転生実況はじまりました ~異世界でも仲間と一緒に~

緋月よる

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第20章《情報の交差点》

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緋月よると色瀬夜真は、
カザリスとエイゼンと別れた後
転生時にバラバラに飛ばされた、
仲間たちを探し出すため、ゼルシャ帝国にある
堅牢な「アイゼリア要塞」を訪れた。

その中心にそびえる「ハンターギルド」は
冒険者たちの活動拠点で、大広間からは
彼らの喧騒や笑い声が絶えない。

緋月よると色瀬夜真は
ギルドの酒場の片隅に腰を下ろし、
出されたパンとスープを前にして
会話を交わしていた。
周囲では豪快な笑い声や話し声が響き渡り、
彼ら二人の存在はやや浮いて見えた。

緋月よるがパンを手に取り、
軽く周囲を見回しながらぼそりと呟く。

緋月よる
「どいつもこいつも
陽気すぎやろ……こいうい空間嫌いやわ」

色瀬夜真はスープを一口飲み、
笑いながらパンをちぎる。

色瀬夜真
「よるちゃが馴染もうとしないだけでしょ?
ほら、話しかけてきなよ」

緋月よる
「お前がやれ。俺はパン食ってる」

そのやり取りの最中、
弓を背負った筋肉質な中堅冒険者が
興味を引かれた様子で近づいてきた。
軽く頬笑みを浮かべながら二人の正面に立つ。

カイラッド
「……お前たち、随分と変わった格好してるな。
見たところ、冒険者登録したばかりか?」

緋月よるは眉を潜め、警戒するように答える。

緋月よる
「なんだ、酒場で職質か?
それとも新人イビリってやつか?」

その言葉に色瀬夜真が
慌てて手を挙げて笑顔を浮かべる。

色瀬夜真
「違う違う、よるちゃが警戒しすぎ!
話、聞いてみようよ」

カイラッドは短く笑い、
少し肩をすくめる。

カイラッド
「そんなつもりはねぇよ。
ただ、少し気になってな。半月ほど前、
お前たちと似た変な格好の連中を見たんだ。
南の山脈を越えた先のアステリア王国の森でな」

緋月よる
「マジか!おっさん!!」

カイラッド
「おいおい、俺はまだおっさんじゃない」

色瀬夜真
「そんな事より!どんな格好した連中だった!?」

カイラッドは腕を組みながら
少し考える仕草を見せた後、頷く。

カイラッド
「女みたいな男と、
緑服を着たメガネの男だったな」

その言葉を聞いて
緋月よるが勢いよく身を乗り出す。

緋月よる
「それって……
もしかしてKILOとイソクマか!?」

カイラッド
「その名を出したってことは、仲間か?」

カイラッドは
二人の仲間らしき人物について語り始めた。
彼は「嵐の尾根」という山脈を越えた
アステリア王国の森で、
KILOとイソクマに遭遇したと言う。

カイラッド
「2人とも変な奴らだったぜ。
弱いくせに森の中をさまよって歩いてたところ、
モンスターに襲われてな。
俺が弓で助けてやったんだよ」

緋月よる
「襲われてた!?……
まぁ、なんしても無事ならよかったわ」

カイラッド
「ロマンがどうとか言って
イソクマは弓使いに憧れてたから、
師匠を探せってアドバイスしてやった。
もしかすると今頃もう、弓術師にでも
なって戦える力を磨いてるかもな」

色瀬夜真が嬉しそうに拳を握りしめる。

色瀬夜真
「よるちゃ、これはビッグチャンスだよ!
早く追いかけよう!」

カイラッドはスープを飲み干し、
少し間を置いてから口を開いた。

カイラッド
「俺が見送ったのは森の出口までだ。
その先で奴らがどうしてるかは分からない。
ただ、一つ言えるのは、あの二人が王国内の
どこかにいる可能性が高いってことだ」

緋月よるが少し眉を寄せて考え込む。

緋月よる
「なるほど……出口まではたどり着けたってんなら、
最低限生き延びる力はあるってことか。
だが、そこから先はわからねぇと」

色瀬夜真
「よるちゃ、でも良かったじゃん!
これで王国に行けば会える可能性が
ぐっと上がったんだから!」

カイラッドは腕を組み、
真剣な表情で二人を見据える。

カイラッド
「だが、王国内に入るには一つ問題がある。
C級モンスターがウジャウジャいる
嵐の尾根を越えてなきゃならねえ」

緋月よる
「C級モンスターね……」

緋月よるはパンをちぎりながら静かに呟いた。

緋月よる
「C級ならギリなんとかなるかもな……
前に一度やったことがある」

その言葉に色瀬夜真が目を輝かせる。

色瀬夜真
「だよね、よるちゃ!私たちなら行けるよ!」

カイラッドは少し笑い、
酒の入ったジョッキを持ち上げた。

カイラッド
「自信があるのはいい事だが、
群れで来られたらどうする?覚悟しておけよ、
あの山に入るってのはそういうことだ」

緋月よるは真剣な表情で
カイラッドの言葉を受け止め、静かに頷く。

緋月よる
「忠告は助かる。
でも、止まってる暇はねぇ。
俺達は行くしかねぇんだ、残念ながらな」

色瀬夜真
「そうそう、止まってたら何も始まらないしね!」

カイラッドは二人の勢いに
少し驚いたような顔を見せたが、
すぐに苦笑いを浮かべる。

カイラッド
「まぁ、いいさ。
せいぜい死なないように気をつけろ」

緋月よると色瀬夜真は礼を言い、席を立った。

色瀬夜真
「ありがとう、カイラッドさん!今度会ったら、
私達の腕前も見せてあげるからね!」

カイラッドはジョッキを軽く傾け、
二人の背中を見送る。

カイラッド
「面白い奴らだ……。
無事にたどり着けることを祈るさ」

カイラッドの忠告を受けた緋月よると色瀬夜真は、
次なる目的地「嵐の尾根」へ向けて
準備を整え始める。

色瀬夜真
「よるちゃ、あのカイラッドさんの話じゃ、
『嵐の尾根』ってかなり厄介そうだよね。
どんな感じなんだろう?」

緋月よるが地図を広げ、険しい尾根を指差す。

緋月よる
「ここだな。山道が細い上に崖沿いだ。
しかも強風が吹き荒れる。
油断すりゃ簡単に滑り落ちるだろうな」

色瀬夜真
「わぁ、スリル満点じゃん!……
って、冗談言ってる場合じゃないか」

緋月よるは地図を折りたたみながら、
真剣な表情で続けた。

緋月よる
「それだけじゃない。尾根には、
C級モンスターも出るらしいしな。
カイラッドが言ってたやろ?
“ウジャウジャいる”ってさ」

色瀬夜真
「そうだったね……
まぁ、でも、私がいればなんとかなるでしょ!
よるちゃの事はついでに守ってあげるからさ!」

緋月よる
「ははっ自信過剰過ぎやろ。
まぁでも油断は禁物や。あの風と崖、
モンスターより厄介かもしらん」

色瀬夜真はポーションを手に取り、
店員に代金を払うと、明るい笑顔で振り返った。

色瀬夜真
「よるちゃ、あんまり難しく考えないでいこうよ!
目標はシンプル、“キロチャとイソさんを見つける”。
それだけでしょ?」

緋月よるは軽く笑い、色瀬夜真の背を叩く。

緋月よる
「お前のその楽観っぷり、
すげぇーな。けど、気は抜くなよ」

「嵐の尾根」は、ゼルシャ帝国と
アステリア王国を隔てる山脈の一部に位置し、
険しい岩肌と強風が特徴の難所だ。
尾根は狭い山道が続き、両側は急な崖。

時折吹き荒れる突風は、
気を抜けば崖下に転落しかねない。

色瀬夜真が前を歩きながら、
ふと立ち止まり後ろを振り返る。

緋月よる
「よるちゃ、足元に気をつけてよ!
この道、崩れやすいっぽい」

緋月よるは足元の石を軽く蹴りながら、
疲れた様子で返す。

緋月よる
「わかってるって……、
崖に落ちたらシャレにならんからな」

突風が吹き荒れ、色瀬夜真の髪が激しく揺れる。
彼女はその場にしゃがみ込んで体勢を低くする。

色瀬夜真
「……あっぶな~。
後もうちょいで、落ちる所だったよ。」

緋月よるは肩をすくめ、
呆れたように話す。

緋月よる
「お前マジで、気を付けろよ……」

二人は少し休憩を取り、
岩陰に腰を下ろした。風を避けながら、
過去の仲間たちのことを語り始める。

色瀬夜真
「キロチャ、今頃キレてるだろうな、
こんな目に合わされてさ」

緋月よる
「ははっだろうな、あいつは。
イソクマもよく付き合ってるよな……
いや、付き合わされてるのか?」

色瀬夜真は笑いながら、
遠くの風景に目を向ける。

色瀬夜真
「でも、イソさんは、楽しんでそうだよね。
ゲームの世界に来れたって!」

緋月よる
「確かに……想像出来るわ」

日が傾き始め、
山道に長い影が伸びる。尾根の向こうから、
かすかに人の叫び声が聞こえた。

色瀬夜真
「よるちゃ、今の聞こえた?」

緋月よるはすぐに立ち上がり、
声の聞こえた方向に目を向ける。
山道の先に、小さな人影が2つ見える。
どうやらモンスターに襲われているらしい。

緋月よる
「……ああ、見えた。
あいつら、やられれんぞ」

色瀬夜真
「助ける?よるちゃ!」

緋月よるは一瞬考えた後、剣を握り直す。

緋月よる
「めんどいけど、助けるか……」

二人は、素早く動き始めた。
その姿は夕日に照らされ、
影となって崖道を駆け抜ける。
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