主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

わたしのつえ*

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沢山の言葉が私の頭の中を掻き回す。痛いどうして嫌だなんで私が何故やめてお前のせいだいきたい苦しい怖いかなしいお前のせいだごめんどうして死にたくないいやだお前のせいだなんで許しを駄目何故怖い殺した恨めしいお前のせいだ憎らしいだれか──────助けて。

「!!!」

暗闇の中に人の輪郭を見た。しかしすぐに渦の中に消える。
声がうるさい。フラフラと揺れていた光は私の手をすり抜け、小さな粒子となって散っていった。その煌めきはまるで闇を洗い流しているようで…

「精霊…?」

一瞬だけ見えた透明の小さな羽が私の頬を掠め消える。心做しか右腕が暖かくなった気がした。

そうか。ならば。

私は中心に向かって腕を伸ばす。

「ルークさん!」

私の手が何かを掴んだ。重く、冷たいそれはゴムのような弾力をもって私に伝わる。

人だ。

「う、ぐっ…!」

明らかに力の抜けている身体に背筋が凍る。しかしここで怯んでなどいられない。私は身体ごと流されそうになりながらも己の方へと引き寄せ渦の外へと連れ出す。魔法を使えばよかったと気付いたのは、無事引き上げた後の事だった。

「っはぁ…はぁ…。ルークさん!」

微かに光を纏う身体に向き直り、名前を呼ぶ。しかし目は開かない。呼吸も、止まっているようだった。

「…ルークさん。」

いつの間にかあれ程聞こえていた言葉の濁流がピタリと止んでいた。代わりに呆れたような声が降ってくる。

「初代を引き揚げたか。なんともはや無茶をする。ふむ、そうだなこれならば…いや、しかし…。」

「? 初代勇者さん…?」

しばらくの沈黙が流れる。
何をすることも出来ずにじっとしていると、声はまた話を始めた。

「其方、魔道士か?いや聞いたところで答えは聞けん。其方が魔道士ならば己の杖を喚べ。杖を持たぬ者ならば其方の思い描く杖を頭に浮かべろ。喚び方を知らぬ者も同様にするといい。」

「杖を…?」

突然のことに驚くも、何か意味のあることなのだろう。私は言われた通りに、ルークさんに作ってもらった大切な杖を頭の中に描く。

「杖は導だ。魔法を使う時、大きな助けとなる。杖の想像は出来たか?では目を閉じそれを見る己の姿を思い描け。細部まできちんと見ろ。それら一つ一つが其方の為のものなのだから。」

目を瞑り、言葉をなぞらえてイメージする。木を削り出しヤスリ掛けられ作り上げられた私の杖。その意匠はルークさんの祈りの形だ。嵌め込まれた翠の石はきっと、私の願いで。

「その触感はどうであったか。つるつるしている?ゴツゴツしている?冷たいか、ほんのり暖かいか。指の余り具合はどうだ?ぐるりと1周できるか否か。もしかしたら片手では厳しいかもしれんな。大きさはどのくらいだ?其方の背を越すか、それとも腰より低いか。重さはそうだな、軽いかもしれぬし重いかもしれぬ。己の杖だ。知っているだろう。………さぁ、両手を前に出し、目を開けろ。」

ゆっくりと目を開ける。

「«召還»」

それは声とともに現れた。杖だ。嵌め込まれた輝く石と彫られた模様が、間違いようもなく私の杖であると告げる。驚く間もなく重力と共に落ちる。慌てて手を伸ばし、それを掴んだ。

「私の、杖…。」

「よし。残滓でもこれくらいならば出来るらしい。其方にはやってもらいたいことがある。」

「やってもらいたいこと?」

声が告げる。







「其方、2度死ぬ覚悟はあるか?」
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