主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

文字の大きさ
50 / 122
旅に出よう、彼女の元へ、行けるように

かくれが

しおりを挟む

ドアを開けるとレーシアが立っていた。私を見ると両手を広げ、おいでと笑う。その腕の中に収まると、力強く抱き締められた。暖かい。

「おかえり、マリー。」

「た、ただいま、レーシア。」

「今まで1人でよく頑張った!えらい!」

レーシアの声は優しくて、私は困ってしまう。だって私はえらくなんかない。自分勝手に行動して、皆に迷惑を掛けただけなのに。

「レーシア。」

「よしよし、今は何も考えずゆっくり休んで。おねーさんに任せなさい!」

からからと笑うレーシアは、いつも通り明るい。腕を引かれるまま、寝室へと案内される。寝不足なのがバレているようだ。

「…ごめんなさい。」

「マリー、こういう時は?」

「ありがとう、ございます。」

「はい、よく出来ました。大丈夫。ここには味方しかいないから。安心して眠りな。」

素直にベッドに入ると、毛布の上からぽんぽんと優しく叩かれる。見守られる安心感にゆるりと眠気がやってくる。誘われるままに、私は目を閉じた。

誰かが近付いてくる足音が聞こえる。けれど、眠くて目を開けることは出来なかった。身体は動かないけれど声だけが聞こえてくる。何だか不思議だ。

「マリーは、寝たのか。」

「ずっと気を張ってたんでしょ。そりゃ疲れもするよ。」

小声で話すトールは、新鮮で面白い。レーシアもトールも私を起こさないように話している。部屋から出ていって普通に話をしてもいいのに出ていこうとはしない。それが私の為だと思うと、何だかくすぐったい気持ちになった。

「ったく、まだガキだってのによ。無茶するなぁ。」

「分かってないねぇ。この子は人の為に頑張る子だよ。今は大好きな友達の為に、ただ一生懸命なだけ。」

「真面目過ぎんだよ。もうちょい自由に生きていいのにな。マリーもヴィオも。」

「あたしもそう思うよ。あんたは自由すぎるけど。」

「俺は盗賊だからな。欲しいものは誰に構わず奪うし、要らないものは捨てる。俺は俺の好きなものだけに囲まれて生きていくって決めてんだ。」

「そういう割に、真面目にお頭やってんでしょ。盗賊団のくせに評判いいらしいじゃん。」

レーシアのからかい混じりの声に、トールが鼻で笑う。

「馬鹿言え。あんなの適当だ適当。アイツらが勝手についてきてるんだよ。ま、ついてくるも来ないもそれはアイツらの自由だ。ただ、俺の名前を使うってんなら俺に迷惑がかからないようにって言ってるだけだ。」

「それで何十人もの人を従わせてるんだからよく分かんない男だよ。ほんと、呆れればいいのか褒めればいいのか…。」

「俺のことはどうでもいいんだよ。今はヴィオの事だ。」

頭を撫でられる。この手はトールだろうか。ヴィーについての話ならば、私もちゃんと聞きたいと思うのに、やっぱり私の目は開いてくれなかった。砂時計の砂が落ちるように、私の意識も薄れていく。2人の声だけが頭の中で音楽のように流れていく。

「エミリーはやっぱり難しいみたい。駆け付けたいのは山々だけど、監視が厳しいらしくて。」

「エミリーの教会の場所が場所だ。あそこはある種治外法権的だからな。逃げ込まれたらアウトだって思ってんだろ。マリーが逃げるはずねぇのにな。」

「全くよ。」

「とりあえず今は置いとくぞ。ファルは資金面で支援してくれるらしい。」

「お、あのお坊っちゃんも成長したね。」

レーシアの思わずといった様子の拍手に、少しだけ意識が浮上する。

「落ち着けマリーが起きる。…エミリーにこっぴどく振られたからな。」

「ごめんつい。ファルは失恋して大人になった?」

「少しだけな。」

「あはは、今後に期待かな。…ん?」

コンコン、と窓が叩かれる。それから窓を開ける音と鳥の羽ばたきが聞こえた。ジルの伝書鳩だろうか。

「ジャヴィさんはまだ見つからないってジルが。」

「エルフの森にいるんじゃなかったのかあのジジイ。」

「元々風来坊みたいなものだったしね。そのうちひょっこり現れそうだけど。」

「ありそうで腹立つ。いつも美味しいとこだけ持っていきやがって。」

「はいはい。拗ねない。引き続きジルは捜索と撹乱に徹するって言ってる。」

「んじゃ、今んとこ現状維持か。ある程度情報操作したら動くぞ。」

「分かった。」

ここで私は完全に眠ってしまった。起きたらちゃんと一から話を聞こう。覚えているか分からないけれど、私はそう誓った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...