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君が、私を、目覚めさせた
荒野を進む
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ソレントに教えられた道を進む。不気味な程静かな荒野をひたすら歩く。草も動物も、魔物の姿さえも見えない。ただ砂と土だけがあった。
現在地を示すマップを頼りにヴィオレットは立ち止まる。そっと空中に手を添えれば、確かに何かがヴィオレットの手を拒んだ。
『不可視の結界が張られているようだ。これ以上は進めない。ジャヴィの魔法で解除出来る。解除しますか?』
はい
いいえ
ウィンドウに表示されたそれを躊躇いなく押す。ヴィオレットがジャヴィに目を向けると、ジャヴィはひとつ頷き、ヴィオレットと同じように手を添える。
「«解除»」
ジャヴィが唱えた瞬間、全てが変わる。何も無かった筈の荒野に緑の生い茂った庭園が現れたのだ。奥には大きな屋敷も見えた。
「ここがオーグとフォーレンのいる屋敷…。」
「うむ。2つ大きな魔力が見えるの。」
「…行こう。」
唇をグッと噛み締め緊張した面持ちでヴィオレットは歩き出す。
こんなに緊張するのはいつぶりだろうか。
こういう時に緊張して大変になるのはマリーだった。自分より慌てている人がいると冷静になるように、ヴィオレットはマリーがあれほど緊張していたから平気で居られたのだと自覚する。
優しい幼馴染。守っているつもりでヴィオレットはいつだって彼女に守られてきたのだ。零れそうになる雫をどうにか止めるためにヴィオレットはただ機械的に足を進める。
「…要件は分かりきっていますが、敢えて問いましょうか。何をしにここへ?」
音もなく現れた魔族に、ヴィオレットもジャヴィも驚かない。魔族もまたそれを想定していたのか、冷ややかに2人の方を見て溜息を吐くと、そう告げた。
「フォーレンと話がしたいの。」
「それを私が許すとでも?」
「お願い。」
ヴィオレットはオーグをじっと見つめる。その視線にオーグは鬱陶しげに眉を顰めた。
「人間はいつも身勝手ですね。フォーレンと会って話をして、それでどうするのです。フォーレンを生贄にあの人間を助けると言うのならその身体を引き裂いて差し上げますよ。」
言いながらオーグの殺気が膨れ上がる。
「そんなつもりは…!」
「我はエルフだが。」
ヴィオレットの声に被さるようにジャヴィが告げる。
呆気にとられたヴィオレットはジャヴィの名前を呼ぶ事しか出来ない。
「ジャヴィ…。」
「引きこもりエルフがなんの用ですか。大人しく森で過ごしていればいいものを。」
「ヴィオレットに興味があった故。」
「勇者に?今まで見向きもしなかったくせに何を言っているのか。その小娘が特別だとでも言いたげですね。まぁ私にはどうでもいいですが。…とにかく、お帰りください。私はフォーレンを貴方達に会わせるつもりはありません。ここで殺さないだけありがたいと思っていただかないと。」
「それは出来ない。フォーレンに会わせてもらうまで、私は帰らないわ。」
「…聞こえなかったんですか?私は帰れと言ったんですよ。」
「帰らない。」
「帰れ。」
「帰らない!」
「«雷鳴»」
オーグがヴィオレットの真横に魔法を打ち出す。しかしヴィオレットは怯まない。ただまっすぐにオーグを見つめる。
「殺されたいんですか。」
「マリーを助ける為にはフォーレンの協力が必要なの!だから絶対帰らないわ!」
「ハッ、どこまでも自分本位な人間ですね。弱いくせに傲慢で、都合のいい時ばかり仲間であるような顔をする。本当に、吐き気がします。何故人間如きの為にフォーレンが…!」
バチリバチリとオーグの周りで音が鳴り出す。肌を突き刺すような空気に、ジャヴィはそっと手に光を灯す。
緊張が頂点へと達するその瞬間、オーグが体勢を崩す。その首には細い腕が回されていた。
「はーいストーップ。ベイビーちゃんは本当に私のこと好きね。」
くすくすと笑って姿を表したのは、フォーレンだった。
「私めっちゃモテモテじゃん。ウケる。」
いつもの調子でそう言ったフォーレンは、ヴィオレットとジャヴィを見て、艶やかに微笑んだ。
「お土産、ちゃんと持ってきてくれたぁ?」
現在地を示すマップを頼りにヴィオレットは立ち止まる。そっと空中に手を添えれば、確かに何かがヴィオレットの手を拒んだ。
『不可視の結界が張られているようだ。これ以上は進めない。ジャヴィの魔法で解除出来る。解除しますか?』
はい
いいえ
ウィンドウに表示されたそれを躊躇いなく押す。ヴィオレットがジャヴィに目を向けると、ジャヴィはひとつ頷き、ヴィオレットと同じように手を添える。
「«解除»」
ジャヴィが唱えた瞬間、全てが変わる。何も無かった筈の荒野に緑の生い茂った庭園が現れたのだ。奥には大きな屋敷も見えた。
「ここがオーグとフォーレンのいる屋敷…。」
「うむ。2つ大きな魔力が見えるの。」
「…行こう。」
唇をグッと噛み締め緊張した面持ちでヴィオレットは歩き出す。
こんなに緊張するのはいつぶりだろうか。
こういう時に緊張して大変になるのはマリーだった。自分より慌てている人がいると冷静になるように、ヴィオレットはマリーがあれほど緊張していたから平気で居られたのだと自覚する。
優しい幼馴染。守っているつもりでヴィオレットはいつだって彼女に守られてきたのだ。零れそうになる雫をどうにか止めるためにヴィオレットはただ機械的に足を進める。
「…要件は分かりきっていますが、敢えて問いましょうか。何をしにここへ?」
音もなく現れた魔族に、ヴィオレットもジャヴィも驚かない。魔族もまたそれを想定していたのか、冷ややかに2人の方を見て溜息を吐くと、そう告げた。
「フォーレンと話がしたいの。」
「それを私が許すとでも?」
「お願い。」
ヴィオレットはオーグをじっと見つめる。その視線にオーグは鬱陶しげに眉を顰めた。
「人間はいつも身勝手ですね。フォーレンと会って話をして、それでどうするのです。フォーレンを生贄にあの人間を助けると言うのならその身体を引き裂いて差し上げますよ。」
言いながらオーグの殺気が膨れ上がる。
「そんなつもりは…!」
「我はエルフだが。」
ヴィオレットの声に被さるようにジャヴィが告げる。
呆気にとられたヴィオレットはジャヴィの名前を呼ぶ事しか出来ない。
「ジャヴィ…。」
「引きこもりエルフがなんの用ですか。大人しく森で過ごしていればいいものを。」
「ヴィオレットに興味があった故。」
「勇者に?今まで見向きもしなかったくせに何を言っているのか。その小娘が特別だとでも言いたげですね。まぁ私にはどうでもいいですが。…とにかく、お帰りください。私はフォーレンを貴方達に会わせるつもりはありません。ここで殺さないだけありがたいと思っていただかないと。」
「それは出来ない。フォーレンに会わせてもらうまで、私は帰らないわ。」
「…聞こえなかったんですか?私は帰れと言ったんですよ。」
「帰らない。」
「帰れ。」
「帰らない!」
「«雷鳴»」
オーグがヴィオレットの真横に魔法を打ち出す。しかしヴィオレットは怯まない。ただまっすぐにオーグを見つめる。
「殺されたいんですか。」
「マリーを助ける為にはフォーレンの協力が必要なの!だから絶対帰らないわ!」
「ハッ、どこまでも自分本位な人間ですね。弱いくせに傲慢で、都合のいい時ばかり仲間であるような顔をする。本当に、吐き気がします。何故人間如きの為にフォーレンが…!」
バチリバチリとオーグの周りで音が鳴り出す。肌を突き刺すような空気に、ジャヴィはそっと手に光を灯す。
緊張が頂点へと達するその瞬間、オーグが体勢を崩す。その首には細い腕が回されていた。
「はーいストーップ。ベイビーちゃんは本当に私のこと好きね。」
くすくすと笑って姿を表したのは、フォーレンだった。
「私めっちゃモテモテじゃん。ウケる。」
いつもの調子でそう言ったフォーレンは、ヴィオレットとジャヴィを見て、艶やかに微笑んだ。
「お土産、ちゃんと持ってきてくれたぁ?」
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