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私は、独り、流される
はなのいずみ
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森は本来清廉な気配に満ちている。そう言っていたのは誰だったっけ。多分ヴィーの集めた仲間の1人だったと思う。
森は自然の恵みをその腕に抱き、全てを与え、全てを許すのだと。獣は共存し、鳥が羽を休め、眠る場所。森は、生命が息衝く場所らしい。
旅の中で通った森は魔王のせいで見る影もなかったけれど、ここは綺麗だと素直に感じる。ヴィーが倒したのだから当たり前だけど本当に魔王は居なくなったのだと、肌で感じる事で初めて実感を伴うのだから不思議だ。
花の泉までの道は辛うじて残っていたようで、若干草の生えたその道を辿っていく。ここはなんだか息がしやすい。身体も心做しか軽く感じる。自然と深くなる呼吸に、力が抜けていく。ここには、私を傷付けるものはいないと、何となく思う。何故だろう。分からないけど、嫌な気分ではなかった。
今聞こえるのは風が葉を揺らす音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。それが心地好くて、目を閉じると途端に土と木の香りが濃くなる。目を閉じているのに、足は迷いなく湖へ向かっているのが分かる。導かれるように、誘われるように。私はここを知らないのにしっかりと進んでいくことが不思議と怖くはなくて、そんな自分に驚く。
この感じは、前にもあった気がする。確か、あの時はヴィーも一緒で、同じように泉を、
「水の、匂い。」
急に匂いが変わる。生命溢れる香りから、冷たく澄んだ香りへ。加えて寄り添うように甘い香りもする。パッと目を開けると、いつの間にか拓けた場所に出ていた。人工的ではない、けれど自然と出来た訳ではないであろう場所。
「綺麗…。」
キラキラと輝く水面に近付く。覗き込むと底まで見える透き通った水に沈む沢山の花があった。
風でゆらゆらと揺れる水面に、変な顔の私が映る。ホッとしたような、それでいてとても疲れているような、そんな顔。
引き攣ったような口元に、そっと触れる。表情を取り繕わなくてもいいのは、いつぶりだろうか。そう思ったら、僅かに上がっていた口角が下がる。
「ほんと、変な顔。」
ポツリと零れた言葉が、目の前の湖に沈んでいく。私の言葉に同意するかのように、花が揺れた、気がした。
その瞬間、何かに背中を押される。
「っ!!!」
咄嗟のことで、私は為す術もなく水の中へと落ちていった。水が全てを覆う前に小さく聞こえたのは誰かの笑い声だ。楽しそうな、嬉しそうな、笑い声。
その声を、私は知っている気がした。
森は自然の恵みをその腕に抱き、全てを与え、全てを許すのだと。獣は共存し、鳥が羽を休め、眠る場所。森は、生命が息衝く場所らしい。
旅の中で通った森は魔王のせいで見る影もなかったけれど、ここは綺麗だと素直に感じる。ヴィーが倒したのだから当たり前だけど本当に魔王は居なくなったのだと、肌で感じる事で初めて実感を伴うのだから不思議だ。
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今聞こえるのは風が葉を揺らす音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。それが心地好くて、目を閉じると途端に土と木の香りが濃くなる。目を閉じているのに、足は迷いなく湖へ向かっているのが分かる。導かれるように、誘われるように。私はここを知らないのにしっかりと進んでいくことが不思議と怖くはなくて、そんな自分に驚く。
この感じは、前にもあった気がする。確か、あの時はヴィーも一緒で、同じように泉を、
「水の、匂い。」
急に匂いが変わる。生命溢れる香りから、冷たく澄んだ香りへ。加えて寄り添うように甘い香りもする。パッと目を開けると、いつの間にか拓けた場所に出ていた。人工的ではない、けれど自然と出来た訳ではないであろう場所。
「綺麗…。」
キラキラと輝く水面に近付く。覗き込むと底まで見える透き通った水に沈む沢山の花があった。
風でゆらゆらと揺れる水面に、変な顔の私が映る。ホッとしたような、それでいてとても疲れているような、そんな顔。
引き攣ったような口元に、そっと触れる。表情を取り繕わなくてもいいのは、いつぶりだろうか。そう思ったら、僅かに上がっていた口角が下がる。
「ほんと、変な顔。」
ポツリと零れた言葉が、目の前の湖に沈んでいく。私の言葉に同意するかのように、花が揺れた、気がした。
その瞬間、何かに背中を押される。
「っ!!!」
咄嗟のことで、私は為す術もなく水の中へと落ちていった。水が全てを覆う前に小さく聞こえたのは誰かの笑い声だ。楽しそうな、嬉しそうな、笑い声。
その声を、私は知っている気がした。
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