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生まれてきた意味
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少しだけ――ほんの少しだけ、あの逞しい背中に近づけたような、そんな気がしていた。お茶の時間を設けてくれたり、右手に負った傷を異能で癒やしてくれるくらいには。それらが、どこか心の距離までも埋めてくれたように感じてしまっていた。
けれど、それは所詮、幻だったのだ。手を伸ばしても決して触れることの出来ない、儚く脆い幻影。
彼を見つめていたはずなのに、その実、本当の彼は何ひとつ見ていなかった。すぐ傍にいたと思っていたその距離も、結局は在りもしない幻に囚われ、自分ひとりが思い込んでいただけのことだったのだ。
なんと愚かで、滑稽なことだろう。“お飾り”であればいいと、彼は確かに告げていたというのに。それでも尚、もっと彼のことを知りたい、と手を伸ばした己の浅ましさが、今やっと胸に突き刺さる。幻に縋り、現から目を背けていた報いなのだと思えば、あの冷たい視線も、蔑みに満ちた嘲笑たちも、当然の帰結なのかもしれない。
ふと足元に、小さな白い花弁がふわりと舞い落ちた。俯けていた顔をゆっくりと上げ、リリアはガゼボの周囲に広がる花々を、ぼんやりと見やる。ぽってりと丸みを帯びた光沢のある緑の葉、朝霧のようにやわらかな純白をした大きな花房。辺り一面を埋め尽くすようにたっぷりと茂ったアナベルの合間を縫うように植えられた色とりどりのジニアが、しっとりとした夜風に撫でられるようにしてゆったりと揺れている。
ここが庭園のどこであり、どうしてこんな場所にぽつんと座っているのか、リリアはそれをまるで思い出すことが出来なかった。気付いた時にはもうここにいた、と、そう言った方が正しいだろう。
ルイスが大広間を出て行ったことも、その場にひとり置き去りにされたことも、ひそひそとした嘲笑に囲まれたことも、全て憶えている。クラリスが父である公爵を伴って駆け寄ってきてくれたことも、ユリウスがそっと耳打ちをしてくれたことも、ちゃんと。
けれど、記憶にあるのはそこまでだ。その先のことは、どれだけ頭の中を漁り回っても、見つけることが出来ない。どうやってあの場を辞したのか。どんな顔で、どんな足取りで歩いてきたのか。その全てが、薄い靄に包まれていて判然としない。
今頃大広間では、何事もなかったかのように舞踏会が続けられているのだろうか。どこか遠く、まるで水の底から見上げるような感覚でぼんやりとそう考えながら、リリアはゆっくりと顔を俯向け、膝の上に力なく開かれた右手に視線を落とす。異能によって元通りに癒やされた、右手。そして、静かに拒まれ、虚しく宙に浮いていた、右手。
「――あら、こんなところにいたのね」
蒼白い月明かりに照らされた静謐な世界に突如差し込まれた、冷たい声。
聞き覚えのあるその声が鼓膜に触れた瞬間、心臓がきゅっと縮まり、リリアは息を呑む。甘ったるく、どこか人を見下したような声音。それが誰のものであるかだなんて、振り返って確かめるまでもない。
「お姉様が落ち込んでいるんじゃないかって」
近づいてくる靴音は、石畳の上を爪先で弾くように軽やかで、愉しげだった。彼女がすぐそこにいるのだ、と、まるで思い知らせるようにふわりと漂う香水の匂いに呼吸を奪われ、息苦しい。心臓が、耳のすぐ裏側で、激しく脈打っている。
「私、とても心配していたのですよ」
すぐ真後ろで、ぴたりと足音がとまった。リリアは顔を上げることも出来ずに、ただ静かに、膝の上で微かに震える右手をそっと握り締める。「何故ここへきたの」だなんて、問うだけ無意味だろう。くすくす、と、頭上から落ちてくる小さな嗤い声が答えなのだから。彼女の狙いなんて、考えるまでもない。
「あんなふうに置いていかれてしまうなんて、私だったら、とても耐えられませんわ」
まるで慰めるような口調でそう言い、カトリーヌはわざとらしく、芝居がかった溜息を漏らす。けれどすぐに、「ああ、でも」と、納得したふうに声を弾ませた。舞台の上でスポットライトを浴びた役者のように、仰々しく。
「お姉様は、ただの“お飾り”でしたわね。お飾りの王太子妃様にはぴったりだったかしら」
薄刃のように鋭く尖ったその一言が、心の奥底に沈んでいた何かに深く突き刺さり、音もなく崩れ去ってゆく。それは散り散りになりながら胸のそこここを擦り、幾つものひどい傷を残しながら、腹の底にぽっかりと口を開けた虚の中へ沈む。黒い波紋を広げ、その薄い波が身体に触れる度、心臓がずくりと痛んで胸をきつく締め付ける。
「それにしても、殿下もお気の毒ですわね。お飾りに過ぎないお姉様とご一緒しなければならないなんて」
彼女の紡ぐ言葉のひとつひとつが、まるで花の香りに包まれた毒のようだった。優美に装われた悪意が、ひたひたと鼓膜に、頭に、沁み込んでゆく。返す言葉は、何もなかった。あるはずがなかった。彼女が告げているのは事実でしかないのだから。
「その美しいお顔だけでは、殿下のお心は動かなかったのですね。それなのに、まるで何かを得たつもりでお父様にまで逆らって……。きっと罰が当たったのですよ。ねえ、そう思いませんこと? お姉様」
噛み締めた唇が、微かに震えている。その震えが、頬の筋肉へ、肩先へ、少しずつ伝わってゆくのを、リリアは止めることが出来なかった。心の奥で、何かがじくじくと熱を帯びている。それは怒りなのか、悔しさなのか、悲しみなのか――もう自分でも分からなかった。
「でも、これで殿下もお分かりになったのではないかしら」
ふふっ、と、カトリーヌの愉しげな微笑が耳元でこぼれる。視線の先で、蒼白い月明かりが右手を冷たく照らしていた。仄暗い闇の中に、ぼんやりと浮かび上がるように。
なんとなく、彼女が次に発しようとしている言葉が脳裏を過ぎり、リリアはそっと目を伏せる。聞きたくない、と思った。どうしても聞きたくない、と。それを聞いてしまったらきっと、これまで少しずつ積み上げてきたものが、全てなかったことになるような気がして。
けれどそんなリリアの心情などまるで関係なく、言葉は容赦なく耳を打った。
「――役立たずのお姉様は王太子妃に相応しくない、と」
右肩にそっと手を触れさせながら、カトリーヌはくすくすと嗤った。吐息が耳朶を掠めるほどの、すぐ傍で。心底愉しそうに、悦に浸りながら。
「だってお姉様は出来損ないですもの。今のままでは殿下がお辛いだけですわ。皆さんもそう仰っていましたわよ?」
肩に触れていた爪先が、ぐっと皮膚に喰い込む。
「お父様にお願いして、私とお姉様の立場を入れ替えていただくのはどうかしら。ほら、私はお姉様と違って、多少なりとも世のことに通じておりますし、異能も持ち合わせていますもの」
異能。鼓膜を打ったその言葉に、ああ――とリリアは静かに自嘲をこぼす。心はひどく疼いているというのに、身体の端々からはすうっと力が抜けてゆき、妙な軽さが全身を包み込む。それは、どこか諦めにも似た感情だった。諦めと、それから、虚しさ。
あと一歩。指先が触れ合う寸前の、あの儚い間際。ルイスは、確かに見ていた。差し出された右手を。彼自身が癒やした右手を。――異能が発動するきっかけとなった右手を。揺らめく真紅の瞳で、じっと、静かに。
「その方が、殿下もきっとお心強いのではないかしら。そもそも、美しさだけしか取り柄のないお姉様が王太子妃に選ばれること自体、何かの間違いだったのですわ」
役に立ちたい、と思っていた。漸く花開いてくれた異能を用いて、ルイスの為に何かをしたい、と。ユリウスはああ言っていたけれど。それでも、どんなに小さな、些細なことでも良いから、ルイスの役に立つことが出来れば、と。何の取り柄もなかったはずの自分に、ただひとつだけ存在した“価値”だったから。
けれど――。握り締めていた右手をゆっくりと解き、薄く血管の透けて見える掌を見つめながらリリアは思う。彼の為に役立てたい、と、そう願った力で、彼の心に暗い影を落としてしまった。言葉にしてそう言われたわけではないけれど。しかし、あの時の瞳の揺れは、言葉以上に彼の気持ちを赤裸々にしていたと、今ならば分かる。
過去を勝手に覗かれて、快く思う人間はそういないだろう。しかも覗き視てしまったその記憶は、彼の心に深く刻まれた傷そのものだ。踏み入ってはならない領域に、そして、決して触れてはならない痛みに、無遠慮に足を踏み入れ、触れてしまった。
そんな人間を彼が受け入れないのは、至極当然のことだ。遠ざけられても、文句は言えない。それだけのことをしてしまったのだから。視たのが意図的だろうがそうでなかろうが、そんなものは少しも関係ない。
――お前なんて産まれてこなければっ……!
王太子妃に選ばれたことが、そもそも間違っていたと言うけれど。それはきっと、正しいようで正しくはない。“どこから間違えていたのか”というなら、それは間違いなく、“母の命と引き換えにこの世に生まれ落ちた時から”だ。何かを奪って生まれてきた、その時から、すでに。あの瞬間から、全てが狂ってしまっていたのだ。間違った方向に。
才能も価値も、何ひとつ持たない。唯一授かった異能でさえ、誰かを癒すどころか、傷つけてしまうものだった。そんな自分に、果たして生まれてきた意味などあるのだろうか。父が心から愛していたであろう母の命を犠牲にしてまで生まれたこの命に。誰も、何も幸せにすることの出来ない、役立たずの自分に。果たして存在する意味などあるのだろうか。
(馬鹿よね。そんなもの、初めからあるはずがないのに……)
けれど、それは所詮、幻だったのだ。手を伸ばしても決して触れることの出来ない、儚く脆い幻影。
彼を見つめていたはずなのに、その実、本当の彼は何ひとつ見ていなかった。すぐ傍にいたと思っていたその距離も、結局は在りもしない幻に囚われ、自分ひとりが思い込んでいただけのことだったのだ。
なんと愚かで、滑稽なことだろう。“お飾り”であればいいと、彼は確かに告げていたというのに。それでも尚、もっと彼のことを知りたい、と手を伸ばした己の浅ましさが、今やっと胸に突き刺さる。幻に縋り、現から目を背けていた報いなのだと思えば、あの冷たい視線も、蔑みに満ちた嘲笑たちも、当然の帰結なのかもしれない。
ふと足元に、小さな白い花弁がふわりと舞い落ちた。俯けていた顔をゆっくりと上げ、リリアはガゼボの周囲に広がる花々を、ぼんやりと見やる。ぽってりと丸みを帯びた光沢のある緑の葉、朝霧のようにやわらかな純白をした大きな花房。辺り一面を埋め尽くすようにたっぷりと茂ったアナベルの合間を縫うように植えられた色とりどりのジニアが、しっとりとした夜風に撫でられるようにしてゆったりと揺れている。
ここが庭園のどこであり、どうしてこんな場所にぽつんと座っているのか、リリアはそれをまるで思い出すことが出来なかった。気付いた時にはもうここにいた、と、そう言った方が正しいだろう。
ルイスが大広間を出て行ったことも、その場にひとり置き去りにされたことも、ひそひそとした嘲笑に囲まれたことも、全て憶えている。クラリスが父である公爵を伴って駆け寄ってきてくれたことも、ユリウスがそっと耳打ちをしてくれたことも、ちゃんと。
けれど、記憶にあるのはそこまでだ。その先のことは、どれだけ頭の中を漁り回っても、見つけることが出来ない。どうやってあの場を辞したのか。どんな顔で、どんな足取りで歩いてきたのか。その全てが、薄い靄に包まれていて判然としない。
今頃大広間では、何事もなかったかのように舞踏会が続けられているのだろうか。どこか遠く、まるで水の底から見上げるような感覚でぼんやりとそう考えながら、リリアはゆっくりと顔を俯向け、膝の上に力なく開かれた右手に視線を落とす。異能によって元通りに癒やされた、右手。そして、静かに拒まれ、虚しく宙に浮いていた、右手。
「――あら、こんなところにいたのね」
蒼白い月明かりに照らされた静謐な世界に突如差し込まれた、冷たい声。
聞き覚えのあるその声が鼓膜に触れた瞬間、心臓がきゅっと縮まり、リリアは息を呑む。甘ったるく、どこか人を見下したような声音。それが誰のものであるかだなんて、振り返って確かめるまでもない。
「お姉様が落ち込んでいるんじゃないかって」
近づいてくる靴音は、石畳の上を爪先で弾くように軽やかで、愉しげだった。彼女がすぐそこにいるのだ、と、まるで思い知らせるようにふわりと漂う香水の匂いに呼吸を奪われ、息苦しい。心臓が、耳のすぐ裏側で、激しく脈打っている。
「私、とても心配していたのですよ」
すぐ真後ろで、ぴたりと足音がとまった。リリアは顔を上げることも出来ずに、ただ静かに、膝の上で微かに震える右手をそっと握り締める。「何故ここへきたの」だなんて、問うだけ無意味だろう。くすくす、と、頭上から落ちてくる小さな嗤い声が答えなのだから。彼女の狙いなんて、考えるまでもない。
「あんなふうに置いていかれてしまうなんて、私だったら、とても耐えられませんわ」
まるで慰めるような口調でそう言い、カトリーヌはわざとらしく、芝居がかった溜息を漏らす。けれどすぐに、「ああ、でも」と、納得したふうに声を弾ませた。舞台の上でスポットライトを浴びた役者のように、仰々しく。
「お姉様は、ただの“お飾り”でしたわね。お飾りの王太子妃様にはぴったりだったかしら」
薄刃のように鋭く尖ったその一言が、心の奥底に沈んでいた何かに深く突き刺さり、音もなく崩れ去ってゆく。それは散り散りになりながら胸のそこここを擦り、幾つものひどい傷を残しながら、腹の底にぽっかりと口を開けた虚の中へ沈む。黒い波紋を広げ、その薄い波が身体に触れる度、心臓がずくりと痛んで胸をきつく締め付ける。
「それにしても、殿下もお気の毒ですわね。お飾りに過ぎないお姉様とご一緒しなければならないなんて」
彼女の紡ぐ言葉のひとつひとつが、まるで花の香りに包まれた毒のようだった。優美に装われた悪意が、ひたひたと鼓膜に、頭に、沁み込んでゆく。返す言葉は、何もなかった。あるはずがなかった。彼女が告げているのは事実でしかないのだから。
「その美しいお顔だけでは、殿下のお心は動かなかったのですね。それなのに、まるで何かを得たつもりでお父様にまで逆らって……。きっと罰が当たったのですよ。ねえ、そう思いませんこと? お姉様」
噛み締めた唇が、微かに震えている。その震えが、頬の筋肉へ、肩先へ、少しずつ伝わってゆくのを、リリアは止めることが出来なかった。心の奥で、何かがじくじくと熱を帯びている。それは怒りなのか、悔しさなのか、悲しみなのか――もう自分でも分からなかった。
「でも、これで殿下もお分かりになったのではないかしら」
ふふっ、と、カトリーヌの愉しげな微笑が耳元でこぼれる。視線の先で、蒼白い月明かりが右手を冷たく照らしていた。仄暗い闇の中に、ぼんやりと浮かび上がるように。
なんとなく、彼女が次に発しようとしている言葉が脳裏を過ぎり、リリアはそっと目を伏せる。聞きたくない、と思った。どうしても聞きたくない、と。それを聞いてしまったらきっと、これまで少しずつ積み上げてきたものが、全てなかったことになるような気がして。
けれどそんなリリアの心情などまるで関係なく、言葉は容赦なく耳を打った。
「――役立たずのお姉様は王太子妃に相応しくない、と」
右肩にそっと手を触れさせながら、カトリーヌはくすくすと嗤った。吐息が耳朶を掠めるほどの、すぐ傍で。心底愉しそうに、悦に浸りながら。
「だってお姉様は出来損ないですもの。今のままでは殿下がお辛いだけですわ。皆さんもそう仰っていましたわよ?」
肩に触れていた爪先が、ぐっと皮膚に喰い込む。
「お父様にお願いして、私とお姉様の立場を入れ替えていただくのはどうかしら。ほら、私はお姉様と違って、多少なりとも世のことに通じておりますし、異能も持ち合わせていますもの」
異能。鼓膜を打ったその言葉に、ああ――とリリアは静かに自嘲をこぼす。心はひどく疼いているというのに、身体の端々からはすうっと力が抜けてゆき、妙な軽さが全身を包み込む。それは、どこか諦めにも似た感情だった。諦めと、それから、虚しさ。
あと一歩。指先が触れ合う寸前の、あの儚い間際。ルイスは、確かに見ていた。差し出された右手を。彼自身が癒やした右手を。――異能が発動するきっかけとなった右手を。揺らめく真紅の瞳で、じっと、静かに。
「その方が、殿下もきっとお心強いのではないかしら。そもそも、美しさだけしか取り柄のないお姉様が王太子妃に選ばれること自体、何かの間違いだったのですわ」
役に立ちたい、と思っていた。漸く花開いてくれた異能を用いて、ルイスの為に何かをしたい、と。ユリウスはああ言っていたけれど。それでも、どんなに小さな、些細なことでも良いから、ルイスの役に立つことが出来れば、と。何の取り柄もなかったはずの自分に、ただひとつだけ存在した“価値”だったから。
けれど――。握り締めていた右手をゆっくりと解き、薄く血管の透けて見える掌を見つめながらリリアは思う。彼の為に役立てたい、と、そう願った力で、彼の心に暗い影を落としてしまった。言葉にしてそう言われたわけではないけれど。しかし、あの時の瞳の揺れは、言葉以上に彼の気持ちを赤裸々にしていたと、今ならば分かる。
過去を勝手に覗かれて、快く思う人間はそういないだろう。しかも覗き視てしまったその記憶は、彼の心に深く刻まれた傷そのものだ。踏み入ってはならない領域に、そして、決して触れてはならない痛みに、無遠慮に足を踏み入れ、触れてしまった。
そんな人間を彼が受け入れないのは、至極当然のことだ。遠ざけられても、文句は言えない。それだけのことをしてしまったのだから。視たのが意図的だろうがそうでなかろうが、そんなものは少しも関係ない。
――お前なんて産まれてこなければっ……!
王太子妃に選ばれたことが、そもそも間違っていたと言うけれど。それはきっと、正しいようで正しくはない。“どこから間違えていたのか”というなら、それは間違いなく、“母の命と引き換えにこの世に生まれ落ちた時から”だ。何かを奪って生まれてきた、その時から、すでに。あの瞬間から、全てが狂ってしまっていたのだ。間違った方向に。
才能も価値も、何ひとつ持たない。唯一授かった異能でさえ、誰かを癒すどころか、傷つけてしまうものだった。そんな自分に、果たして生まれてきた意味などあるのだろうか。父が心から愛していたであろう母の命を犠牲にしてまで生まれたこの命に。誰も、何も幸せにすることの出来ない、役立たずの自分に。果たして存在する意味などあるのだろうか。
(馬鹿よね。そんなもの、初めからあるはずがないのに……)
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