雨の向こう側へ

seiru

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雨の向こう側へ ①

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《Syou side》





『こんばんは。』

『ぇ…ぁ、こんばんは…。』

『俺、今日からここに通い始めたんですよ。』

『そう…なんですね。』

『ここ、長いんですか?』

『3ヶ月…かな?』

『おぉ、続いてますねぇ。』

『ははっ…なんとか。』

『あー、いきなり話しかけてごめんなさい!』

『いえ…大丈夫ですよ。』

『よかったー。
人見知りしなさすぎだって、元カノによく怒られたんですけどね。
生まれ持った性格はなかなか変えられなくて。』

『いいと思いますけど…うらやましいくらいです。』

『あっは!褒められた♪
ありがとうございます。
このエアロバイク、最新式ですよね?
えーっと、これ押すと負荷かかるんかな…。
うっわ!重っっ!』



──────────



『マジ、うざっ…。』


ジム帰りの電車内は、行きとは違って座席にチラホラと空きがある。

それでも僕は座らない。

開閉ドアの脇に立ち、窓の外を眺めるフリをして、映る自分と向き合う時間が好き。


3ヶ月間通っているジムで、初めて他人から声をかけられた。

ひたいに汗がにじみ出した時、忍者みたいに右側に人影が現れたかと思ったら、強引な話術で会話に僕を巻き込んできた。

全く知りもしない人間に、どうして話しかけようと思うのか、意味不明。

【羨ましい】だなんてこれっぽっちも思っていないのに、仕方なくノッてやったのが間違いだった。

結局その後も喋り続けてきたから、エアロバイクの最中ずっと付き合う羽目になってしまったじゃないか。


"pushuuuu-----"

"ご乗車~ありがとうございます。"


『……。』


雨宮あめみや】と名乗ったアイツは、ジムから1駅のこの駅で降りるらしい。

本当はもっと汗をかきたかったのに、アイツより先に出たくて30分も居られなかった。


"Haaaa…"


悔しさやらむなしさやら、いろんな想いのこもった溜め息が、遠慮がちに閉まったドアを曇らせる。

人目を確認してから、人差し指を伸ばして小さくそこに描いた。


【✕‬】


雨は好きだから、【雨宮】って苗字みょうじには若干じゃっかんかれたけど。

僕の興味の対象になることは、有り得ない。

虚像きょぞうで自分を守ってきた僕に、土足で近づこうとするヤツは御免ごめんだ。

いや、アイツは土足どころじゃない。

いい大人なのに、子供みたいに無邪気に裸足で近づいてきたようなもの。


『く…くくっ…。』


ほら。

滅多に笑わない僕なのに、勝手に笑いが込み上げてしまう程、くだらない男だったってこと。

ただ、それだけのこと。




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