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私は、独り、流される
えるふ
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人間とは違う尖った耳。この世のものとは思えない整った相貌。ジャヴィさんは、エルフだ。
「生きておったのか。」
無表情で抑揚のない話し方。怒っている訳ではなくこれがデフォルトだとヴィーは笑っていた。
「…はい。」
「風の噂では、勇者の姿が見えないと。」
「…はい。」
「そうか。」
音もなく近付いてくる姿に鼓動が早まるのを感じる。旅の最中も何を考えているか分からず、ジャヴィさんと話す時は凄く緊張していたのを思い出す。
「……。」
「あの日、魔王を討ち滅ぼした後、ヴィオレットは我らに転移魔法を施行した。」
「は、い。」
「我らを仲間と呼んでいたのに人の子とはなんと薄情かと思っておったが、そうか、その道を選んだという訳か。」
「その道?」
「環に組み込まれることを良しとしたのだろうよ。だから今、ここにヴィオレットはいない。」
「知っていたのですか…?」
「全ては知らぬ。しかし、永き生の中で何度か体験すれば自ずと理解する事もあろうよ。主は最後まで傍に?」
「はい。」
エルフは長寿の種族で、平均寿命が千年を超えるのだから驚きだ。ジャヴィさんは確か、600年を超えた辺りだと言っていたっけ。
「ヴィオレットも酷な事をする。」
「……。」
思わず俯いた頭を掴まれ、透き通った美しい目が額へと向けられる。
「しかし、少し会わぬ間に萎れたな。その癖花の加護がついておる。不思議なものよ。」
「えっと、旅の途中で出会った精霊と偶然再会したんです。」
「偶然。さて、それはただの偶然かそれとも必然か。まぁどちらでも構わぬが、なるほど、主はそれを望んだのか。」
エルフの言葉は私には難しい。
「…?」
「縁は大事にせよ。」
そういうとさっさと踵を返し、去っていく。どうしてあんな場所にいたのか聞くのを忘れてしまったと気付いたのは、宿に戻った後だった。
ジャヴィさんは天然で可愛い人だと、そう評していたのはヴィー1人だけだ。
森と親和性のあるエルフ。かつて森は清廉の場だったと教えてくれたのは彼だった。自然に関する深い知識を持ち、生きる中で沢山の争いを見てきたからこそ、争いをあまり好まない。
私にとって彼は感情の起伏が見えない、不思議な人だった。理不尽に怒ることも、暴力を振るう事もしない。魔法や料理を失敗しても罵倒せず、一緒にその残骸の片付けをしてくれた事もあった。彼からしてみれば、10代半ばの私やヴィーが赤ちゃんに見えていたのかもしれない。
エルフとは、何ものにも染まらない美しい種族。他の種族に興味が無い人が多いと聞いている。
そういえば、どうして魔王退治に力を貸してくれたのだろう。ヴィーに興味があるとだけ聞いていたけれど。ヴィーなら知っているのかもしれない。
…今度会った時に聞いたら、答えてくれるだろうか。
そう思いながら、私は目を閉じた。
「生きておったのか。」
無表情で抑揚のない話し方。怒っている訳ではなくこれがデフォルトだとヴィーは笑っていた。
「…はい。」
「風の噂では、勇者の姿が見えないと。」
「…はい。」
「そうか。」
音もなく近付いてくる姿に鼓動が早まるのを感じる。旅の最中も何を考えているか分からず、ジャヴィさんと話す時は凄く緊張していたのを思い出す。
「……。」
「あの日、魔王を討ち滅ぼした後、ヴィオレットは我らに転移魔法を施行した。」
「は、い。」
「我らを仲間と呼んでいたのに人の子とはなんと薄情かと思っておったが、そうか、その道を選んだという訳か。」
「その道?」
「環に組み込まれることを良しとしたのだろうよ。だから今、ここにヴィオレットはいない。」
「知っていたのですか…?」
「全ては知らぬ。しかし、永き生の中で何度か体験すれば自ずと理解する事もあろうよ。主は最後まで傍に?」
「はい。」
エルフは長寿の種族で、平均寿命が千年を超えるのだから驚きだ。ジャヴィさんは確か、600年を超えた辺りだと言っていたっけ。
「ヴィオレットも酷な事をする。」
「……。」
思わず俯いた頭を掴まれ、透き通った美しい目が額へと向けられる。
「しかし、少し会わぬ間に萎れたな。その癖花の加護がついておる。不思議なものよ。」
「えっと、旅の途中で出会った精霊と偶然再会したんです。」
「偶然。さて、それはただの偶然かそれとも必然か。まぁどちらでも構わぬが、なるほど、主はそれを望んだのか。」
エルフの言葉は私には難しい。
「…?」
「縁は大事にせよ。」
そういうとさっさと踵を返し、去っていく。どうしてあんな場所にいたのか聞くのを忘れてしまったと気付いたのは、宿に戻った後だった。
ジャヴィさんは天然で可愛い人だと、そう評していたのはヴィー1人だけだ。
森と親和性のあるエルフ。かつて森は清廉の場だったと教えてくれたのは彼だった。自然に関する深い知識を持ち、生きる中で沢山の争いを見てきたからこそ、争いをあまり好まない。
私にとって彼は感情の起伏が見えない、不思議な人だった。理不尽に怒ることも、暴力を振るう事もしない。魔法や料理を失敗しても罵倒せず、一緒にその残骸の片付けをしてくれた事もあった。彼からしてみれば、10代半ばの私やヴィーが赤ちゃんに見えていたのかもしれない。
エルフとは、何ものにも染まらない美しい種族。他の種族に興味が無い人が多いと聞いている。
そういえば、どうして魔王退治に力を貸してくれたのだろう。ヴィーに興味があるとだけ聞いていたけれど。ヴィーなら知っているのかもしれない。
…今度会った時に聞いたら、答えてくれるだろうか。
そう思いながら、私は目を閉じた。
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