普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第8章 私の一番大切なもの

46 クリアが壊すもの

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「────すみません、話を戻しましょう」

 クリアちゃんのおぞましい一面に、みんなの表情はとても暗くなっていた。
 重くなってしまった空気の中、シオンさんは切り替えてゆっくりと話を再開した。

「クリアの行動原理のもう一つである、破壊活動。これはそのまま王都を中心とした街の破壊ですが、ここにも彼女の殺人行為が加わります」
「……? クリアは、気に入った身体を集めるために、人を殺しているのではないのですか?」
「ええ。しかし、意図的に殺しておきながら、収集を行なっていない殺人もあるのです。それは恐らく、こちらに分類される」

 アリアは少し顔を色を悪くしながらも、シオンさんの言葉にしっかりと食らいついている。
 その的確な問い掛けに、シオンさんはそこが問題だと頷いた。

「クリアの破壊活動は、一見衝動的なものに見えて、一つの方向性があるのです。それは恐らく、この国に対する否定です」
「クリアが破壊するのは、大体が国の主要施設だったり、象徴になるようなものだったりするんだよね。王都に関しては街並みそのものが象徴みたいなものだし、全般的に荒らされてたりしてる。アイツはきっと、この国そのものが嫌いなんだと思うよ」
「そういえば、さっきそんなことを言っていました……」

 ネネさんの言うことを聞いて、私はさっきクリアちゃんが言っていたことを思い出した。
 彼女は、この国が嫌いだと、なくなってしまえばいいと、そう思っていると言っていた。
 それは、魔法使いが統べるこの国は、魔女である彼女たちにとって行きにくい場所だから、ということなんだろうか。
 だとすれば、それはレジスタンス活動としては一応真っ当そうな理由ではあるけど。

「なるほど、そうはっきり言ってたのか。なら、やっぱりあの仮説も大分信憑性が増しくる。ね、姉様ねえさま
「そうね────彼女の破壊活動の目的の一つは、これもやはりアリス様のためでしょう」
「私、ですか……? あ、でも確かに、この国から私を解放するとか、そんなことも言っていたかも」

 この国を破壊することが、どう私のためになるのか、いまいちピンとこない。
 私がこの国のお姫様になって、縛られてしまっていると、そう思っているのだろうか。
 確かに、私は『始まりの力』を求められてお姫様になった。最終的には自分で決めたことだけれど、それは望まれたからであって、はじめから自分の意思だったわけじゃない。
 そういう意味では、魔法使いたちに求められたからお姫様にならざるを得なかった、という解釈もできるのかもしれない。

「先ほども言いましたが、彼女はよく暴れまわる最中に、あなたのことを口にしていました。あなたを、姫君という立場から解放して自由にしたい、とでも思っていたのでしょう」
「そうかも、しれません。クリアちゃんとは、私がお姫様になった後で一回会っています。その時色々悩んでいるって話をしたから、彼女は私がその立場に苦しんでいると感じたのかも……」
「ただね、これに関してはアリス様以外にも理由があるって、私たちはそう睨んでるんだよ」

 フムフムと頷きながら、ネネさんは言う。

「理由が他にも? クリアは、アリスのためってことだけで色々めちゃくちゃやってんじゃないのか?」
「まぁ基本はそうなんだけどね。国の破壊の点に関しては、それだけじゃ不可解な部分があるんだよ────まぁ、アイツの思考回路がそもそも不可解だけどさ────これは、もう一つの殺人理由が関わるんだよ」

 眉をひそめるレオに、ネネさんは肩をすくめながら答えた。
 その仕草は少しわざとっぽくて、努めて普通に話そうとしている気がする。
 顔色が少し悪くなっているのが気になった。

「クリアは多分、この国を否定したいって中でも、旧体制、つまり前女王を否定したいっていう意思があると思うんだ」
「女王様────私が倒した、あの……」
「そう。この国に悪政を敷き、好き放題に振る舞っていた、スカーレット・ローズ・ハートレス前女王。クリアは、この国の各所で破壊活動をする中で、前女王の名残があるものを特に重点的に破壊している形跡があるんだ」
「……………」

 七年前、私が戦いの末に打ち倒した、あのわがままの限りを尽くしていた女王様。
 確かに彼女は、自分勝手な暴君で、多くの人たちを苦しめていたけれど。
 でも、今も尚その面影を攻撃し続ける必要はどこにあるんだろう。

「そう当たりをつける理由はもう一つ。彼女が殺めている人間にあります」

 読めない思惑に戸惑っていると、シオンさんが言葉を続けた。
 少し表情が引き攣っている。

「クリアが狙って、意図的に殺めている人たちの中で、身体の収集をされていない者たち。その者たちは主に、生前の前女王に近しかった者たちなのです。そしてその中には、私たちの両親もいた」
「お母さんの方は、両手を持ってかれてけどね。でも、私たちの両親は二人とも王族特務だったから……」
「そんな……」

 目を伏せる二人に、私は傷ましさで胸が痛んだ。
 女王様に近しかったから、ただそれだけの理由で殺されてしまっただなんて、あまりにも理不尽だ。
 もちろんどんな理由だって許される者ではないし、身体を奪うって理由もあんまりだけれど。

 なんて声をかけて良いのかわからず、私は口籠ってしまった。
 あの酷い女王様の側にいたからという理由だけで殺されたなんて、辛すぎる。

「あの女王を止められなかったのは罪だと、そう断罪したいのか。はたまたお前たちも同罪だと、そう言いたかったのか。深いところはわかりませんが……それでも前女王に近しい者たちは、被害者の中にとても多い。魔法使いとはいえ戦闘に不慣れな者も多いですから、彼女のようなトリッキーな魔女に強襲されれば、防げなかった者も多いでしょう」

 辛そうに身体を丸めるネネさんの背中を摩りながら、シオンさんはポツリポツリとそう言った。
 女王様はその横暴っぷりからとても嫌われている人ではあったけれど、でもどうしてクリアちゃんがそこまで彼女を恨むんだろう。
 本人だけではなく、周りの人たちにまで手をかけるなんて、よっぽどの執念だ。
 けれど私が知る限りでは、クリアちゃんから女王様の話が出たことはない。

「ここからは、完全に私たちのだけの推測なのですが……」

 シオンさんも顔色は良くないのに、それでも話を続ける。
 自分たちの感傷よりも、情報を詰め、共有することを優先してくれているんだ。
 私たちは、黙って耳を傾ける。

「両親が王族特務であり、前女王と近い者だったからこそ、断片的に得られてた情報があります。それを元に、私たちが探りを入れた結果に出した仮説です。確証と言えるものはありませんが、私たちはこれこそが答えではないかと思っています。それに、アリス様からお伺いしたかつての彼女の様子も、補強材料になりました」

 シオンさんはそう言うと、ゆっくりと深呼吸をした。
 それを口にすることは、開けてはならい箱を開くことだと、そう言うかのように。
 自然と私は居住まいを正して、真っ直ぐに彼女に視線を向けた。

 少しだけ沈黙が流れて、やがて、シオンさんは意を決して口を開いた。

「私たちの読みでは、彼女は恐らく────前女王の娘です」
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