主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

映る世界

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ふっと意識が浮上する。どうやらヴィオレットは眠っていたようだ。真っ暗な視界の中で、何かがぼんやりと光っている。起き上がって確認すれば、それは『暗闇写し』だった。

「………?」

暗闇しか映さないそれに影が動く。警戒しながらも慎重に近付けば、何処かの風景が映っているように見えた。
ヴィオレットがそれを確認した途端、視線に気付いたように映る景色が変わった。 
ヴィオレットの目が見開かれる。だって、だって、そこに映っていたのは、あぁ、そんな、

「…マリー?」

誰かと部屋の中へと駆けていく姿。髪。走り方。瞳。見間違えるはずもない。紛れもなく、彼女であった。

ヴィオレットは映っているのがマリーゴールドだと確信すると無我夢中で駆け寄る。

「マリー!マリー!!!」

衝動のまま『暗闇写し』に手を伸ばす。当然、その手は阻まれ届かない。この様子ではきっと声も届いていないのだろう。
ヴィオレットは魔力を奪われ、やっと我に返った。そして気付く。マリーが誰と一緒に居たのかを。
なぜならヴィオレットはその人物を知っていた。知っていたからこそ、分からない。どうして彼とマリーゴールドが共に映っているのか。否。どうしてマリーゴールドのそばに彼がいるのか。

「どうして……。ねぇ、マリー、どこにいるの…?何が起こっているの…?」

ヴィオレットの声が震える。

「なぜ、そこにいらっしゃるのですか、初代国王ルーク・アリスティレリア様…。」

ヴィオレットの声に反応したように、光が部屋全体に広がる。咄嗟に目を閉じたヴィオレットの耳に、その音は鮮明に聞こえてきた。

『早く…!早く治療しないと…!』

『っ、ミヨ…!』

『彼のものの傷を癒せ。«ヒール»』

マリーゴールドが倒れていた女性を抱き起こし、回復魔法をかける。だが、適正の無いマリーゴールドでは初級が限界だ。だからマリーゴールドは何度も何度も呪文を唱えた。

ミヨと呼ばれた女性が何者であるのかヴィオレットには分からなかった。だが、繰り広げられる2人の会話からルークの妻であることと危険な状態であることが判明した。

「ミヨ…?聞いたことない名前。ルーク様が結婚していたことさえ私は知らなかった…。どういうこと?」

ヴィオレットは映し出されるものをただ見つめることしか出来ない。これが偽物か本物か。ヴィオレットには分からないからだ。なぜなら初代魔王の物語は御伽噺でしか語られない。それも、魔王になる直前と、眠りにつきお役目を担っている場面、それから勇者に倒される時のみに限定される。

王家の始まりの血。特別な魔力を持って生まれた人。精霊に愛され、世界を救うために眠りにつき魔王となり、そして魔に染まり勇者に倒されたこと以外の情報が無いのだ。その血が脈々と受け継がれているというのならば、妻がいて当たり前だというのに。

「…なにが、どうなっているの?」

回復魔法をかけ続けるマリーゴールドの顔色が青ざめていくのを、ヴィオレットは苦しそうに見ていた。


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