蜘蛛が倒れ、その場に崩れ落ちる。
???
「動かないで。そのまま隠れて」
木々の間から現れたのは、
背の高い綺麗なエルフの女性だった。
彼女は片手に弓を構え、
蜘蛛の群れに狙いを定めている。
次々と放たれる矢が蜘蛛の弱点を正確に貫き、
動きを封じていく。
イソクマ
「……すげえ!あれが本物の弓使いっすか!」
KILO
「イソさん、まずは隠れましょう!
ここは彼女に任せて!」
女性は最後の一匹を射抜き、
振り返ると二人を静かに見つめた。
エルフの女性
「無謀な人間ね。どうしてこんなところに?」
KILO
「助けていただき、ありがとうございます。
私たちは――」
エルフの女性
「礼はいらないわ。でも、このままじゃ
また命を落とすことになる」
イソクマ
「そ、それは確かに……。
でも、あなたみたいに弓が使えれば、
もっとマシに……」
女性は小さく微笑み、弓を肩にかけた。
エルフの女性
「なら、教えてあげるわ。この森で
生き残るための技術をね」
木漏れ日の差し込む森の中、
エルフの女性の指導が始まった。
イソクマは弓を手に取り、
真剣な顔つきで構えている。
エルフの女性
「弓を引く手の力を抜いて、狙いを定めなさい」
イソクマ
「こうっすか?」
エルフの女性は微かに頷き、的を指差した。
エルフの女性
「次は矢を放ちなさい。目標を見据えて」
緊張しながらもイソクマが矢を放つと、
それは綺麗な弧を描き、木の幹に突き刺さった。
イソクマ
「おお!やっぱり僕、才能あるかもっすね!」
KILOは横でそれを見て、弓を持ち直した。
KILO
「俺も試してみます」
彼は矢をつがえ、慎重に構えを取る。
しかし、放たれた矢は全く違う方向に飛び、
どこにも当たらなかった。
エルフの女性
「……少し待って」
彼女はKILOの手を取って姿勢を直す。
しかし、どれだけ矢を放っても結果は同じだった。
エルフの女性
「……正直に言うわ。
あなたには弓の才能がない」
KILO
「……え?」
エルフの女性
「無理に弓を使うより、
自分に合った武器を探しなさい。
それが一番賢明よ」
KILOは俯きがちに弓を地面に置いた。
KILO
「……分かりました。
イソさんの修行が終わるまで、
少し歩いてきます」
イソクマ
「え、KILOさん?」
KILO
「すぐ戻りますよ……」
彼はその場を離れ、森の奥へと進み始めた。
木々が茂る森の中、
KILOは1人歩きながら
先ほどのやり取りを思い返していた。
KILO
「俺に、弓の才能がないのとか、
知ってけど……」
突然、背後の茂みが激しく揺れた。
振り返る間もなく、
大きな影がKILOに飛びかかってくる。
――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: シャドウフォックス
分類: 獣種(狐型)
危険度: C級
特徴: 影を利用して標的を狩る。
備考: 不明
弱点: 不明
――――――――――――――――――
KILO
「またかよ……勘弁してくれっ!」
とっさに地面の石を拾い、
フォックスに投げつけるも、
モンスターはそれを難なくかわし、
鋭い爪を振り上げた。
???
「下がってろ!」
鋭い声と共に槍が閃き、
モンスターの胴体を貫いた。
フォックスは短い悲鳴を上げ、
地面に倒れ込む。
KILO
「……グラドさん!?」
目の前に立っていたのは、
再びKILOを助けたグラドだった。
グラド
「弱いやつが一人で森を歩けば、こうなるさ」
KILO
「なんで……ここに?」
グラドは槍を肩に担ぎ、
冷たい視線を向けた。
グラド
「心配だったんだよ。
お前さんがあのままじゃ、
危ないと思ってな。案の定だ」
KILO
「……すみません」
グラドは呆れたように息をつき、
槍をKILOの目の前に差し出した。
グラド
「謝るくらいなら、
これを持て。俺が見てやる」
KILO
「……槍、ですか?」
グラド
「そうだ。お前は自分に合った
武器を探してるんだろ?試してみろ。
それでダメなら諦めればいい」
KILOは槍を手に取り、
その重さを確かめるように握りしめた。
KILO
「分かりました……教えてください!」
グラドは満足そうに頷くと、
近くの木を指差した。
グラド
「よし、まずは槍を振るう感覚を掴め。
あの木を相手にするんだ」
KILOは気合を入れ、槍を構えた。
グラドの指示に従い、
KILOは目の前の木に向かって
槍を振り下ろした。
グラド
「おい、そんなふうにただ力任せに振るな。
槍は繊細な武器だ。重さを活かして、
効率よく動かすんだ」
KILOは息を整え、もう一度槍を握り直した。
今度は、槍の重心を意識しながら振る。
風を切る音が微かに響いた。
グラド
「ほう、悪くない。だが、それじゃまだ遅い。
敵は待っちゃくれんぞ!」
KILOは歯を食いしばり、次々と槍を振るい、
木の表面に傷をつけていった。
その手は次第に痺れを覚え始めたが、
彼は振る手を止めなかった。
グラド
「よし、今日はここまでだ。
あまり無理をすると腱を傷める」
KILOは槍を地面に立てかけ、
肩で息をしながら振り返る。
KILO
「これ……向いてますかね?」
グラドは槍を肩に担ぎ、少し微笑んだ。
グラド
「まだ分からん。だが、
最初からこれだけ動けるなら、
可能性はある。続けてみる価値は十分だ」
KILO
「ありがとうございます……頑張ります!」
その言葉に力を込めると、
グラドは槍を指差しながら言った。
グラド
「なら、明日もここに来い。
お前に槍の基本を叩き込んでやる」
KILOは頷き、
心の中で少しだけ希望の光を感じた。
その夜、焚き火の前でイソクマの
弓術の成果を聞きながら、
KILOは槍を見つめていた。
彼の心の中には、新しい自分を探す期待と
緊張が混じり合っていた。
森を抜けたKILOとイソクマの二人は、
開けた平原に立っていた。澄んだ風が吹き抜け、
遠くには小さな村が見える。
KILO
「やっと抜けましたね、
もう森には戻りたくないです……」
イソクマ
「おお!これぞ異世界って感じっすね!
やっぱり広いところが最高っす!」
ほっとした表情の二人。だが、
その静けさは突然破られる。
地面の奥深くから
「ゴゴゴ……」という音が響いた。
KILO
「……何の音ですか?」
イソクマ
「いや、たぶん、
すっごい嫌なやつっすよ!」
次の瞬間、地面が崩れ、
大きなモグラのような生物が顔を出す。
その鋭い爪と赤黒い体毛が、
二人の視線を釘付けにした。
KILOは慌てて鑑定スキルを発動する。
――――――――――――――――――
名称: フォレストモール
分類: 地中獣種
危険度: C級
特徴: 地中に潜み、不意打ちで敵を襲う。
備考: 地表では動きが鈍くなるが、
その鋭い爪は武器に加工可能。
弱点: 不明
討伐報酬: フォレストクロー、小魔石(価値: C)
――――――――――――――――――
KILO
「おい、弱点不明ってなんだよ!
俺のスキル壊れたのかっ!」
イソクマ
「うわっ、弱点なしとか最悪っすよ!
これ、どうするんすか!」
その問いに答える間もなく、
フォレストモールの群れが次々と
地面から現れる。
KILOは手近な木の枝を掴み、構えを取る。
イソクマも足元を警戒しながら後退する。
KILO
「イソさん、とりあえず、
地面の動きに気をつけて!
あれがまた掘り進んで――」
地面が突然爆ぜるように裂け、
二人は飛び退く。しかし、モールの爪が
空を切る寸前で止まった。
???
「そこだ!」
鋭い声と共に、槍がモールの腹を貫いた。
新たに現れた男が槍を引き抜くと、
モールは地面に崩れ落ちる。
その男は短髪で筋骨隆々、
手にした槍を肩に担ぎ、
二人を睨むように見下ろす。
グラド
「お前ら、こんなところで何をしている」
???
「助けていただいてありがとうございます!
あなたは?――」
グラド
「俺はグラド――感謝などいい。
無力なまま突っ立てば、この世界では即死だ」
イソクマ
「即死って……怖すぎっすよ!」
グラドはため息をつきながら、
槍の先を地面に突き刺す。
グラド
「お前たち、ここから出たいなら少しは
戦い方を学べ。このままでは無駄死にだ」
二人はその場に立ち尽くしたまま、
その言葉の意味を受け止めていた――。
グラドに案内されながら、
KILOとイソクマは周囲を警戒して進んでいた。
イソクマ
「それにしても、グラドさん、すごいっすね!
あんなモンスター、一撃で倒しちゃうなんて」
グラド
「槍はリーチが長い武器だ。ただ突くだけでなく、
モンスターの弱点を的確に狙えれば、
どんな獣でも対処できる」
KILOは槍を肩に担ぐ
グラドの姿をじっと見つめた。
KILO
「その槍……特別な武器なんですか?」
グラドは軽く槍を回しながら答えた。
グラド
「特別か?いや、ただのC級槍だ。
だが、武器の強さ以上に重要なのは、
それを扱う腕だ。覚えておけ」
KILOは小さく頷く。
KILO
「武器の性能じゃなくて腕前……ですね」
イソクマ
「KILOさん、なんか真剣っすね!
僕もそういうカッコいい槍とか
使ってみたいっすけど」
グラド
「お前には無理だな。
その細腕で槍を振るうのは諦めろ」
イソクマ
「ひどい!……可愛い僕に向かって!
でも、弓ならいけそうっすよね?」
グラドは軽く笑い、
足を止めて振り返った。
グラド
「そうだな。弓は力よりも集中力が求められる。
お前の性格次第では悪くない選択だろう」
イソクマ
「おお!グラドさん、わかってるっすね!」
KILOはそんなやり取りに苦笑しながら、
辺りを見回した。
KILO
「ところで、この辺りは安全なんですか?」
グラド
「安全な場所なんて、どこにもない。
だが、ここならモールの群れが出る心配はない。
少し休め」
彼らは木陰の下で腰を下ろし、
グラドが腰袋から取り出した水筒を差し出した。
グラド
「飲め。渇いているだろう」
KILO
「ありがとうございます」
イソクマ
「おお、マジ助かるっす!」
水を飲み干した二人に、
グラドはじっと視線を向けた。
グラド
「お前たちは、森を抜けた後どうするつもりだ?」
KILOは少し考え込むように黙ったが、
やがて口を開いた。
KILO
「目的地があるわけじゃないんです。ただ……」
イソクマ
「友達を探してるっすよ!
この辺で見かけたりしませんでしたか?」
グラドは眉をひそめ、
目を細めて答えた。
グラド
「似たような話をどこかで聞いた気がするな。
そうだ、別の国に住んでる俺の知り合いが、
最近変わった格好の若者二人を拾って鍛えとると
言っての……だが、その話の若者が、
お前らの友達かは知らん!」
KILO
「別の国……」
イソクマ
「マジっすか!?何か、
特徴とか言ってなかったすか?」
二人は期待に胸を膨らませ
食い入るように質問する。
グラド
「なんだっ!近いわっ!、
確か……紺色の髪の女と
赤髪の男と言ってた気がするわ」
KILO
「それ何処の国で、
どうやったら行けますか!?」
グラド
「場所はゼルシャ帝国、
北の『嵐の尾根』と言う山脈の
山沿いを進んだ先だ」
イソクマ
「それっぽいっすね!
行ってみる価値はあるっす!」
グラドは槍を持ち直しながら立ち上がった。
グラド
「ただ行くなら気をつけろ。
北の山沿いには、フォレストモールより危険な
モンスターがいる。それと……
もう少し戦い方を学べ」
KILOとイソクマはグラドの言葉に頷きながら、
その背中を見送った。
グラドと別れたKILOとイソクマの二人は、
北の山沿いに向かって歩き始めた。
小川の流れる音が、
足元で微かに響いている。
イソクマ
「KILOさん、やっぱりグラドさん、
すごい人っすね!槍一本で
あんなモンスターを……」
KILO
「確かに。俺も、あんな風に強くなれたら……」
KILOの言葉は途切れた。
遠くから奇妙な音が響いてきたのだ。
KILO
「……聞こえましたか?」
イソクマ
「うん、あっちから……何かヤバそうっすね」
茂みを抜けた先に、
鋼の脚を持つ蜘蛛型のモンスターが、
ゆっくりと動いているのが見えた。
KILOは冷静さを保とうとしながら、
鑑定スキルを発動した。しかし、
目の前に浮かび上がった結果に顔をしかめる。
――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: メタルスパイダー
分類: 魔物種(蜘蛛型)
危険度: C級
特徴: 不明
備考: 不明
弱点: 不明
――――――――――――――――――
KILO
「ヤバいって!また不明ばっかりかよっ!
くそっ、どうして何も分からないんっすか!」
イソクマ
「KILOさん、落ち着くっす!
とにかく何かしないと!」
KILOは歯を食いしばり、
もう一度スキルを使った。
だが、再び目に映るのは「不明」の文字ばかり。
――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: メタルスパイダー
分類: 魔物種(蜘蛛型)
特徴: 不明
弱点: 不明
備考: 仲間を呼ぶ性質がある。
――――――――――――――――――
KILO
「ふざけんなっ……!
何のためのスキルなんだよ!
こんなんじゃ戦えない!」
その怒りが空気を震わせたかのように、
蜘蛛たちが地面をカチカチと叩き始める。
イソクマ
「KILOさん!文句言ってる場合じゃないっす!
とりあえず、こいつら止めないと!」
KILOは近くの枝を拾い上げ、
苛立ちを込めて蜘蛛に突進する。
しかし、鋼の脚が枝を簡単に弾き返した。
KILO
「……くそっ、硬すぎる!」
蜘蛛たちは音を立て続け、
さらに奥の茂みが揺れ始める。
イソクマ
「やっぱり仲間呼んでるっすね!
早く何とかしないと!」
突然、遠くから風を切る音が響き、
鋭い矢が蜘蛛の脚の関節部分を貫いた。
一匹の蜘蛛が倒れ、その場に崩れ落ちる。
???
「動かないで。そのまま隠れて」
木々の間から現れたのは、
背の高い綺麗なエルフの女性だった。
彼女は片手に弓を構え、
蜘蛛の群れに狙いを定めている。
次々と放たれる矢が蜘蛛の弱点を正確に貫き、
動きを封じていく。
イソクマ
「……すげえ!あれが本物の弓使いっすか!」
KILO
「イソさん、まずは隠れましょう!
ここは彼女に任せて!」
女性は最後の一匹を射抜き、
振り返ると二人を静かに見つめた。
エルフの女性
「無謀な人間ね。どうしてこんなところに?」
KILO
「助けていただき、ありがとうございます。
私たちは――」
エルフの女性
「礼はいらないわ。でも、このままじゃ
また命を落とすことになる」
イソクマ
「そ、それは確かに……。
でも、あなたみたいに弓が使えれば、
もっとマシに……」
女性は小さく微笑み、弓を肩にかけた。
エルフの女性
「なら、教えてあげるわ。この森で
生き残るための技術をね」
木漏れ日の差し込む森の中、
エルフの女性の指導が始まった。
イソクマは弓を手に取り、
真剣な顔つきで構えている。
エルフの女性
「弓を引く手の力を抜いて、狙いを定めなさい」
イソクマ
「こうっすか?」
エルフの女性は微かに頷き、的を指差した。
エルフの女性
「次は矢を放ちなさい。目標を見据えて」
緊張しながらもイソクマが矢を放つと、
それは綺麗な弧を描き、木の幹に突き刺さった。
イソクマ
「おお!やっぱり僕、才能あるかもっすね!」
KILOは横でそれを見て、弓を持ち直した。
KILO
「俺も試してみます」
彼は矢をつがえ、慎重に構えを取る。
しかし、放たれた矢は全く違う方向に飛び、
どこにも当たらなかった。
エルフの女性
「……少し待って」
彼女はKILOの手を取って姿勢を直す。
しかし、どれだけ矢を放っても結果は同じだった。
エルフの女性
「……正直に言うわ。
あなたには弓の才能がない」
KILO
「……え?」
エルフの女性
「無理に弓を使うより、
自分に合った武器を探しなさい。
それが一番賢明よ」
KILOは俯きがちに弓を地面に置いた。
KILO
「……分かりました。
イソさんの修行が終わるまで、
少し歩いてきます」
イソクマ
「え、KILOさん?」
KILO
「すぐ戻りますよ……」
彼はその場を離れ、森の奥へと進み始めた。
木々が茂る森の中、
KILOは1人歩きながら
先ほどのやり取りを思い返していた。
KILO
「俺に、弓の才能がないのとか、
知ってけど……」
突然、背後の茂みが激しく揺れた。
振り返る間もなく、
大きな影がKILOに飛びかかってくる。
――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: シャドウフォックス
分類: 獣種(狐型)
危険度: C級
特徴: 影を利用して標的を狩る。
備考: 不明
弱点: 不明
――――――――――――――――――
KILO
「またかよ……勘弁してくれっ!」
とっさに地面の石を拾い、
フォックスに投げつけるも、
モンスターはそれを難なくかわし、
鋭い爪を振り上げた。
???
「下がってろ!」
鋭い声と共に槍が閃き、
モンスターの胴体を貫いた。
フォックスは短い悲鳴を上げ、
地面に倒れ込む。
KILO
「……グラドさん!?」
目の前に立っていたのは、
再びKILOを助けたグラドだった。
グラド
「弱いやつが一人で森を歩けば、こうなるさ」
KILO
「なんで……ここに?」
グラドは槍を肩に担ぎ、
冷たい視線を向けた。
グラド
「心配だったんだよ。
お前さんがあのままじゃ、
危ないと思ってな。案の定だ」
KILO
「……すみません」
グラドは呆れたように息をつき、
槍をKILOの目の前に差し出した。
グラド
「謝るくらいなら、
これを持て。俺が見てやる」
KILO
「……槍、ですか?」
グラド
「そうだ。お前は自分に合った
武器を探してるんだろ?試してみろ。
それでダメなら諦めればいい」
KILOは槍を手に取り、
その重さを確かめるように握りしめた。
KILO
「分かりました……教えてください!」
グラドは満足そうに頷くと、
近くの木を指差した。
グラド
「よし、まずは槍を振るう感覚を掴め。
あの木を相手にするんだ」
KILOは気合を入れ、槍を構えた。
グラドの指示に従い、
KILOは目の前の木に向かって
槍を振り下ろした。
グラド
「おい、そんなふうにただ力任せに振るな。
槍は繊細な武器だ。重さを活かして、
効率よく動かすんだ」
KILOは息を整え、もう一度槍を握り直した。
今度は、槍の重心を意識しながら振る。
風を切る音が微かに響いた。
グラド
「ほう、悪くない。だが、それじゃまだ遅い。
敵は待っちゃくれんぞ!」
KILOは歯を食いしばり、次々と槍を振るい、
木の表面に傷をつけていった。
その手は次第に痺れを覚え始めたが、
彼は振る手を止めなかった。
グラド
「よし、今日はここまでだ。
あまり無理をすると腱を傷める」
KILOは槍を地面に立てかけ、
肩で息をしながら振り返る。
KILO
「これ……向いてますかね?」
グラドは槍を肩に担ぎ、少し微笑んだ。
グラド
「まだ分からん。だが、
最初からこれだけ動けるなら、
可能性はある。続けてみる価値は十分だ」
KILO
「ありがとうございます……頑張ります!」
その言葉に力を込めると、
グラドは槍を指差しながら言った。
グラド
「なら、明日もここに来い。
お前に槍の基本を叩き込んでやる」
KILOは頷き、
心の中で少しだけ希望の光を感じた。
その夜、焚き火の前でイソクマの
弓術の成果を聞きながら、
KILOは槍を見つめていた。
彼の心の中には、新しい自分を探す期待と
緊張が混じり合っていた。
30
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