111 / 122
君が、私を、目覚めさせた
わたしのつえ*
しおりを挟む
沢山の言葉が私の頭の中を掻き回す。痛いどうして嫌だなんで私が何故やめてお前のせいだいきたい苦しい怖いかなしいお前のせいだごめんどうして死にたくないいやだお前のせいだなんで許しを駄目何故怖い殺した恨めしいお前のせいだ憎らしいだれか──────助けて。
「!!!」
暗闇の中に人の輪郭を見た。しかしすぐに渦の中に消える。
声がうるさい。フラフラと揺れていた光は私の手をすり抜け、小さな粒子となって散っていった。その煌めきはまるで闇を洗い流しているようで…
「精霊…?」
一瞬だけ見えた透明の小さな羽が私の頬を掠め消える。心做しか右腕が暖かくなった気がした。
そうか。ならば。
私は中心に向かって腕を伸ばす。
「ルークさん!」
私の手が何かを掴んだ。重く、冷たいそれはゴムのような弾力をもって私に伝わる。
人だ。
「う、ぐっ…!」
明らかに力の抜けている身体に背筋が凍る。しかしここで怯んでなどいられない。私は身体ごと流されそうになりながらも己の方へと引き寄せ渦の外へと連れ出す。魔法を使えばよかったと気付いたのは、無事引き上げた後の事だった。
「っはぁ…はぁ…。ルークさん!」
微かに光を纏う身体に向き直り、名前を呼ぶ。しかし目は開かない。呼吸も、止まっているようだった。
「…ルークさん。」
いつの間にかあれ程聞こえていた言葉の濁流がピタリと止んでいた。代わりに呆れたような声が降ってくる。
「初代を引き揚げたか。なんともはや無茶をする。ふむ、そうだなこれならば…いや、しかし…。」
「? 初代勇者さん…?」
しばらくの沈黙が流れる。
何をすることも出来ずにじっとしていると、声はまた話を始めた。
「其方、魔道士か?いや聞いたところで答えは聞けん。其方が魔道士ならば己の杖を喚べ。杖を持たぬ者ならば其方の思い描く杖を頭に浮かべろ。喚び方を知らぬ者も同様にするといい。」
「杖を…?」
突然のことに驚くも、何か意味のあることなのだろう。私は言われた通りに、ルークさんに作ってもらった大切な杖を頭の中に描く。
「杖は導だ。魔法を使う時、大きな助けとなる。杖の想像は出来たか?では目を閉じそれを見る己の姿を思い描け。細部まできちんと見ろ。それら一つ一つが其方の為のものなのだから。」
目を瞑り、言葉をなぞらえてイメージする。木を削り出しヤスリ掛けられ作り上げられた私の杖。その意匠はルークさんの祈りの形だ。嵌め込まれた翠の石はきっと、私の願いで。
「その触感はどうであったか。つるつるしている?ゴツゴツしている?冷たいか、ほんのり暖かいか。指の余り具合はどうだ?ぐるりと1周できるか否か。もしかしたら片手では厳しいかもしれんな。大きさはどのくらいだ?其方の背を越すか、それとも腰より低いか。重さはそうだな、軽いかもしれぬし重いかもしれぬ。己の杖だ。知っているだろう。………さぁ、両手を前に出し、目を開けろ。」
ゆっくりと目を開ける。
「«召還»」
それは声とともに現れた。杖だ。嵌め込まれた輝く石と彫られた模様が、間違いようもなく私の杖であると告げる。驚く間もなく重力と共に落ちる。慌てて手を伸ばし、それを掴んだ。
「私の、杖…。」
「よし。残滓でもこれくらいならば出来るらしい。其方にはやってもらいたいことがある。」
「やってもらいたいこと?」
声が告げる。
「其方、2度死ぬ覚悟はあるか?」
「!!!」
暗闇の中に人の輪郭を見た。しかしすぐに渦の中に消える。
声がうるさい。フラフラと揺れていた光は私の手をすり抜け、小さな粒子となって散っていった。その煌めきはまるで闇を洗い流しているようで…
「精霊…?」
一瞬だけ見えた透明の小さな羽が私の頬を掠め消える。心做しか右腕が暖かくなった気がした。
そうか。ならば。
私は中心に向かって腕を伸ばす。
「ルークさん!」
私の手が何かを掴んだ。重く、冷たいそれはゴムのような弾力をもって私に伝わる。
人だ。
「う、ぐっ…!」
明らかに力の抜けている身体に背筋が凍る。しかしここで怯んでなどいられない。私は身体ごと流されそうになりながらも己の方へと引き寄せ渦の外へと連れ出す。魔法を使えばよかったと気付いたのは、無事引き上げた後の事だった。
「っはぁ…はぁ…。ルークさん!」
微かに光を纏う身体に向き直り、名前を呼ぶ。しかし目は開かない。呼吸も、止まっているようだった。
「…ルークさん。」
いつの間にかあれ程聞こえていた言葉の濁流がピタリと止んでいた。代わりに呆れたような声が降ってくる。
「初代を引き揚げたか。なんともはや無茶をする。ふむ、そうだなこれならば…いや、しかし…。」
「? 初代勇者さん…?」
しばらくの沈黙が流れる。
何をすることも出来ずにじっとしていると、声はまた話を始めた。
「其方、魔道士か?いや聞いたところで答えは聞けん。其方が魔道士ならば己の杖を喚べ。杖を持たぬ者ならば其方の思い描く杖を頭に浮かべろ。喚び方を知らぬ者も同様にするといい。」
「杖を…?」
突然のことに驚くも、何か意味のあることなのだろう。私は言われた通りに、ルークさんに作ってもらった大切な杖を頭の中に描く。
「杖は導だ。魔法を使う時、大きな助けとなる。杖の想像は出来たか?では目を閉じそれを見る己の姿を思い描け。細部まできちんと見ろ。それら一つ一つが其方の為のものなのだから。」
目を瞑り、言葉をなぞらえてイメージする。木を削り出しヤスリ掛けられ作り上げられた私の杖。その意匠はルークさんの祈りの形だ。嵌め込まれた翠の石はきっと、私の願いで。
「その触感はどうであったか。つるつるしている?ゴツゴツしている?冷たいか、ほんのり暖かいか。指の余り具合はどうだ?ぐるりと1周できるか否か。もしかしたら片手では厳しいかもしれんな。大きさはどのくらいだ?其方の背を越すか、それとも腰より低いか。重さはそうだな、軽いかもしれぬし重いかもしれぬ。己の杖だ。知っているだろう。………さぁ、両手を前に出し、目を開けろ。」
ゆっくりと目を開ける。
「«召還»」
それは声とともに現れた。杖だ。嵌め込まれた輝く石と彫られた模様が、間違いようもなく私の杖であると告げる。驚く間もなく重力と共に落ちる。慌てて手を伸ばし、それを掴んだ。
「私の、杖…。」
「よし。残滓でもこれくらいならば出来るらしい。其方にはやってもらいたいことがある。」
「やってもらいたいこと?」
声が告げる。
「其方、2度死ぬ覚悟はあるか?」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる