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旅に出よう、彼女の元へ、行けるように
かくれが
しおりを挟むドアを開けるとレーシアが立っていた。私を見ると両手を広げ、おいでと笑う。その腕の中に収まると、力強く抱き締められた。暖かい。
「おかえり、マリー。」
「た、ただいま、レーシア。」
「今まで1人でよく頑張った!えらい!」
レーシアの声は優しくて、私は困ってしまう。だって私はえらくなんかない。自分勝手に行動して、皆に迷惑を掛けただけなのに。
「レーシア。」
「よしよし、今は何も考えずゆっくり休んで。おねーさんに任せなさい!」
からからと笑うレーシアは、いつも通り明るい。腕を引かれるまま、寝室へと案内される。寝不足なのがバレているようだ。
「…ごめんなさい。」
「マリー、こういう時は?」
「ありがとう、ございます。」
「はい、よく出来ました。大丈夫。ここには味方しかいないから。安心して眠りな。」
素直にベッドに入ると、毛布の上からぽんぽんと優しく叩かれる。見守られる安心感にゆるりと眠気がやってくる。誘われるままに、私は目を閉じた。
誰かが近付いてくる足音が聞こえる。けれど、眠くて目を開けることは出来なかった。身体は動かないけれど声だけが聞こえてくる。何だか不思議だ。
「マリーは、寝たのか。」
「ずっと気を張ってたんでしょ。そりゃ疲れもするよ。」
小声で話すトールは、新鮮で面白い。レーシアもトールも私を起こさないように話している。部屋から出ていって普通に話をしてもいいのに出ていこうとはしない。それが私の為だと思うと、何だかくすぐったい気持ちになった。
「ったく、まだガキだってのによ。無茶するなぁ。」
「分かってないねぇ。この子は人の為に頑張る子だよ。今は大好きな友達の為に、ただ一生懸命なだけ。」
「真面目過ぎんだよ。もうちょい自由に生きていいのにな。マリーもヴィオも。」
「あたしもそう思うよ。あんたは自由すぎるけど。」
「俺は盗賊だからな。欲しいものは誰に構わず奪うし、要らないものは捨てる。俺は俺の好きなものだけに囲まれて生きていくって決めてんだ。」
「そういう割に、真面目にお頭やってんでしょ。盗賊団のくせに評判いいらしいじゃん。」
レーシアのからかい混じりの声に、トールが鼻で笑う。
「馬鹿言え。あんなの適当だ適当。アイツらが勝手についてきてるんだよ。ま、ついてくるも来ないもそれはアイツらの自由だ。ただ、俺の名前を使うってんなら俺に迷惑がかからないようにって言ってるだけだ。」
「それで何十人もの人を従わせてるんだからよく分かんない男だよ。ほんと、呆れればいいのか褒めればいいのか…。」
「俺のことはどうでもいいんだよ。今はヴィオの事だ。」
頭を撫でられる。この手はトールだろうか。ヴィーについての話ならば、私もちゃんと聞きたいと思うのに、やっぱり私の目は開いてくれなかった。砂時計の砂が落ちるように、私の意識も薄れていく。2人の声だけが頭の中で音楽のように流れていく。
「エミリーはやっぱり難しいみたい。駆け付けたいのは山々だけど、監視が厳しいらしくて。」
「エミリーの教会の場所が場所だ。あそこはある種治外法権的だからな。逃げ込まれたらアウトだって思ってんだろ。マリーが逃げるはずねぇのにな。」
「全くよ。」
「とりあえず今は置いとくぞ。ファルは資金面で支援してくれるらしい。」
「お、あのお坊っちゃんも成長したね。」
レーシアの思わずといった様子の拍手に、少しだけ意識が浮上する。
「落ち着けマリーが起きる。…エミリーにこっぴどく振られたからな。」
「ごめんつい。ファルは失恋して大人になった?」
「少しだけな。」
「あはは、今後に期待かな。…ん?」
コンコン、と窓が叩かれる。それから窓を開ける音と鳥の羽ばたきが聞こえた。ジルの伝書鳩だろうか。
「ジャヴィさんはまだ見つからないってジルが。」
「エルフの森にいるんじゃなかったのかあのジジイ。」
「元々風来坊みたいなものだったしね。そのうちひょっこり現れそうだけど。」
「ありそうで腹立つ。いつも美味しいとこだけ持っていきやがって。」
「はいはい。拗ねない。引き続きジルは捜索と撹乱に徹するって言ってる。」
「んじゃ、今んとこ現状維持か。ある程度情報操作したら動くぞ。」
「分かった。」
ここで私は完全に眠ってしまった。起きたらちゃんと一から話を聞こう。覚えているか分からないけれど、私はそう誓った。
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