主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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旅に出よう、彼女の元へ、行けるように

覗き見の娯楽*

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「あーーー!!またひっつき虫ちゃんが面白いことしてるぅ!もー楽しいことする時は私のこと呼んでって言ったのにぃ。」

水鏡の前でパタパタと足を動かすフォーレンにオーグが顔を顰める。

「またあの人間の話ですか。」

「あったりまえじゃん。最近の私のお気に入りはひっつき虫ちゃんだもーん。」

ケラケラと笑うフォーレンは、けれどオーグの顔を覗き込んで目を見開く。

「うわオーグ、自分で傷付きに来た癖になんて顔してんの?ウケる。」

「フォーレン。」

オーグはそのままフォーレンへと手を伸ばす。その手を受け入れてフォーレンが笑う。

「はいはい、私のベイビーちゃんは甘えん坊だなぁ。」

ぽんぽんと背中を叩けば、フォーレンを抱き締めるオーグの腕の力が増した。

「なになに私のこと絞め殺す気?まぁあんたじゃ無理だけど。あのさぁオーグが何を心配してんのか分かんないけどぉ、高々数十年、何したって死ぬのが人間だよぉ?それに、ひっつき虫ちゃんはぁもうすぐ死んじゃうかもだし~。」

「貴女のお気に入りなのに?」

「?死ぬのなんて普通でしょ。ひっつき虫ちゃんはなーんにも特別じゃない、平凡な人間だよぉ?」

「助けないんですか。」

オーグの言いたいことが伝わったのだろう。フォーレンはニヤニヤとした笑みをオーグに向ける。

「ベイビーちゃんの時みたいに?私が?ひっつき虫ちゃんを?あっははは!!無い無い!」

大声で笑うフォーレンがオーグの腕の中から抜け出し、空中で一回転する。

「は~めちゃくちゃ笑ったぁ。最近やけにひっつき虫ちゃんのこととなると突っかかってくるなぁって思ってたけどぉ。嘘でしょめっちゃウケる。ベイビーちゃん面白いこと言うね?」

そう言ってフォーレンは笑うのをやめ、オーグにぐっと顔を近付けた。

「何故私が人間ごときを助ける必要がある?」

その冷たい視線と言葉にオーグが息を飲む。
しかしそれは1秒にも満たない間の出来事で、すぐにフォーレンは視線を水鏡へと向けて顔を顰めた。

「うげ、なにこいつ。彫刻エルフといい勝負なんだけどぉ。しかも光属性魔法?吐きそ~。」

フォーレンはべぇ、と舌を出す。
齧り付くように水鏡を見つめ、しばらくあーだこーだ野次を飛ばして楽しんでいたが、進展があったのだろう。その表情を変化させる。

「あれぇ帰るの?ふーん?てっきりひっつき虫ちゃん達と仲良くするのかと思ってたけどぉ。」

それはそれでつまんな~いと足をバタバタさせたフォーレンが、ふと何かに気付いた様子で水鏡を消す。

「あの光属性にバレちゃったぁ。でもまぁいっか。ここまで来たらもーどうしようもないしぃ。ふふふ、楽しみだなぁ。本当は傍で見てたいけど、流石に見付かっちゃうよねぇ。でも直接見たい~。ねぇオーグ、私が鍵を作ってあげたんだしぃ、ちょっとくらいサービスしてもらってもいいと思わなぁい?」

「人間の都合など無視すればいいでしょう。」

フォーレンをもう一度腕の中へと誘いながらオーグが淡々と言葉を吐く。
その腕の中に舞い戻り、フォーレンは頬を膨らませる。

「それはそうなんだけどぉ、今回は私を入れない方がぜ~ったい楽しめるもん。」

「そうですか。」

オーグの適当な返事を聞いているのか聞いていないのか。
フォーレンはうっとりとした顔を浮かべてそっと目を閉じる。

「早くあの子を目覚めさせて、ひっつき虫ちゃん。」

それはとても愛おしげな声だった。
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